Case2 GitLab(ギットラブ)
フルリモートワークを導入するためのノウハウ、マニュアルを公開
本コラムでは、フルリモートワークを導入するためのノウハウをマニュアル化し、公開した米国GitLabのリモート・マネジメント術を紹介する。
●企業概要
【設立】 2014年
【本社所在地】 米国カリフォルニア州
【業種】 オープンソースのGitリポジトリ管理ソフトウェアを1万社超に提供
●実践しているリモートワーク、リモート・マネジメントの特徴
・世界67カ国で1,250人、全社員がリモートワーク
・フルリモートワーク導入に役立つガイド“GitLab's Guide to All-Remote”、リモートワークの原理原則を示したマニフェスト“Remote Manifest”、従業員向けのリモートワークマニュアル“GitLab Handbook”を作成し、公開している
●使用ツール
・Slack、Donut、Zoom、Google Docs、GitLab Issuesなど
オールリモートカンパニーGitLab
GitLabは、設立当初からオフィスをもたず、全社員がリモートで働く、オールリモートカンパニーである。定住する住居をもたず、旅をしながらコワーキングスペースやシェアハウスで仕事をしている社員もいる。
GitLabがフルリモートを始めた理由は、3つある。第1に、創業当時、CTOはウクライナ、CEOはオランダに住んでいたが、ソフトウェアを使ったリモートワークで簡単に共同作業ができたこと。第2に、同社が採用ターゲットとする人材が色々な国や地域に住んでいたこと。第3に、リモートワークでも社員の生産性は下がることがなく、個人の幸福度が高いこと。これらの理由から、GitLabは企業規模が大きくなった現在にいたるまで、オールリモートという形態を維持することにした。
リモートワーク・マニフェスト
GitLabは2015年に、最初の「リモートワーク・マニフェスト」を作成した。 マニフェストは、全社員がフルリモートで働くことから、働き方の価値観の原理原則を示したものである。
現在は、下記の9つのプリンシプル(原則)を掲げている。
1.本社所在地だけでなく、世界中から人材を採用して世界中で働く
(Hiring and working from all over the world instead of from a central location)
2.決められた勤務時間よりも、柔軟な勤務時間で働く
(Flexible working hours over set working hours)
3.口頭で説明するよりも、書き記して知識を記録する
(Writing down and recording knowledge over verbal explanations)
4.OJTよりも、プロセスを文書で記録する
(Written down processes over on-the-job training)
5.情報へのアクセスを統制するのではなく、情報公開と共有をする
(Public sharing of information over need-to-know access)
6.すべての書類は、トップダウンで管理するのではなく、公開して誰でも編集できるようにする
(Opening up every document for editing by anyone over top-down control of documents)
7.同期的なコミュニケーションよりも、非同期的なコミュニケーションを意識して行う
(Asynchronous communication over synchronous communication)
8.費やした時間ではなく、仕事の成果を重視する
(The results of work over the hours put in)
9.コミュニケーションチャネルは、非公式ではなく、公式で行う
(Formal communication channels over informal communication channels)
フルリモートワークガイド″GitLab’s Guide to All-Remote“
GitlLabは、リモートワークを成功させるコミュニケーションの活性化やカルチャーの醸成の仕方、職場環境の整え方、仕事の進め方などのノウハウをまとめたフルリモートワークのためのガイド“GitLab’s Guide to All-Remote”を、ウェブサイト上で公開している。以下に、その内容を簡単に紹介する。
リモート・マネジメント
GitLabでは、優れたリモート・マネジメントには自己認識力、共感力や思いやり、信頼が求められるとしている。
マネジャーは、自身が好むコミュニケーションスタイル、メンバーからの報告や提案のされ方を開示することで、スムーズなコミュニケーションが生まれる。
文字だけでのやり取りでは、気遣いや配慮がより一層に求められる。オンライン上ではメンバーの表情やボディランゲージが伝わりにくいため、主体的に「調子はどう?」と尋ね、状態を把握する必要がある。
また、メンバーがオーナーシップをもってタスクや目標に取り組み、細かく監督されなくても自律的に行動し、期日までに成果を上げると信頼することが必要である。
