企業が副業者から学び、自ら解決できるようになることが最終ゴール:とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点
一般社団法人とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点 サブマネージャー 角田祐輔氏
副業希望者が自分にふさわしい就業先を見つける、企業が自社の課題解決にふさわしい副業者を見つける、つまり、両者のマッチングはなかなかうまく行きません。そのための手段も限られています。そうしたなか、副業マッチングの公的サービスを行っている県もあり、その一つが鳥取県です。それはどのように行われているのか、今回、次回と2回にわたってお届けします。今回は、地方特化型の副業マッチングプラットフォームを活用する例を紹介します。
経営者が求める人材要件をどう言語化するか
― 最初に、とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点と、角田さんのお仕事について教えてください。
角田 当拠点は企業の成長を担う優秀な外部の人材を採用したい中小企業経営者のための拠点です。地方版ハローワーク「鳥取県立ハローワーク」の全県展開に伴い、鳥取県と内閣府が協調して実施する「とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」を一体化し、県立ハローワークの無料職業紹介機能と当拠点の人材スカウト機能を組み合わせた全国初のビジネス人材誘致のプラットフォームを構築しています。これまでに、新商品開発、販路開拓、海外展開など、県内企業が成長型企業経営に転換していくため、高度な専門性や豊富な経験を有する都市部のビジネス人材を移住就職や副業・兼業により数多く誘致してきました。
― 副業者に対して、どんなニーズを企業はもっているのでしょうか。
角田 よくあるのは、「やることが山積みで、何から手を付けていいかわからない」という相談です。そこで、地方創生に関わりたい、自己啓発に努めたいことを主目的とした副業人材にプロジェクト的に参加してもらい、経営課題解決のお手伝いをしていただくことはどうか、と経営者にお話しします。副業希望者のなかから、書類選考と面談を経て、スキルだけではなく、相性のいい人材を選んでいただくことができ、納得感をもってマッチングできる点が魅力です。
― マッチングは具体的にどのようなプロセスで行うのでしょうか。
角田 非常にアナログな方法ですが、私たちが各企業の経営者に架電することから始まります。お会いしていただける経営者へ直接訪問し事業説明を行い、課題抽出の後、副業人材活用のイメージを明確にします。ちなみに、多い月は120件の企業訪問を行います。そのうえで、経営課題を解決してくれる人材像を言語化するところまで一緒に取り組み、求人情報として掲載されます。その後の採用フローは一般的な採用と同じように書類選考、面談という流れで進めていきます。
経営者が求めていることを募集案件にどう落とし込むかが非常に重要で、1案件に複数の要件を盛り込んでしまうと、経営者の意識が分散してしまい課題感が薄れてしまう。かといって詳細に詰め過ぎると、ピンポイントの能力をもった人材しか応募してこず、課題解決や提案の幅が狭まってしまう。その辺りの調整を慎重に行っています。
副業希望者の職務経歴を重視しすぎない
― 応募者と面談をしていくうちに、依頼したい内容が変わるというケースはないのでしょうか。
角田 比較的多いように感じています。副業希望者は地方創生に関わりたい、自身の培ってきたスキルを還元したい、自己啓発に努めたいといったやりがいを目的とした前のめりで優秀な人材ばかりなので、面談自体が経営者の壁打ちの場となり、課題整理が行われ優先順位が変わることがあります。人によっては「私は求人に記載されているものより、こちらの課題のほうが得意ですから、お手伝いしましょうか」と、募集とは異なった内容でマッチングが成立するケースも一定数あります。また、県内の人材とは物事のとらえ方や発想が異なり、経験や成功体験も豊富、最先端の流行現象にも詳しい、そういった副業者の情報感度や視点の違いも経営者にとっては魅力です。
