富士ゼロックス株式会社 営業計画部 雨宮健敏氏、総務部 星野和也氏
支店にサテライトオフィス 結果を出す「働き方変革」
7年間で商談数58%アップを実現した営業変革
一般に生産現場に比べてホワイトカラーの業務生産性の向上が日本では遅れていると言われる。実際に新たな人事制度などの枠組みを導入しても目に見える成果を残すことができている企業はどれだけあるだろうか?
富士ゼロックスでは2008年頃から営業変革に向けた取り組みを開始し、1日のうちの企画書作成や具体的な商談などの「顧客価値向上」に費やす時間が29%(08年実績)➝51%(15年実績)と拡大、逆に商品手配などの書類作成や交通費などの精算、勤怠報告など付帯業務時間は46%(08年実績)➝22%(15年実績)と半減した上で、総労働時間を11%減らすことに成功した。さらに顧客接点数(実際の企業訪問の数)は37%増、商談数は58%増と営業の活動内容を飛躍的に向上させている。営業変革の先頭に立つ営業計画部の雨宮健敏氏は「7年かけてようやくここまでもってくることができました。これだけの成果を残すためには、社内のルール変更や付帯業務をバックヤードに任せられるようセンターを立ち上げたり、オフィス環境を一新したりと、さまざまな施策を講じており、それらがトータルに機能した結果です」と語る。
変革のショーケース「働き方変革ワークプレイス日本橋」
2009年から始まった富士ゼロックスの営業変革だが、第一フェーズ(2009~2012年)では主に「営業プロセス革新」に取り組み、SFA(Sales Force Automation)の導入によって業務を数値化し、プロセスを「見える化」することで、より科学的なマネジメントが可能になった。第二フェーズ(2013年~現在)ではこれを定着・体質化すると同時に、リモートワークなどに対応した人事制度の整備やモバイル活用、オフィス環境整備など「働き方変革」に取り組んでいる。
そして、その象徴的な存在が「働き方変革 ワークプレイス日本橋」だ。日本橋オフィスの移転を機に「働き方変革」を具現化する新拠点として2015年5月に誕生、総務部、営業計画部を中心に現場の部門長なども巻き込んだ全社横断プロジェクトで、マスメディアなどでも注目を集めた。支店内に他の拠点の社員も利用できるサテライトオフィスを併設し、全体の訪問効率を上げるほか、固定の席を持たないフリーアドレス制でペーパーストックレス化と多様なコミュニケーションの促進を目指す。「20年前のサテライトオフィスは職住接近やリゾートオフィスといった意味合いが大きかったのですが、今回はあくまで生産性向上が目的。モバイルの進化という環境変化やダイバーシティの推進といった社会的要請も背景にあります」と雨宮氏は説明する。
部門長が断捨離を率先、スペース2割減でも高機能
ワークプレイス日本橋は中央に約20名が座れる大型のテーブルを配置、これがサテライトオフィスも兼ねる。周囲には6~8名の日本橋支店勤務者優先の共用テーブル(フリーアドレス)を配置、誰でも参加できる「ワイガヤ」の場としての立ちミーティングスペースや窓側にはちょっとした打ち合わせがいつでもできるよう6人掛けの「ファミレス席」もある。一方、提案書の作成など集中して作業したい場合は、壁際の「コンセントレーション席」を利用できる。従来の日本の典型的なオフィスはいわゆる「対向島型オフィス」だが、これは管理者がメンバーを「監視」するマネジメントを体現したもの。
新オフィスではよりフラットなコミュニケーションや機動性を重視した構成になっている。部門長以外は全員フリーアドレスのため、机の上には書類も文具も一切置かず、袖机も廃止、最低限必要な書類はパーソナルロッカーに格納し、書類等の移動用バッグも配布した。移転に際しては、1人あたりの紙の保有量を1ファイルメーター(積み上げて1m、段ボール箱約2個分)に制限、部門長自ら断捨離を先導した。雨宮氏とともにプロジェクトを牽引する総務部の星野和也氏は「結果的にオフィス面積は約21%、個人の机幅は33%減、ロッカースペースは57%減となり、全体としては、以前より広々と開放的な印象でかつ機能的な空間を実現できました」と胸を張る。
営業先への訪問件数65%増と残業時間1~2割減を両立
一連の営業変革による成果は冒頭に紹介した通りだが、実際の働き方はどのように変化したのか。「直行直帰がしやすくなって、会社に全然来ないで帰宅するケースも増えています」と雨宮氏。例えば訪問先がサテライトオフィスの近くであれば、訪問後にサテライトオフィスに立ち寄って、そこで報告書を書いて帰るという形で移動効率を高められる。ただチームの一体感の醸成や新人教育といった面ではマネジャーの工夫が求められる。「野放しで直行直帰を放置してしまうとコントロールが利かなくなるので、営業同行や朝会の実施など各マネジャーの判断で対策を講じています」(雨宮氏)。中野区に本拠地があり、新規開拓を中心に行う広域の営業グループの場合、朝の定例会議を日本橋オフィスのファミレス席で実施しており、メンバーが本拠地に戻るのは週1回程度だという。それまでは朝本拠地の中野に立ち寄り、営業先を回った後、再び本拠地に戻って書類作成を行っていたが、現在はサテライトオフィスで業務報告や提案書作成ができるため、無駄な移動時間が減った。実際にこのグループの訪問件数は対前年比で65%増となった上、1カ月当たりの平均残業時間は10~20%減少、メリハリのあるライフスタイルに貢献している。
「言行一致」で自信を持って自社商品を提案
複合機やネットワーク構築などを主な商品として販売する富士ゼロックスの営業ポリシーの一つが「言行一致」。自ら使ったものを検証し、改善してお客様に紹介していく。ワークプレイス日本橋自体がいわば新しい働き方のショーケースであり、営業も多くの見学者をここに招く。例えば入力機として使用し書類の電子化を行う複合機、電子化された文書を複数の切り口で検索できる文書管理システム、あるいはクラウド上にプリンタドライバがあってどのプリンタからも印刷可能なシステムなどについて、ここなら実体験を基に営業が可能だ。
現在こうしたサテライトオフィスは全国に10カ所あるが、使用頻度などを見ながら適宜スクラップ&ビルドを行っている。日本橋の場合はサテライトへの入場申請者が500人以上でサテライト席が埋まってきており、7月にはリニューアルを実施した。星野氏は「首都圏では主要ターミナルへのサテライトオフィス設置の要望が高く、移転のタイミングなどを機に日本橋タイプのオフィスを今後拡充していく予定です」と意欲を見せる。ホワイトカラーの生産性向上は同社のように管理ツールや人事制度、オフィス環境など、多角的な取り組みがあって初めて結果が出せるのかもしれない。
プロフィール
富士ゼロックス株式会社
雨宮健敏氏
略歴:
・1987年富士ゼロックス(株)に入社。SEとしてお客様支援に従事
・2002年より自社基幹システムの設計を担当
・2009年より『働き方変革活動』のリーダーとして営業生産性向上に向けた活動を担当
総務部 拠点第二グループ グループ長
星野和也氏
略歴:
・1987年富士ゼロックス(株)に入社。アカウント営業として城東、銀座地区を担当
・2001年よりCB支店で営業Mgrとして新規開拓を担当
・2003年より労働組合専従
・2006年より営業Mgrとして復帰
・2013年より総務部でファシリティマネージャーとして賃借拠点を担当