第3回「対話型の学びが生まれる場づくり」研究会

2024年04月17日

前回の研究会では、学び支援として人事が関与できるフレームは「制度」「コンテンツ」「コミュニティ」「マインド・カルチャー」の4つにあると集約されました。最終回となる第3回研究会では、その議論をさらに深めています。明らかになったのは、4つの中核にはコミュニティが存在すること、そして、すべては相互関係にあり、循環しているということ。そのうえで、あらためて人事にできること、役割についても言及しています。

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<参加者紹介>
原田氏写真原田信也氏/丸井グループ 人事部長

店舗での販売、売場責任者を経験した後、本社でバイヤー業務、新ブランド開発、PB商品の開発などに従事。2021年より、「対話の文化」と「手挙げ文化」をべースとする創造型企業の実現に向けた人材育成・研修の企画立案に携わり、2024年4月より、現職。

 

三木氏写真三木祐史氏/旭化成 人事部 人財・組織開発室 室長
2019年、旭化成にキャリア入社。社員の挑戦や成長を支援する企業文化の強化に向けて、旭化成グループ全体の人財育成施策の企画・推進に取り組む。自律型学習プラットフォーム「CLAP(Co-Learning Adventure Place)や、新入社員を対象にした学びのコミュニティ「新卒学部2023」を始動させ、仲間とともに推進中。

 

望月氏写真

望月賢一氏/ソニーグループ 安部専務室 組織開発アドバイザー
ビジネスパートナー人事、製造事業所、合弁会社での人事総務を経て、2016年、ソニー人事センター長に就任。2020年からはソニーピープルソリューションズ代表取締役社長を歴任するなど、人事畑一筋。現在は安部専務室付きとして、組織開発、人事渉外関連を担当する。

 

山田氏写真

山田淑子氏/日本IBM テクノロジー事業本部 セールス・イネーブルメント部長 L&Kスクワッド リーダー
主に通信・メディア業界の営業力強化等のコンサルティング業務に従事し、15年以上にわたって人材育成に取り組む。2019年、全社横断でLearning&Knowledgeを推進するバーチャル組織「日本IBM L&Kスクワッド」が設立された当時から活動に参加、2023年よりリーダーに就任。

 

松本氏写真

松本雄一氏/関西学院大学 商学部 教授
北九州市立大学経済学部経営情報学科助教授、関西学院大学商学部准教授を経て現職。経営組織論、人的資源管理論を専門とし、主な研究テーマは「実践共同体(実践コミュニティ)による人材育成」。「実務家の間で『学びのコミュニティ』が一層広がるように」と考え、現在、実践共同体の入門書を執筆中。

 

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辰巳哲子/リクルートワークス研究所 主任研究員
リクルート入社後、組織人事のコンサルティングに従事した後、社会人向けのキャリア研修の開発を行う。研究領域はキャリア形成、大人の学び、学校の機能。2020年に「対話型社会の学び方を研究するプロジェクト」を発足、プロジェクトリーダーを務めている。

問い1.「対話型の学びの場」はどのようなものでありたいか?

辰巳:本プロジェクトでは、対話型の学びの場をつくるための一つの解として、コミュニティを取り上げています。これまでの調査・研究結果からは、多様な人との接点を持つ人の学び行動スコアは高く、さらに、それがフラットな対話型であるほうが、より学び行動に影響を与えることがわかっています。

図表 職場環境が自主的に学ぶ行動に与える影響

職場環境が自主的に学ぶ行動に与える影響

出所:リクルートワークス研究所「対話型の学びが生まれる場づくり」(P.20)

人々を結びつけるコミュニティは、その点において有効だと考えますが、そうしたときに、コミュニティはどういうものでありたいか、そこから議論を始めたいと思います。

松本:コミュニティ、我々でいう実践共同体はOJTとOff-JTに次ぐ第3の場所であり、創発を促進することができます。まず前提として大切なのは、参加者の誰もが自由に発言できること。特に初心者にとっては何でも尋ねられる環境が大事で、かつ、何かしらの役割を与えられたほうが入りやすいんですよね。

原田:入口としてはライトに入れるよう、ハードルを下げるというか、乗っかりやすさみたいなものは必要でしょう。そして、ポータブル的なテーマのほうが、多くの人が参加しやすいような気がします。

望月:コミュニティには公式、非公式の両方があるじゃないですか。会社がその存在目的を設定してスタートするものと、同じ関心事で集まった人々によって生まれる自発的なもの。後者、特に個人情熱運営型のコミュニティはサステナブルじゃない側面があって、じわじわと衰退していくケースがあるように思います。「このコミュニティでやっていることはいいよね」という認知や期待値を得られないまま終わるというか。

