【事例紹介】ヤフーが挑む「モトヤフ」とのイノベーション

2021年10月19日

リクルートワークス研究所では、2021年7月に3日間のオンライン・シンポジウムを開催しました。以下に、7月9日に行った「DAY2 新たな人事施策「アルムナイ」と「職業コミュニティ」」の事例紹介の動画とサマリーを公開します。

ヤフーが挑む「モトヤフ」とのイノベーション(事例紹介)
ヤフー コラボレーション推進部長LODGE責任者 徳應和典氏


ヒト・コト・モノをつなぎ合わせる コロナ禍で運営方針を転換

私は新卒で旅行代理店に入社後、デザイナーとしてヤフーに転職し、2018年からヤフー本社内にあるオープンコラボレーションスペース「LODGE」の責任者を務めています。今日はLODGEと、元ヤフー社員のアルムナイ組織である「モトヤフ」とのコラボレーションをご紹介します。

LODGEは2016年11月に設立され、コワーキングスペースのほかイベント会場、オンラインイベントの収録現場などの機能も備えていました。企業が大きくなるほどイノベーションが生まれづらくなるという「イノベーションのジレンマ」を社内外の交流で打破すること、業務に追われて近視眼的になりがちな社員のために、新たなインプットの場を社内に作ることが、開設の狙いです。

単に場所を提供しても、利用者同士がすぐ打ち解けてくれるわけではありません。このため、利用者同士を引き合わせる「コミュニケーター」というスタッフを配置し、対話やコラボレーションのきっかけを作っていました。2018年からはスタートアップの優先エリアも設け、場所取りなどに煩わされずにイノベーションを起こすことに集中してもらいました。のべ利用者は29万7,000人に上りましたが、コロナ禍のため2020年2月に休館を余儀なくされました。

休館後、新たな活動を模索している時、川邊健太郎社長から「医療機関で感染防止対策に必要な備品が不足して困っている。LODGEで解決できないか」という問題提起がありました。そこで昨年4月から5月末にかけて、施設内のレーザーカッターと3Dプリンターを使い、フェイスシールドを作ることにしたのです。文房具メーカーから材料の供給を受けるなど、企業数社の協力を得て、154の病院へ約1万1,000個を配りました。この経験から、LODGEが複数の企業を結び付けることで、企業単体ではできない大きなミッションを達成できることに気づいたのです。そこでヒト・コト・モノをつなぎ合わせ、公共公益をテーマとした活動に取り組むことを、新たな活動方針に打ち出しました。

トップメッセージで、モトヤフとのコラボレーションへ舵を切る

一方、モトヤフは2017年、当時の社長で、現東京都副知事の宮坂学さんの発案で発足しました。それまでは社員400~500人規模の時代が長かったこともあり、人事政策も離職防止に軸足が置かれ、退職者が会社に関わりづらい空気も、あったかもしれません。しかし退職者の中にはポジティブな挑戦のために転職し、ヤフーではできない経験を重ねた人もたくさんいます。アルムナイ活動は現役社員にも、そして退職者のキャリアにとってもメリットが大きいと、宮坂さんは考えたのです。モトヤフは主にフェイスブックグループを通じて参加者を集めており、会員は約1,500人に上ります。

会員の管理など事務局機能は当初、ヤフーの人事部門が担当していましたが、2018年からLODGEがメインで担うようになりました。モトヤフはヤフーの企業風土を理解しているので、前提を説明する必要がなく、オープンコラボレーションを生み出しやすいと考えたのです。

具体的な活動は、有志でつくる幹事会が動かしています。ただ幹事にも本業があり、当初は活動がなかなか活発化しませんでした。

このため、LODGEのスタッフが月例の幹事会に参加して情報を共有し、モトヤフたちが企画するイベントや常設展示、個人ビジネスの「器」として、LODGEを活用してもらうことにしました。休館前は、モトヤフが立ち上げたスタートアップがLODGEをオフィスとして利用し、一部の現役社員が彼ら彼女らを手伝うこともありました。モトヤフ主催の副業マッチングイベントに現役社員が顔を出したり、昨年1月のLODGE3周年記念イベントで、多くのアルムナイに登壇してもらったりと、現役とモトヤフの交流が盛んに行われていました。

モトヤフの力を借りて、自治体のDXを支援

モトヤフを設立して数年後、幹事の固定化、高齢化の兆しが見られた時期もあります。この時も、LODGEを利用している若手のヤフー退職者を、モトヤフに紹介しました。彼ら彼女らが新しい幹事となって、スラックやフェイスブック以外のツールも活用するようになり、若手の入会が増えたと実感しています。

残念ながら今、リアルな場としてのLODGEは休館していますが、我々の手掛ける自治体のDX支援事業で、モトヤフの力を借りています。

自治体は、CDO(最高デジタル責任者)に外部人材を登用する傾向があり、IT業界で経験を積んだモトヤフとは親和性があります。副業人材を求める自治体と、本業を持つモトヤフ会員のニーズが一致することも多いのです。このため、我々が主催するオンラインイベントで、モトヤフの会員に登壇してもらうほか、自治体に紹介した事例もあります。

LODGEは自治体とアルムナイ、アルムナイと現役社員との「連携のハブ」となるほか、自治体の成功事例を開示し、他の自治体へと横展開を促す「普及のハブ」としても機能できるのではないか、と期待しています。

一連の活動を通じて、私はOB会の名簿があるだけでは、具体的な活動にはつながりづらいと実感しています。プロモーター役がミッションを掲げることで賛同者が集まり、初めてプロジェクトという「コト」が動き始めます。LODGEはこれからもプロモーター役を務め、新しい連携を生み出していきたいと考えています。


執筆:有馬知子