長く・快適に続けられるための工夫をして働く
谷口ちさ(NPO法人いろどりキャリア理事)
“終身雇用”後も働き続けるシニアは実際にどのような考え方で働いているのか。今回は調査の結果わかった実態を解説していこう。
図表1 調査対象者の概要
分析手法については、実態把握のための分析手法として質的統合法(KJ法)を選定している。11名のインタビュー逐語録を分析した結果が図表2の見取図である。当然ながら細かく見れば一人ひとりの職業選択や働き方に違いはあるが、同図表から仕事をめぐる“終身雇用”後のシニアの特徴を捉えることができる。
図表2 分析結果見取図
多くが長く働きたいという意識を持っている
まず、現役時代を振り返ると、彼らは総じて仕事に満足している。また、悠々自適な生活は性に合わないと感じるとともに、まだ働きたいという意欲を持っている。 “終身雇用”が終わった後、彼らの多くはすぐに仕事を見つけており、期限を決めずに働ける限り働きたいと考えている。
「(現役時代を振り返って)こんなに毎日テンション高く生きていたはずはないって自分で思ってるんです、今でも。でも、悪い時期ってなかった。要するに、悪いことあんまり思い出せないんですね」(G氏)
「65で完全に退職して、どちらかというと遊んでるのが好きじゃないので、すぐ次に何か自分ができる仕事を探そうということで転職をして。その期間は2カ月空いたか空かないかぐらいですね」(H氏)
また、長く働き続けるためには体が資本であることから、体力を維持するためにジム通いや長距離の散歩を日課にしたり、体力を温存するために自宅近くの職場を選んだりと工夫している。
「ここ(現在の職場)なら歩いて5分もかかんないでいいなと思って」(D氏)
「ウォーキングは1日1万から1万5000ぐらい。週5日は必ず歩くようにしてます」(C氏)
難度も給与も高くない「自己完結する仕事」
こうした気力・体力への意識を働く基盤としながら、彼らは“終身雇用”後の仕事として、難度が低く給与もそれほど高くはない「自己完結する仕事」を選択している。
現役時代と比較して能力の低下はさほど実感していないにもかかわらず、彼らの多くは現役時代のような挑戦を伴う仕事を選んでいない。この職業選択の背景には、二つのことが影響している。1つは、家庭経済そのものは年金や貯蓄などで賄えること、そしてもう1つは現役時代の経験により培われた仕事に対する価値観である。
現役時代の彼らにとってやりがいのある仕事とは「人に使われることなく采配を振ること」であり、働くモチベーションに影響を与えてきたのは「職場の人間関係」であった。彼らの選択した「自己完結する仕事」とはすなわち、職場の人間関係を最小限に抑え、自らの裁量で完結できる仕事である。そしてこれは彼らにとって、同じ場所で長く、快適に働き続けるための重要な条件でもあるのだ。
「最初は大変でしたけど、自分の裁量でいくらでもできるので、楽しくはないですけども生き生きと毎日働いてます」(F氏)
「やっぱり一人でっていうか、何ていうか、のんびりやっていけるこういう(自営業の)ほうが(略)自分にはあってるのかなっちゅう部分がありますね」(E氏)
ヒアリング調査からは、“終身雇用”後のシニアの姿として、働く気力と体力を維持し、能力を調整しながら現職に従事する様子が見えてくる。能力を最大限に発揮しないばかりか、現役時代と比較すると労働時間も短く、必然的に、現職の仕事への手応えを感じにくくなる。
人生を豊かにする手段としての仕事
ゆえにプライベートの充実に目が向き、その資金を稼ぐために働くという新しいサイクルが生まれる。したがって、「生き生きと働く」というように仕事を目的として捉えているというよりは、「人生全体を生き生きとさせる」ための手段として仕事を位置付けているというのが、実態であるといえる。
「もっとこれ以上手応えのある仕事を選ぶっていったら、また通勤も大変になるでしょう。新しい仕事をまた覚えるのもどうかなというのもありますし、できるだけ今の仕事で体力の続く限り続けていきたいなというふうに」(C氏)
「仕事自体というよりは、自分の趣味の世界も楽しめてるから、気持ち的には上がってるというパターンですね」(H氏)
最後に、2020年はコロナ禍の影響でこれまでどおり仕事ができなくなった人もおり、それが働く気力に影響を及ぼしていた。現役時代の語りにもリーマンショックの煽りを受けて気力低下を引き起こしていた事例があり、その多くは雇用以外の就業形態を選択していた方の経験であった。
「(コロナの影響でプロジェクトが中断したのでモチベーションが)落ちてますよね、多分」(A氏)
「やはりコロナの影響で今現在、(略)ちょっと生き生き私自身も働けてないのかなって」(I氏)
長く・快適に続けられるための工夫をして働く
インタビュー逐語録の分析から明らかになった内容は以上である。
まとめると、“終身雇用”後のシニアは、「長く・快適に続けられるための工夫」として、自身の気力・体力を維持しながら能力は最小限に抑え、効率化して働いている。さらに、仕事で感じにくくなった充足感をプライベートの拡充によって埋め合わせることで「人生全体として生き生きする」方向にシフトチェンジしている。
次回は、インタビュー対象者に事前に記入してもらったライフラインチャートを参考にしながら、転機(トランジション)の観点をふまえた“終身雇用”後の働き方を考察していく。