山田:それもいいと思うんですよね。興味のあるトピックについて皆で情報を持ち寄り、コミュニティでわーっと盛り上がって、大体知り尽くしたところで衰退していく。気軽に参加できるという点で、それもいいかなと。一方には、もっと深い目的意識を持って課題解決までもっていく、あるいはアウトプットをするといったコミュニティ活動もあるわけで、両方あることが大事だと思うのです。

望月:同感です。学びの意欲の着火につながるような緩いコミュニティと、明確な期待値やKPIの下で頑張るコミュニティ、どちらか一方じゃないという話ですよね。むしろ、シームレスなのかもしれません。実際、ソニーにも、自発的に生まれたコミュニティに会社のエグゼクティブスポンサーが付いて、公式化されたものがあります。

山田:IBMも同じです。また、逆もあって、タスクフォースとしての目的は達成したけれど、さらに持続したいということでコミュニティに移行して、活動が続いているパターンもあります。

松本:相互に発展したり、移り変わったりする仕組みがあると強いですよね。

三木:ちょっと視点は違うかもしれませんが、コミュニティは、会社に帰属する理由の一つになり得ると思うんです。会社という大きな円のなかに、小さな円・コミュニティがいっぱいあって、時々はみ出したりもする……そういうのがないと、個人がそこにいる意味って、なかなか見いだせないような気がして。

松本:そのとおりです。自分をどう捉えるかという認識の問題でもありますよね。日本の組織人の多くは、会社のなかに自分がいるというイメージで円を描きますが、外国人は逆なんですよ。自分のなかに会社やコミュニティがあるという感覚で円を描き、それらが関係し合っている。そういう絵を描けるようになると自律性も高まるし、自分は所属する組織での“捕らわれの身”みたいな誤った認識を持たずに済みます。自律的な個人とコミュニティがつながる接点は、ここにあるように思います。

望月:そこに学びがセットされれば、当然、自律的な学びの活動になりますよね。

山田:部門研修などでは仕事や役割、ゴールが共有できているけれど、学びの場合はそれが曖昧だったり、人によって捉え方が違ったりするので、だからこそ、コミュニティはインクルーシブでありたい。誰でもウエルカムですと。受け入れる器が大きくないと、コミュニティとしてうまくいかないでしょうね。

原田:上司も部下も関係ない、やはりフラットな関係性が肝になるように思います。

問い2.コミュニティはどう位置づけられるか?

辰巳:コミュニティは自律した個人が「そこにいる意味」を認識できる場所になり得る、そして、参加のハードルを低く設定することで個人にとっての居場所になり得る。皆さんのお話から、それが明確になったと思います。また、前回の研究会では、人事ができる学び支援のフレームとして、制度、コンテンツ、コミュニティ、そしてカルチャーと個人マインドの4つに集約されました。これまでの議論から、コミュニティはその中核に存在するものではないかと思いますが、いかがでしょう。

望月:制度、コンテンツ、マインド・カルチャーを通じて、中心にあるオポチュニティとしての「場」とコミュニティという「空間」をつくり出す感じでしょうか。先の3つを通じてオポチュニティを可視化して、誰でもアプライできるようなものにする。コミュニティにはならないケースもあるでしょうが、人事施策としてはあるような気がします。

山田:そうですよね。「コミュニティさえやっていればうまくいく」とはいえないし、それは違うと思いますから。それぞれ事情は違っていて、制度づくりに取り組まなければいけない会社もあれば、マインド・カルチャーの醸成に注力することでうまくいく会社もあるでしょう。私は、この4つを並列に扱いたいと考えています。というか、全部絡んでいるんですよね。

辰巳:従来の人事の視界って、制度、コンテンツ、マインド・カルチャーの3つでしたから、そこに、並列的にコミュニティの必要性を提言できるのは新しい視点だと思います。

三木:旭化成の場合は、コンテンツとコミュニティでもって、マインド・カルチャーを変えていこうとしているので、そういうアプローチもあるのかなと思って聞いていました。

山田:カルチャーが育ってきたら、コンテンツやコミュニティがさらに活性化していく……。循環といってもよさそうです。

望月:やはり、相互作用が働くんですよね。

松本:4つは相互に影響を与え合う、それは確かに新しく、いい視点だと思います。

原田:丸井グループでいうと、すべての仕組みが手挙げ制度に切り替わったのは、中期経営推進会議がきっかけでした。この会議への参加を手挙げ制にしたことで若手の参加が増え、場の雰囲気もガラリと変わったんです。そこからカルチャー醸成につながっていったので、順番はいろいろあっていいし、確かに循環しているんですよね。例えば、会社のなかに何か象徴的な場を一つつくって、既成事実とするという取り組みもあるかもしれません。ただ、マインド・カルチャーをある程度想定したうえでのコミュニティだとは思いますが。

望月:そうですね。コミュニティの持続を考えたときに、特にカルチャーの支えがないと弱くなってしまいますから。

松本:丸井さんや旭化成さんのように、まずコミュニティをつくってみることは有効で、さらに、4つのフレームがつながっているという意識を持って臨むことが大事ですね。

問い3.あらためて、人事が支援できることは何か?

