組織の集まり方はどう変わったのか

2023年10月25日

2022年にリリースした『集まる意味を問いなおす―リアル/リモートの二項対立を超えて』では、対面かオンラインか、という議論に留まらず、「集まることの意味」をそもそも考えることの重要性に言及した。リモートワークが定着する中、企業は運動会や社員食堂のリニューアルなど、「集まる場」を再構築し始めている。本コラムでは複数回に分けて、企業の集まる場がどのように変わってきたのか、組織課題と集まる場の関係について改めて問いなおす。

4期目の見直しが進む「集まり方」

働き方改革、パンデミックの影響を受け、ここ数年、組織の「集まる」は大きな変化にさらされてきた。

パンデミックが一段落し、企業はリアル/リモートに限らず「集まる場」を再構築することに積極的だ。部活動や学習コミュニティの立ち上げ、食堂のスペースを見直したり、オフィスにテントを張って休憩時間に活用できるようにしたり、運動会を開催したり、社歌をつくった企業もある。その背景には、リモートワークを導入しつつ、分断した社内のネットワークの再構築やまったく新しいコミュニティの在り方を模索している企業の姿が見える。実際に企業の集まり方はどのように変わったのだろうか。

まず、コロナ禍以降の組織において「集まる」を取り巻く環境がどのように変化してきたかを振り返ってみよう。

第1期:大量離職時代
一部の企業では、働き方改革を進める中でリモートワークの導入が開始されつつあった。この時期、パンデミックによってコミュニケーションの在り方は大きく変化した。3密が避けられる中、集まる場は強制的にオンラインに移行した。この時期にはリモートか、リアルか、が話題の中心で、リモートで集まることの限界が議論された。

日常のコミュニケーションがオンラインに置き換わったことによって、これまでにも存在していたコミュニケーション不全の状態に気づき始めた組織もあった。部下の仕事が見えなくなったことによる、マイクロマネジメントが問題となり、部下や従業員の仕事に対して過剰な監視や細かい指示を行うマネジャーの存在が問題になった。マイクロマネジメントは従業員の自己決定力や創造性を奪うことにもつながる。パンデミック前からメンバーの帰属意識が既に低下していた組織では、離職者が増加した。

第2期:リテンション策の模索
オンラインを中心に、「組織に合った集まり方」の模索が始まった。オンライン飲み会を開催したり、リモートとリアルのハイブリッドワークを志向する企業では、「新たな社員の受け入れ」「かぶせあいの議論」などオンラインでは難しい一部の活動のみ対面での集まりで行うことを決めた。

この時期には、リモートワークを導入しない企業における採用が難しくなってきた。フルリモートで働けるよう各種制度を整備し、オンラインでのコミュニケーションを円滑にするためのコミュニケーションルールを言語化する企業も見られるようになった。

第3期:ハイブリッドワーク前提の集まり方戦略の構築
採用のためリモートワークの導入を余儀なくされる職種や業種が現れ、仕事の特性に応じて、ハイブリッドワークを前提とする集まり方の模索が始まった。ただし、その進め方は、職種や組織によって二極化した。ある組織では改めて組織の関係をどのようにしていきたいのかを言語化し、そのための「集まり方戦略」を従業員同志で考え始めた。斜めの関係の組織をつなぐコミュニティの場づくり、共通体験の場の見直し、目的のない雑談をオンラインで行うための工夫などを開始した。

一方で、目指したい組織の在り方についての議論がないままワークルールの改定に着手した一部の企業では、リモートを志向する一般社員と、職場に集まりたい管理職との間のコンフリクトが問題となり、集まる目的についての議論を欠いたまま、1週間のうちに出社する曜日を設定したり、出社比率をルール化したりする動きが見られた。

第4期:集まり方の見直し、協働システムの再構築
第3期で試験的に行われてきた自組織の集まり方について不具合の見直しや調整が進む。それと同時に組織を超えた集まりについての課題が表面化。対面も可能になった状態での他部署との交流、既知ではないメンバー間のつながりの仕組みを再構築するなど、組織としての新たな仕掛けが進む一方で、一部の企業では、個人間の自発的な相互作用の場をつくるための取り組みが進んでいる。

本コラムでは、第4期への移行に焦点をあて、企業がどのように組織課題を捉え、集まり方の見直しを進めてきたのか、データを基に議論を進めたい。第1回の今回は、2023年3月に実施した調査結果から、企業の抱える組織課題について取り上げる。

リモートワークの定着に伴う組織課題

調査対象者のうち、リモートワーク経験者にコミュニケーション課題について尋ねた(※)

図表1 リモートワークでのコミュニケーション課題図表1 リモートワークでのコミュニケーション課題結果を見ると、リモートワークで難しさを感じていることの上位5位は、「メンバーや同僚のコンディション不調に気づけないこと」「組織の一体感の醸成」「新入社員や中途入社者の育成」「新たな出会いの機会」「組織内の信頼関係の醸成」であった。

管理職と一般職に分けて分析した結果は図表2の通りだ。

図表2 リモートワークでのコミュニケーション課題(役職別)

図表2 リモートワークでのコミュニケーション課題(役職別)
リモートワークについて「難しいと感じることはない」のスコアが、管理職は13.5%、一般では25.1%と大きく異なることが示された。管理職のほうが引き続き、より困難さを感じているということだ。

項目中、大きなスコア差があったのは、「同僚やメンバーの仕事を管理監督すること」「メンバーや同僚のコンディション不調に気づけないこと」「新入社員や中途入社者の育成」である。

自由記述回答では以下が挙げられた。
・ちょっとした相談ごとや聞きたいことをすぐに聞けない
・OJTができない
・仕事以外のちょっとした会話がない
・顧客との信頼関係の醸成
・顔色がわかりづらい

ちょっとした相談ごとやOJTは、日常の仕事の背景や意味を埋める効果があった。例えば、組織としてその仕事をする意味は何か、なぜその優先順位なのか、この仕事の先に何があるのか、この仕事が生まれた背景は何か、なぜこの会社に入社したのか。隣にいた時にはこうした仕事や人としての「文脈」は無意識に交換されていた。しかし、このような文脈を埋めるための場を設けずにリモートワークの導入に踏み切った組織では、仕事は個人のタスクとして組織から切り離され、その組織で働く意味が感じられなくなってしまったのかもしれない。そもそもの目的について本質的な議論がないまま、情報共有の場をつくるだけでは、個人の孤独感を埋めることはできないし、信頼感も醸成されなければ、組織の一体感も醸成されることはない。

ではどのようにこの問題に対処すればよいのだろうか。
次回、職場の集まりの観点から、職場の信頼関係や一体感に影響する関係構築の在り方について見ていこう。

 

※調査概要
■調査名称:職場における集まることの調査
■調査目的:リモートワークの導入が進む中、日本企業の働き方の変化、職場コミュニケーションの在り方の変化を明らかにする。
■調査手法:株式会社インテージ社のモニターを用いたインターネットモニター調査。依頼人数25,736 名。
■調査時期:2023年3月22日~27日
■調査対象:三大都市圏にある従業員50名以上の企業で働くオフィスワーカー(職種が「管理的職業、専門的・技術的職業、事務的職業、営業職業」のいわゆるデスクワーカー)20-69歳。役職(管理職/非管理職)と従業員規模で割付を行った。
■回収数:有効回答数5,188名(有効回答率20.2 %)

調査設計協力:藤澤理恵(リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 主任研究員)

執筆:辰巳哲子

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