“終身雇用”後も働き続けるシニアはどのような意識で仕事をしているのか

2021年05月21日

谷口ちさ(NPO法人いろどりキャリア理事)

多くのシニアは定年退職や再雇用・継続雇用を経て長期間にわたり勤務した組織を去るが、その後も場所を変えて働き続ける人が増えている。
本研究における定量的な結果は「シニアの就労実態調査」で明らかになっているが、さらにその実相を定性的に捉えるためにインタビュー調査を実施している。

本シリーズでは、その分析結果をもとに、“終身雇用”を終えたシニアの職業選択、働き方、およびその背景にある意識について明らかにする。まず第1回目は、調査における問題意識とその概要を説明する。

「3ステージの人生」のその後

総務省統計局の労働力調査(※1)によれば、就業者数に占める雇用者数の割合(2020年平均)は約9割となっており、今もなお日本における就業形態の主流は「雇用」である。そして「シニアの就労実態調査」では、“終身雇用”後も働き続けるシニアの姿が浮かび上がった。

『ライフシフト』(※2)によれば「3ステージの人生」は教育・仕事・引退だが、今、引退後も引き続き働くことを選択するシニアが増えてきている。この変化は完全な「マルチステージの人生」とは言い難いものの「3ステージの人生」とも言い切れず、グラットン氏が提唱する「ライフシフト」が少しずつ起こっていると捉えることもできる。

ただし、日本における働き方の主流が雇用である以上、引き続き「3ステージの人生」を基盤としたキャリア形成が主流となる可能性が示唆される。つまり、本調査から見えてくる“終身雇用”後のシニアの働き方は、現役世代(※3)の雇用者の近未来と言い換えられる。『ライフシフト』は若い世代のための未来の物語ではなく、自らの人生に起こりえるということだ。本調査が、程度の差はあれ現役世代の雇用者にこれから訪れるであろう「マルチステージの人生」を生きるための考察の機会となれば幸いである。

調査概要:“終身雇用”後の働き方を調査する

インタビュー対象者の選定にあたり、60歳以上を対象に事前アンケート調査を実施した。質問項目「生き生きと働くことができている」に対し「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」と回答した方の中から、自由記述の内容などを加味して15名を選定し、インタビューを実施した。おおまかなインタビュー内容は、キャリアヒストリー、定年前の仕事、定年後の仕事および現在の仕事、定年前と定年後の変化(仕事の負荷、体力・気力・能力などの資質、仕事や生活に対する価値観など)である。

分析目的を「長期間従事した職務を辞した後も働き続ける理由やその背景にある価値観の実態を把握する」と設定したところ、分析対象者は11名となった。除外した4名は、定年時に在籍していた組織または関連組織において再雇用・継続雇用されているなどの理由から、分析目的に合致しないと判断した。なお、分析対象者の中には60歳時点で雇用以外の就労形態(フリーランス等)や無職の方も含まれるが、多様なキャリアを加味するため、対象とした。対象者の概要については以下の通り表にまとめたのでご参照いただきたい。

次回のコラムでは、“終身雇用”後も働き続けるシニアは実際にどのような考え方で働いているのか、その実態を解説する。

図表 調査対象者の概要調査対象者の概要

(※1)労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)平均結果 https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/index.html
(※2)リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット(2016)『ライフシフト 100 年時代の人生戦略』東洋経済新報社
(※3)このコラムにおいては学卒後から60歳までを指す。

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