第2項 「働く意識」は一人ひとり違う。どうすれば「私は、生き生き働けるのか」

2019年08月29日

「やる気」「満足度」「心理的居場所感」「幸福感」についての研究知見

人の「働く意識」についてはこれまでの研究から解明されていることも多い。
職務特性を研究したハックマンとオルダム(1975)は、仕事のやる気と満足度に影響を及ぼす仕事の要素として次の5つを挙げている。①技能多様性(求められるスキルの多様さ)、②タスク完結性(部分ではなく全体を把握できるかどうか)、③タスク重要性(他者に影響を与えるかどうか)、④自律性(仕事の進め方への関与)、⑤フィードバック(自身の実践の効果に関する評価)である。
 企業で働く人の心理的居場所感に関する研究では、「役割感」「本来感」「安心感」で構成される「心理的居場所」は、仕事のパフィーマンスにも影響を与えることが示されている。個人の持ち味を生かした働き方という観点からは、「強み」の発揮は、個人と他者に対する良好な関係性や達成、幸福感を予測する(Lopez&Snyder、2009)としている。
仕事に対して感じるポジティブで充実した心理状態についての研究、働くことの意味づけに関する研究、仕事の幸福感に関する研究からは、働くことを自分なりに意味づけることが、幸福感を高め、職務満足度を高めることがわかっている。そして、意味のある仕事かどうかということはあくまで個人の主観的な判断によるものであることが明らかになっている。

 

一人ひとり異なる「働く意識」

これら一連の研究は、「やる気」「満足度」「心理的居場所感」「幸福感」を高めるためにどのような要素が必要か、というヒントをくれる。しかし、「働きやすさ」も「働きがい」も、求める内容は、人によって異なるし、個人のキャリアステージによっても異なるものだろう。
「自由であること」「その仕事が好きであること」「楽しんでできること」「成長があること」「職場との関係性がよいこと」「お客さんの顔が見えること」「感謝されること」「自分の意見が反映されること」「自分にしかできない強みが発揮されること」「休みとのバランスがよいこと」など。「働きやすさ」と一口に言っても、勤務条件だけでは満たされない何かがそこにはある。労働時間やリモートワークなど、「働きやすさ」が改善される中で、「充実感」や「達成感」といったやりがいの改善は遅れてきた。仕事の意味や手ごたえを感じられないことに失望し、生きる気力をなくしていく人が増えている。このことこそが成熟した現代社会の特徴であり、仕事に意味や手ごたえを感じられないまま退職し、社会活動にその活路を求めるといった状況が生まれているのだ。
つまり、私たちは、「どうすれば、自分は生き生き働けるのか」ということを自覚していないのかもしれない。

コラム:働きやすさと働きがい

少し前の調査になるが、厚生労働省が平成26年に実施した調査がある。「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査」(厚生労働省,2015)によると、働きやすい会社群と働きやすくない会社群では、従業員の「意欲の高さ」においても「勤務継続意向」についても「会社業績の高さ」においても、圧倒的に前者が高いことが明らかになっている。

図1 「働きがい」「働きやすさ」と従業員の意欲との関係
2_1.jpg出典:「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査(従業員調査)」(厚生労働省,2015)

私たちは、この問題に対して、個々人によって異なる「個性の発揮」に焦点をあて、どのような要素が、個々人の「生き生き働く」ことを支えるのか、どうすれば「私は生き生き働けるのか」ということを研究する。 続く第2章では、「生き生き働く」に関する研究者たちに、専門分野からみた「生き生き働く」というテーマについて語っていただこうと思う。研究プロセスは今後随時ウェブ上で公開する。

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