同社では、「イテレーション(改善の繰り返し)」の考え方を仕事の進め方にも取り入れている。マネジャーはメンバーに対し、タスクをスモールステップに分解し、未完成の状態でも躊躇せずに共有するよう繰り返しリマインドしている。
効果的なマネジメントを維持するため、マネジャーひとりにつき、メンバー数の標準を7人(4~10人)としている。その理由は、メンバーが3人以下になると、組織のレイヤーが増えて効率が悪化し、11人以上になると、マネジャーがメンバーと1対1で向き合う時間が足りなくなるためである。
マネジャーには、メンバーと定期的に1on1を行うことを推奨している。基本の形式は、1週間に1回で、1回あたりの時間は25分であるが、必要に応じて回数や時間を増やしている。
リモート・マネジメントモデルとの共通点
⇔ ジョブ・アサインメント for リモートワーク(以下、JA for RW) Point3 《権限委譲》
⇔ JA for RW Point4 《モニタリング》
⇔ チーム・マネジメント for リモートワーク(以下、TM for RW) Point2 《ワークサイトにおける作法の策定》
⇔ TM for RW Point3 《仕事の進捗管理》
⇔ TM for RW Point5 《メンバーの異変に気付く》
リモートチームの成果評価
GitLabは、会社のカルチャー、社内コミュニケーションについてのガイドライン、業務の進め方、パフォーマンスの評価方法、給与査定の方法など、ルールや蓄積されたノウハウをすべて参照できる従業員マニュアル“GitLab Handbook”をウェブサイト上で公開している。この中で、「成果」「コラボレーション」「効率性」「透明性」「ダイバーシティ&インクルージョン」「イテレーション」の6つを会社のバリューとして掲げている。
社員の評価は労働時間ではなく、成果をもとに行っている。成果で社員を評価するため、労働時間の記録や監視は行わない。時間は社員が自分自身で管理する。一日の過ごし方に厳格なルールはなく、会社は社員が正しい行いをすると信頼している。メンバーの休暇の予定表は共有されているため、誰が不在なのかは、誰でも簡単に確認できる。「メンバーの長時間労働が懸念される場合以外は、マネジャーは労働時間について言及してはいけない」と同社のCEOは述べている。
リモートワークでは、マネジャーは求める結果や測定する成果指標をメンバーにより明確に伝える必要がある。
GitLabでは、成果とは同僚、カスタマー、ユーザー、投資家への約束を果たすことを意味する。たとえば、カスタマーの満足度向上に貢献した、チームメンバーの助けになった、製品に搭載できるプログラミングコードを作成した、チームの目標達成に貢献したなど、社員が何を達成したかを重視している。
四半期ごとに、各部署やチーム別の「目標と主要結果(OKR)」を設定し、それをハンドブックに明記し、全社員に公開している。そして達成度を毎月全社で共有している。これにより、他のチームが目指す目標について理解が深まり、チーム間での協力やサポートが生まれる。
社員には、与えられたタスクのオーナーとしてイニシアチブをもって問題を想定し、課題を解決することを求めている。自身では解決できないことが発生した場合は、積極的に質問し、同僚や上司からアドバイスや助けを得ることを強く推奨している。
リモート・マネジメントモデルとの共通点
⇔ JA for RW Point1 《シミュレーション》
⇔ JA for RW Point5 《互助》
⇔ JA for RW Point6 《危機管理》
⇔ JA for RW Point7 《完了確認》
⇔ JA for RW Point8 《成果共有》
⇔ TM for RW Point3 《仕事の進捗管理》
コミュニケーション
GitLabの社員は67カ国に分散しており、時差があるため、社員が効率よく働くには、コミュニケーションを明確にすることは特に重要だとしている。同社では、Slackやメールなどを使った、「テキストによる」「非同期型の」「英語による」コミュニケーションを基本としている。非同期を前提とすることは、相手と自分自身の時間を尊重することになる。他者の作業の邪魔をせず、作業の時間帯が異なるメンバーに時間外労働を強要しないことが重要である。
“GitLab Handbook”では、テキストでコミュニケーションする際に気をつけるべき点のひとつとして、相手が内容について何も知らないことを前提とし、できるだけ多くの情報を、わかりやすく伝えるようにと明記している。
テキストによるコミュニケーションに慣れ、また効果的に行うには、メンタリティを切り替えることが必要である。リアルなオフィスでの対面での会議や会話による情報共有が当たり前だった人にとっては、やりにくさや違和感が生じることも踏まえて、同社では、テキストによるコミュニケーションの習得を、長期プロジェクトとしてとらえている。
リモート・マネジメントモデルとの共通点
⇔ TM for RW Point1 《「ワークサイト」というバーチャルな職場の設計》
⇔ TM for RW Point2 《ワークサイトにおける作法の策定》
⇔ TM for RW Point3 《仕事の進捗管理》
ミーティングルール
