使用するデータの概要――企業データを用いた賃金分析

2024年06月12日

「データ分析からみえる、賃上げの効果と店舗運営 」では、賃上げが及ぼす採用と定着への効果について、定量分析する。一般に、賃上げをすれば、より多くの応募者が得られ、従業員の定着を促すことができると期待される。他方、人材の確保のためには、賃金以外の要素のほうが重要であるとの意見も聞かれる。実際に賃上げには効果があるのか。また、効果があるならば、どの程度なのだろうか。

本研究は協力企業から匿名化された人事データなどの提供を受け、リクルートが企画運営する求人メディアや公的統計と合わせてデータベースを構築した(※1) 。これにより企業の外部環境を考慮し、賃上げの効果を測定するという戦略を立てた。本コラムでは、データベースのなかでも主要なデータにあたる企業データについて概要を記載する。

企業データ

協力企業4社より、個人が特定されないよう匿名化された人事や財務のデータの提供を受け、リクルートワークス研究所内にてパネルデータを構築した。パネルデータとは、同一の対象を繰り返し記録したデータである。例えば、店舗を対象としたパネルデータでは、月別の募集賃金、応募者数、入社者数などの数値を店舗別・1か月ごとに入力してある。これによって、賃金の変化が応募者数や入社者数に与える影響を時系列的に分析できる。

企業データの概要は図表1に示した。協力企業の産業は、小売業と飲食サービス業である。4社合計で2,424店舗、分析対象とする期間における延べ店舗数にすると41,532店舗を数える。この間の応募者数は延べ226,387人、入社者数は延べ52,671人であった。また、定着の分析において対象とするパート・アルバイト従業員数は、延べ659,324名であった。対象の店舗は都市部が中心だが、42都道府県491市区町村と広い範囲が対象となっている。

図表1  企業データの概要
図表1  企業データの概要

以上、本コラムでは企業データの概要を記載した。企業数でいえば、4社のみであるものの、広範な地域にわたっている。リクルートが企画運営する求人メディアに掲載された約4,700万件のデータと合わせて分析することで、地域の労働市場の状況を加味して、賃上げの効果を測定することができる。次回コラムからは、実際の分析結果について論じていく。

(※1)本研究においては、協力企業よりデータのご提供や社内の取り組み内容について伺う機会を頂戴した。協力企業の皆様方には多大なるご協力をいただいた。深く御礼申し上げる。

小前 和智

東京理科大学理工学部工業化学科卒業、京都大学大学院工学研究科合成・生物科学専攻修了後、横浜市役所などを経て、2022年4月より現職。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。