辰巳:原田さんがおっしゃる「手挙げ」のように、何か一つ、象徴的なものをつくるというのは「変化の第一歩」になりそうです。コミュニティが活性化して、社内外から存在が認められれば、その後の変化が後押しされることもあるでしょうから。では、その既成事実をつくる、あるいは、コミュニティを形成することで小さな実験を始めるといってもいいかもしれませんが、その際に大事になることは何でしょう。ひいては、あらためて「人事が支援できることは何か?」という問いにもつながると思いますが。

三木:自分事として考えると、やはり人事パーソン自体に強い課題感がないと、どういった既成事実をつくりにいくかって難しいと思うんですよ。その組織にいて、会社をこう変えたい、もっとよくしたいという強い思いがあるかどうか……。それによって仕掛けも変わってくるでしょうし。

原田:どういった既成事実をつくったかという話をすれば、丸井グループの場合は、やはり先述の中期経営推進会議なんですよ。従前の会議は上意下達のムードが強く、途中で寝ている人もいましたと。これが強い課題感。IBMさんの既成事実でいえば「THINK40」だったり、土曜日も学べる機会だったりするのでしょうか。

山田:そうです。日本IBM 全体で学習を奨励する「学びウィーク」というラーニング・イベントは、普段は業務に追われてなかなか学びの時間がとれないという人のために始まった施策です。これによって「業務時間内・外に関係なく学ぶんだ」という文化が、より一層定着したように思います。

原田:そういった施策がブレイクスルーになって、既成事実化していくんですよね。

望月:最初はうまくいかないこともあると思いますが、人事の役割としては、そういったブレイクスルーを見つけて拡幅するというか、変化の先に大勢の人たちを案内できるよう環境を整えることだと思うのです。

三木:つまりは、促進・支援なんですよね。制度やコンテンツは「つくる」感覚に近いけれど、ことコミュニティに関しては、人事がつくればいいという話じゃないと思うんです。

望月:私も同じイメージです。コミュニティが生まれやすいようにする……でしょうか。

原田:直接つくるのではなく、コミュニティが生まれやすい場をつくる。

辰巳:その表現ですよね。これまでの研究会でも、コミュニティは促進・支援するもの、あるいは障壁になっているものを除くといった観点で議論してきました。

山田:全体像としては、自律的な学びが生まれるコミュニティが真ん中にあり、その周りには制度やコンテンツ、マインド・カルチャーがあると。それらはすべて関連しているから、双方向の矢印の関係だと思うんです。人事の役割としては、その循環を活性化させるために、周りにある3つを工夫していくということでしょうか。

三木:人事がやることって、まさに、その双方向の矢印の部分かもしれないですね。「制度つくったよ。終わり」じゃなくて、良質なコンテンツがあれば人を募る、動かす。そこからまたコンテンツが発展するよう支援するとか、全体のために制度やカルチャーに働きかけるとか……そんなイメージです。そのうえで、企業によって4つのフレームの整備度合いは違うでしょうから、それを整理したうえでアクションを起こせばいいのかなと。

辰巳:確かにそうですよね。これまでお話に出てきたように、4つのフレームは個々独立したものではないのだから、それらをどうつないでいくか。コンテクストをつくっていく感じなのだと思いながら聞いていました。

グラフィックレコーディングの画像

山田:先ほど三木さんがおっしゃったように、企業によってフレームの整備度合い、課題は違うんですよね。そのなかで、比較的多いと感じているのは、制度とコンテンツだけに取り組むケースです。フレームのつなぎ方はそれぞれでも、どこかにだけ偏ると循環は生まれません。やっぱり、制度、コンテンツ、コミュニティ、そしてマインド・カルチャーすべてが大事で、これらの好循環によって変革や成長が進むということなのだと思います。

辰巳:ありがとうございます。3回にわたる研究会を通じて、本プロジェクトのテーマに関する考察がより進みました。「対話型の学びが生まれる場づくり」に人事が関与できる4つのフレーム、コミュニティを中核とするそれらの関係性が明確になったと思います。この先に予定しているフォーラムでは、人事にできる4つの仕掛けを提言しつつ、対話型の学びの場づくりに関心や問題意識をお持ちの方々と一緒に、具体的なアクションについても議論を進めたいと考えています。登壇者としてご参加いただく皆さま、改めまして、どうぞよろしくお願いいたします。

執筆:内田丘子(TANK)
グラフィックレコーディング:原純哉(Sketch Communication)
撮影:刑部友康

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