GitLabでは、会議の設定はデフォルトではなく、オプションとして考えている。自社のコラボレーショ促進製品GitLabなどを活用することで、会議の回数を少なく抑えている。
ミーティングに欠席した人にも情報を共有している。ディスカッションの内容、決定事項などを、Google Docsに記録しており、参加者も議事録にメモなどを追記できる。記録をすることで、解釈のばらつきを減らし、会話から取り残される人をひとりも出さないこと、また多様な意見や視点を認識することを重視している。
3回以上のやり取りが必要な時や、プロジェクトに関する資料の画面共有、問題への対処や誤解の解消などが必要な場合は、Zoomによるビデオ会議を行うことを前提としている。
ビデオ会議を行う場合、大人数では場をコントロールするのが難しくなるという理由から、できる限り小規模(10人程度)での開催を推奨している。
リモート・マネジメントモデルとの共通点
⇔ TM for RW Point2 《ワークサイトにおける作法の策定》
⇔ TM for RW Point3 《仕事の進捗管理》
⇔ TM for RW Point4 《オンライン会議の生産性向上》
チーム活性化
社員同士の交流は、社内での信頼関係を育むが、リモートワークの環境では、リアルなオフィスでは当たり前に行われている気軽な交流や休憩室での雑談は、自然には発生しない。GitLabでは、リモートワークを推進するには、社員同士が業務外のトピックについても臆することなく質問や情報交換できる雰囲気を醸成し、インフォーマルなコミュニケーションを意識的に促進する必要があるとしている。
全社員に対し、毎週数時間を社員同士の交流に充てることを推奨し、会社として以下のさまざまなコミュニケーションを推進している。
1.全社ビデオ会議
トピック別にディスカッショングループが形成されており、社員は参加するグループを選ぶことができる。時差のある地域に住む社員でも参加できるよう、1日に複数回実施している。
2.ランダムなペアチャット
SlackにインストールするペアリングアプリDonutを活用し、ランダムに社員同士のペアを作る。ペアを組んだ社員はお互いの都合の良い時間に、1対1のビデオ通話でコーヒーなどを飲みながら、自己紹介や雑談を行う。
3.チーム別作業セッション
決められた時間に、チームのメンバーがオンライン上で集まり、協働して同じタスクに取り組む。それぞれ違う業務を行う場合もある。
4.ソーシャルアワー
Zoomを使ったランチ会やピザパーティ、経営幹部に自由に質問できる質問タイムなど、チームメンバーが、お互いのことをもっとよく知る機会を設けている。
5.Slackチャンネル
Slackに設けられた多数のテーマ別のチャネルのなかで、仕事や趣味など豊富な話題について共有している。仕事場からの景色の写真を紹介する#office-todayや、運動不足やストレスの解消に役立つ情報や成果を共有する#fitlabチャンネルなどもある。
以上のようなオンライン上でのコミュニケーション以外に、社員同士の絆を深め、会社のバリューの浸透を推進するため、年に1回社員が集まる6日間の合宿イベント“GitLab Contribute”を、地球上のさまざまな場所で実施している。これまでの開催場所は、南アフリカ、ギリシャ、メキシコなどである。経営幹部によるスピーチ、プレゼンテーション、ワークショップや研修、チーム別のセッションなど、さまざまなアクティビティが行われている。
合宿は、楽しみながらチームビルディングやGitLabコミュニティのメンバーと交流を行う場となっている。実際に会ってお互いをよく知ることで、さらに信頼関係が強化され、社内のコラボレーションが促進されると考えられている。この合宿イベントには、家族やゲストを同伴することもできる。
リモート・マネジメントモデルとの共通点
⇔ TM for RW Point6 《仕事外のコミュニケーション》
⇔ TM for RW Point7 《チームワークを高める非日常の演出》
リモート・マネジメントモデルとの共通点
出典:GitLab ウェブサイト
https://about.gitlab.com/company/culture/all-remote/being-a-great-remote-manager/
https://about.gitlab.com/company/culture/all-remote/guide/
https://about.gitlab.com/handbook/
「1200人以上の全社員がリモートワーク GitLabが公開するリモートワークマニフェストは何を教えているか?」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2003/02/news149.html
「社員全員が世界各地でリモートで働くGitLabはなぜ創業2年で160人まで規模を拡大できたのか?」
https://gigazine.net/news/20170213-gitlab-160-employee-management/
“Inside GitLab, the startup with the largest all-remote team in the world”
https://sifted.eu/articles/gitlab-remote-team-ipo/