自己申告と職変で、社員の目指すキャリアを実現:丸井グループ

2023年03月30日

丸井グループは年2回、社員が希望のキャリアを自己申告する機会を設けている。同社はまた「グループ間職種変更(職変)」というグループ会社間の異動を通じて、社員の変化対応力を育てようとしていることでも知られる。自己申告と職変を組み合わせた異動によって、社員にどのような変化が起きるのだろうか。

◆加山 洋善 氏
丸井グループ 人事部人事課 課長

バックキャスト型思考で、今やるべきことを明確に

丸井グループは4月と10月の定期異動で、毎回、社員の2~3割程が異動となる。異動の判断材料の一つとなるのが自己申告だ。
自己申告は①将来目指したいキャリア、②目指すキャリアに向けて、職変でチャレンジしたい職場、③次の定期異動で異動を希望するかしないか、の順に質問が提示され、それぞれ理由も聞いている。目指すキャリアという「ゴール」を設定し、そこから逆算して現時点の希望を出してもらうのだ。
「ステップを踏んで問いを投げかけることで、目指すキャリアがイメージしやすくなり、それを実現するために、今やるべきことは何かも明確になります」

人事部は、自己申告をベースに本人希望と異動先とのマッチングを行う。本人希望は、希望するグループ会社や職種をみており、定期異動において、多くの社員の希望に寄り添った配置を実現しているという。中には現時点で、目指すキャリアがはっきり描けない社員もいる。こうした人のために、自己申告の回答欄には「会社に一任する」という選択肢も用意されている。該当者については、会社側が本人の適性や経歴などを踏まえて、今回、異動したほうがよいのか、異動する場合はどの異動先がよいのかを検討する。同社は「グループ間職変」で異なる職場を体験してもらうことで、社員の新たな気づきを得る機会を増やし、発想力、変化を楽しむ力を育てるという人事戦略を採っている。

希望が叶わない社員へのフォローアップ

中には、会社側が積ませたい経験やキャリアと、本人の意向とが食い違い、希望が叶わない社員もいる。例えば本人は人事のプロフェッショナルになることを目指し人事部への異動を望んでいるが、会社側は、人事のプロを目指すためにも広い視野を持ってほしいと考え、経営企画部への異動を検討するといった場合だ。また幹部人材に関しては、本人希望と合わせて、経営陣が将来を見据えて、配置を検討するケースもある。
「たとえ希望が叶わなくても、異動先で本人の適性などが合致して、能力を発揮しご活躍されることもある。活躍を通じて、本人のモチベーションも維持できます」

また、希望が叶わなかった社員のエンゲージメントを保つには、アフターフォローが大切だと、加山氏は指摘する。グループ間職変をした方へのアフターフォローは、旧所属の上司から新所属の上司への引き継ぎや、異動後、新しい上司によるフォロー面談を行うなどして、今後のキャリアについて、考える機会を設けている。

新規事業の立ち上げに公募を活用

同社は、新規事業の立ち上げメンバーを集める場合などに、公募も実施している。募集内容は社内イントラネットに掲載され、希望者は志望動機やスキル、経験をもとに手を挙げる。応募者が定員を上回る場合は、必要に応じて書類選考や面接を実施する。

公募制度を導入している企業のなかには、人選を事業部に任せるケースも多いが、丸井グループでは人事部と連携しながら進めている。例えば、候補者は志望動機などに基づき、新規事業のリーダーや事務局が決めつつ、人事情報システムで管理している経歴やスキルなどを人事部と連携しながら、最終的に最適なメンバーを選定している。

「異動を通じて成長を支援」トップが社員と対話尽くす

丸井グループが、自己申告を踏まえた「グループ間職変」を実現できた理由の一つは、グループ14社の人事制度と給与体系を統一したことだ。「どの会社にいても、役職に応じた給与は変わりません。このためグループ間の異動も円滑に進みやすいのです」
もう一つは、自己申告の内容をはじめ職歴や評価、スキルなど、社員のキャリアに関する詳細な情報をデータベース化していることだ。定期異動でのマッチングなども、このデータベースなしには成り立たない。
「人事部の役割の一つは、自己申告のなかから目指すキャリアなど必要な要素を抽出し、データとして蓄積すること。さらに情報を引き出しやすいよう管理することです」
データベースの維持管理やシステム構築には、人事スタッフの労力だけでなく会社側も相応のリソースを投じる必要がある。こうした投資に対しても「グループ間職変は丸井グループの企業文化を体現する取り組みであり、それを支えるタレントマネジメントは必要です」と、加山氏は言う。

同社は2005年に青井浩社長が就任し、お客さまや社員との対話を重視しながら、店舗や組織の改革に取り組んできた。
「全社員が対話を重ねながら社員の成長が企業の成長だという理解を深めてきた結果、共通した認識がグループ全体に浸透したのだと考えています」

聞き手:千野翔平
執筆:有馬知子

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