NTTコム チェオ株式会社 テクニカルサポート事業部長 弘灰 和憲氏

在宅ワークの新潮流 「CAVA」という選択

2016年07月25日

全国約1000人が選んだ「CAVA」という新しい働き方

パソコンを新調し、いざメールの設定をしようとしたがつながらない。パソコンと格闘の末、プロバイダーなどの窓口に電話してようやく解決できたという経験は誰しもあるだろう。対応するのは多くの場合、地方拠点などにスタッフを集めたコールセンターだが、インターネット接続サービス「OCN」の会員向けテクニカルサポートを担当するNTTコム チェオでは他社と一線を画す仕組みを構築している。

電話応対するのは全国約1000人の在宅スタッフで、通称「CAVA(キャバ)」と呼ばれる。CAVAは.Com Advisor & Valuable Agentの略で、インターネット利用の案内役であり、ビジネス上は業務委託契約の個人事業主に当たる。2000年ごろからインターネット人口が爆発的に増え、OCN会員も急増、増え続ける問い合わせに対応するため、同社でもスタッフ採用が急務となった。しかし、地方で一定の能力を持った人集めが難しくなり、その解決策としてこの在宅型の働き方が生まれた。

同社テクニカルサポート事業部長の弘灰 和憲氏は、「会社側としては固定費を増やすことなく高いクオリティを維持でき、災害時の業務停止リスクの分散にもなります。働く側のメリットは時間と場所に拘束されず通勤の必要もないため、自分のライフスタイルに応じた働き方ができること。同じ仕事でスキルアップでき、都市と地方の賃金格差がないことも魅力。双方がWin-Winの関係です」と説明する。

生活のためフルで働く人から趣味程度まで働く時間はフリー

CAVAの65%は女性。年齢層は40代が中心で50代、30代がそれに続く。60歳を超えて退職後、初めてこの仕事を始めた人もいる。これまでの最高齢は70代後半の女性だ。ある60代の男性は元保険会社の支店長で、定年後も社会とつながっていたいとCAVAを選んだ。業務を行う時間はコールセンターの受付時間である9時から21時までの間で、何時間働いても構わない。自分が働きたい時間にパソコンを立ち上げてログインし、スタンバイすればコールがかかってくる仕組みだ。

例えば主婦の場合、朝食を作って家族を送り出し、掃除・洗濯を終えたら、「さて始めるか」とパソコンを立ち上げ、ランチタイムが来たらいったん休憩後、再び夕方まで働いた後、買い物に出かけるといった無理のないライフスタイルが可能になる。働く時間や目的は人それぞれで、本当に生計を立てるためという人もいれば、孫におもちゃを買ってあげたいから趣味程度に働いているという人もいる。個別に業務を行う時間の調整を行うことはないが、月末月初や月曜朝などコールの増加が予測される日時には、一斉メールで「コールが増えているので着台をお願いします」とアナウンスすることもある。

月に一度の評価結果が翌月のコール頻度に直結

テクニカルサポートに必要な能力は、インターネット全般やOSの知識、パソコン、ネットワークなどのハード知識など。このため応募者には全員、NTTコミュニケーションズが実施するIT資格の検定「ドットコムマスター」に合格することを資格要件としている。一次選考合格後はWeb上でさらなる知識習得や応対スキル向上に取り組み、二次選考後にも合格者向け研修や実践に近いコールトレーニングを受講、必要なレベルを習得してようやくデビューとなる。業務開始後は月に一度、専門スタッフによる評価を実施、点数に応じてABCのランク付けが行われる。

CAVAの報酬はコール1件あたりいくらという成果報酬型のため、ともすれば単純に量を追いがちだ。そこで評価結果を本人に個別にフィードバックすることで長所と課題を明確にすると同時に、評価に応じて優秀な人に多くコールを配分するシステムを採用することで、モチベーションアップにつなげている。このほか業務支援のツールとして「スマートナビ」がある。お客様の相談内容に応じてサポートの流れをチャート化し、それに沿って応答することでスムーズな対応ができるようになり、サポート品質の担保につなげている。

年に一度の優秀スタッフ表彰や交流会などオフの触れ合いも

前述のCAVAの評価項目は、最初に自ら名乗っているかという基本的なことから、お客様の問いにしっかり耳を傾けているか、理解度はどうか、質問を解釈しそれに沿った的確な答えを返しているかなど約30項目に及ぶ。会話内容はすべて録音されているので品質評価担当スタッフはそこからピックアップし採点する。

「評価は収入に直結するので、本人が納得感を得られるよう、フィードバックは約1時間をかけて実際の場面を再現しながら行います」と弘灰氏。さらに年に一度、評価結果をベースに1年間の成績をランキング化し、上位入賞者を優秀スタッフ(プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズの各賞)として表彰する。秋~冬にかけては全国各地10都市程度で交流会を開催し、最新の会社の動向やサービスの現状についてCAVAに伝える。逆にCAVAからもツールへの要望やOCNのサービスに対する現場目線での改善点についての意見を出してもらう。

「在宅業務は孤独な作業。時にはストレスが溜まったり不安になったりすることもあります。その対策としてCAVA専用SNSのような情報交換の場を設けたり、オフラインで自主的に勉強会を開くといった取り組みも各地で実施されています」(弘灰氏)。

やって来たテレワークの波。今後は音声マイニングに注目

CAVAが対応した全コールを対象に実施した終話時のアンケートでは平均98%と高い顧客満足度を証明した。同社は2016年2月に第16回テレワーク推進賞「優秀賞」を受賞、2016年6月には経済産業省が後援する第3回サービス・ホスピタリティ・アワード「最優秀賞」を受賞するなど、国内に先駆けてテレワークを導入した先進性と15年にわたる運用実績が評価されている。沖縄県や新潟県では在宅就業支援事業として自治体とタイアップし、地域の就業機会創出に貢献している。最近では評判を聞きつけた他の企業からのオファーも相次ぐ。

今後のサービス改善に向けて弘灰氏は「ビッグデータや音声マイニングに注目していますが本格的な取り組みはこれから。音声マイニングで会話を瞬時にテキスト化し、その中で増えているホットワードを抽出できれば、それに対するベストアンサーを用意して円滑なサポートに繋げることができます。あるいはそこに故障の原因が隠れている場合もあるかもしれないので、クライアントにフィードバックして改善に役立てられる可能性もあります」と語る。高校時代にアルビン・トフラーの『第三の波』を読み、情報革命の到来を確信したという弘灰氏だが「ようやくテレワークの波がやって来たことを実感しています。当社とCAVAは委託者と受託者という関係ですが、同じサポートに携わる仲間としてこれからも共に成長し続けたいと考えています」と結んだ。

プロフィール

弘灰 和憲(こうはい かずのり)氏

NTTコム チェオ株式会社 テクニカルサポート事業部長

略歴:
1988年3月  金沢大学 経済学部 卒業
1988年4月  日本電信電話株式会社 入社
2000年4月  ぷららネットワークス株式会社 事業推進室長
2007年3月  オンデマンドTV株式会社 取締役 広報部長・編成部長
2008年3月  NTTコミュニケーションズ株式会社
ネットビジネス事業本部 マーケティング推進部 担当課長
2008年7月  同 コンシューマ営業部 担当課長
2010年10月  同 コンシューマ営業部 担当部長
2011年8月  NTTコム チェオ株式会社 企画部長
2015年6月  同 テクニカルサポート事業部長(現職)