【研究報告】地方創生の突破口は「新しい県人会」と「非営利の仕事創出」
リクルートワークス研究所では、2021年7月に3日間のオンライン・シンポジウムを開催しました。以下に、7月16日に行った「DAY3 地方を元気にする『オンライン関係人口』と『非営利の仕事』」の研究報告の動画とサマリーを公開します。
地方創生の突破口は「新しい県人会」と「非営利の仕事創出」(研究報告) リクルートワークス研究所 中村天江
研究報告資料: 「地方創生の突破口は「新しい県人会」と「非営利の仕事創出」」
幸せな人生に必要なのは「人とのつながり」
私たちリクルートワークス研究所は、3年前から「人とのつながり」をテーマに調査研究を行ってきました。2020年に実施した国際調査によって、2つのことが明らかになりました。
1つは、「人とのつながり」が豊かなほど、幸福感が高く、キャリアリスクを乗り越えられるということです。
もう1つは、日本は他の国に比べて、人間関係が少ないということです。例えば、人間関係の種類が、アメリカは6.4種類のところ、日本は4.6種類しかありません。日本は家族と職場に人とのつながりが集中しています。しかし、デジタル化や高齢化により、これからは家族と職場の人間関係があることは必ずしも当たり前ではなくなります。
では、人間関係としてどんなつながりが大切なのか。分析によってわかったのは、「ありのままの自分でいられて、共通の目的がある」人間関係が、人生を豊かにするということです。
この「ありのままの自分でいられて、共通の目的がある」人間関係をつくれるのが、労働組合やNPOといったキャリアの共助の活動です。
シンポジウム3日目である本日は、6つのキャリア共助(労働組合、協同労働、NPO、企業アルムナイ、地域アルムナイ、職業コミュニティ)のうち、協同労働、NPO、地域アルムナイと、地方創生の関係についてご報告します。
地方衰退の2大原因は「仕事の乏しさ」と「閉塞感」
ここで視点を転換して、今、地方がどんな問題に直面しているのか整理しておきます。国土交通省の調査によれば、地方から東京に人材が流出する原因は大きく分けて2つあります。1つは「仕事の乏しさ」、もう1つは「人間関係の閉塞感」です。
地方の仕事創出に対しては、これまでもさまざまな対策が講じられてきました。しかし、OECDは日本の地方の仕事創出力を0%と分析しています。
一方、この分析で首都圏以外の地域での仕事創出力が最も高いとされたアメリカには、ある特徴があります。それは、「非営利の仕事」で働く人が小売業、製造業に次いで3番目に就業者数が多いということです。
日本では仕事創出といえば、これまで、もっぱら営利企業の仕事が想定されていました。しかし、非営利の仕事も含めて仕事を創ることで、地域でも魅力的な仕事を増やすことができるのです。
NPOと協同労働という2つの胎動
なぜこのような提案をするかというと、私たちがキャリアの共助として注目したNPOや協同労働は、まさに非営利の仕事であり、しかもそれらが広がるタイミングにあるからです。
NPOは、法律が整備されてから20年以上たち、社会にずいぶんと根付きました。しかしNPOの数は約5万件で頭打ちです。このシンポジウムのDAY1に登場いただいた新公益連盟の藤沢烈さんは、「山積する地域の課題を解決するのには、NPOがあと10倍必要」と言っています。
一方、協同労働は、聞き慣れない言葉かもしれません。協同労働は、働く人たちが自ら出資者となり、経営方針を話し合って決め、自分たちで働く――雇用でも自営でもない第3の働き方です。全国954もの自治体で法律の早期制定の要望があり、2020年12月には法律が整備されました。
政府の「骨太方針2021」でも、「共助・共生社会づくり」としてNPOの活動促進や労働者協同組合法の円滑な施行が掲げられています。NPOや協同労働といった生活に根差した非営利の仕事が、地方創生の突破口になるのです。
オンラインで広がる地域との絆
また調査によって、地方から東京に転出した人たちも、東京出身者と同じくらい、出身地に愛着があることが分かっています。仕事の少なさや地方の閉塞的な価値観に嫌気がさして地元を離れたとしても、地域を愛する気持ちは変わりません。
これまでは、地域を離れると人との縁も切れてしまいました。しかし、オンラインでのコミュニケーションが普及したことで、地域とのつながりも、以前より保ちやすくなっています。
実際、SNS上には、全国各地の県人会コミュニティ(地域アルムナイ)が生まれています。これらのコミュニティは、年配者を中心とした従来の県人会とは別で、若い人たちが自分たちでつくり、運営しています。そしてそのコミュニティが、Uターンや新たな仕事のきっかけにもなるのです。
関係人口の拡大は、地方創生のための重点政策です。オンラインによって、軽やかで緩やかな、人とのつながりが生まれています。
執筆:中村天江