これは正社員採用との違いだと思いますが、副業は必ずしも同業種の職務経歴を必要としないと考えています。たとえば正社員の場合、営業職の採用基準は営業経験が最優先されますが、副業の場合は、コミュニケーション力と課題解決力に長けた人であれば、ほとんどの案件に対応できるのではないかと。よほど専門的な案件でない限り、特定分野のスキルや経験を必須とするものではないと思います。
― いざ副業がスタートした後、業務内容や契約形態が変わることもありますか。
角田 数としては少ないですが、副業のまま、双方合意のもとで、仕事内容とそれに応じた報酬を変えるケースはありますし、なかには正社員や顧問として採用される場合もあります。とはいっても、月3万円で副業としての関わり方が大多数を占めています。
― 3万円は決して高くないですね。
角田 そうですね。先に述べた通り、彼らはその報酬額よりも、仕事そのもののやりがいや、社会貢献意識で取り組んでいるようです。たとえば、昨年度マッチングされた副業者の事例では、大企業に就職したものの将来的に出身地である鳥取県に貢献したいと、その想いをどう実現していくか悩んでいたなかで、この鳥取県の副業案件を見つけたときに応募を決めたそうです。1つの企業にいるだけでは出会えないメンバーと働けること、それぞれの企業ならではの価値観やフレームワークがあるため、新しい視点での考え方や仕事の進め方について参考になる部分が多く、この取り組みをとても魅力的に感じているとお話しいただきました。
― 副業者を活用している企業がその人たちのやる気を引き出すために心掛けているようなことがあったら教えてください。
角田 短期、中期、長期と期間を区切り、それぞれで目標をしっかり定めているケースの多くがうまくいっているようです。そのため、初回の面談でしっかり目線合わせをする時間を設けてください、と企業側に伝えています。
副業者が助けてくれる、有益な提案をしてくれるという相手任せの感覚だと大抵うまくいきません。最初の面談では、求人情報に載せきれていないことをしっかり伝え、何をどうしてほしいのか、どんな動き、どんな関わり方を期待しているのかをこと細かに伝えてください、とお話ししています。
最終的なゴールは、鳥取県内企業が自ら課題を解決できるようになることです。仕事のノウハウや副業者の知見を還元してもらい、内製化することでかけがえのない資産になっていくと考えています。
経営者の期待値はなぜ上がってしまうのか
― 副業者がもっているノウハウを社内に還元するとなると、その副業者の相手をする担当者が経営者だけだと、心もとないですね。
角田 副業者との関わり方は各社それぞれになります。経営者が中心という企業もあれば、県内人材だけではできない成功体験をしてほしいという思いで、若手社員中心にプロジェクトを組まれたケースもあります。
― これまでに何かしらのトラブルのようなものは起きていませんか。
角田 トラブルというほどでもないですが、やる気満々だった副業者が業務開始後なぜかトーンダウンしてしまい、業務が中断、消滅してしまった例が数は少ないですが、あります。本業が忙しくなったり、自分の力不足を感じたり、事情がいろいろあるのでしょう。
― それは副業者側の問題ですね。逆に企業側が起因となった問題はどうでしょうか。
角田 あまりないですが、あえて挙げれば、副業者本人との対話不足のまま、これくらいやってくれるだろうと経営者が期待値を勝手に上げてしまい、結果的に思ったような成果を得られないというケースがありました。
― 期待値というのはなぜ上がってしまうのでしょうか。
角田 大都市在住の副業者は、鳥取県の経営者から見ると、スーパーマンに見えてしまうのではないかと。実際、とても優秀な人ばかりなので無理もないのですが、副業者はスーパーマンではなく、優秀なアスリートだと私は思っています。鳥取県の経営者は人とのつながりを大切にしている方が多いです。Aという課題をうまく成し遂げてくれた人なら、多少専門外ではあるけれど、Bという課題も大丈夫なはずだ、安心して任せられると思ってしまうのかもしれません。一方で、副業者の側も、期待されたから頑張ろうとやってはみたけれど、満足のいく成果を出せないという状況を生み出しかねません。そのためにも、今後も多くの新たな出会いの機会を設け、副業希望者と鳥取県内の企業の間をつなぎ、外部人材を活用する文化を醸成していきたいと思います。
聞き手:千野翔平
執筆:荻野進介