サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長 中根弓佳氏

副業OK、9種類の働き方 多様なスタイルを制度で発信

2016年11月18日

アプリ制作から作曲活動まで副業OK

来訪者同士や社員が自然に交流できる待ち合わせスポット「サイボウ樹パーク」で

サイボウズは日本でも数少ない「副業OK」の会社だ。平日は通常通りサイボウズで勤務するが、土日は仲間と起業した会社でアプリやゲームソフト制作に携わる人がいる。研究開発系のエンジニアなら大学や各種セミナーなどで講師をして報酬をもらうケースもある。中には学生時代から続けている音楽ソフトを使った楽曲をアーティストに提供している人もいるという。「ある社員の場合、サイボウズで週5日働いて土日は別の会社でも働いていたんですが、先日『土日の会社の仕事を増やしたいのでサイボウズは週2日勤務にさせてください』と相談がありました」と苦笑するのは同社のワークスタイル変革の先頭に立つ事業支援本部長の中根弓佳氏。「例えばエンジニアが論文を発表することでその人の市場価値が上がるのは喜ばしいこと。結果的に起業して独立したり、他の会社で活躍したりということになったとしても、それで本人がハッピーになるならば喜んで送り出したい。協力関係ができるケースもありますから」と同社の懐は広い。

離職率28%をきっかけに制度改革に着手

1997年創業で2017年に20周年を迎えるサイボウズ。手頃な価格で扱いが容易なWebベースのグループウェアの提供で創業以来黒字経営を続け、9年目の2006年には東証一部上場を果たした。しかし、連結売上が拡大し、従業員が増えていくにつれ、経営との距離が生じ、会社の目指す方向に対する社員の共感が徐々に薄れていったという。2005年には離職率が過去最高の28%となった。

「目指したものはスケールの追求ではない。自分たちが本当にワクワクすることって何だろう、とみんなで話し合ってわかったのはお客様に製品を提供してお客様の環境が改善されたと喜んでいただくことが何よりのモチベーションだということ。最終的に出た答えが現在の『チームワークあふれる社会を創る』でした。グループウェアという得意分野でお客様のチームワークを支えること。これを事業目標として再定義しました。そして、私たち自身がチームとして働き続けやすいワークスタイルを実現したいという思いと、その事業目標を達成するためには。それに共感した優秀な人に多く、より長く働いてもらう必要がある。この離職率を改善するにはどうすべきかを考えた結果、ワークスタイルの多様化に向かいました」と中根氏。

もともとITツールとチームワークは親和性が高い。時間と場所がばらばらなチームでも「サイボウズ Office」などITツールの活用によってコミュニケーションでき、結果を製品にフィードバックすることも可能だ。2006年以降、サイボウズは人事部門を中心に多様な働き方ができる制度を次々と打ち出していった。

勤務時間外の使い方は本人の自由

キッチンスペースのあるコミュニケーションスペース「BAR(バル)」。社外の人も利用できる

サイボウズは2006年には最長6年間の育児・休暇制度をスタート、2007年からはライフスタイルの変化に合わせて働き方を選択できる選択型人事制度を開始した。2010年には在宅勤務制度も設けた。「時間と場所の多様性が生まれると、サイボウズに100%でなくても30%でも40%でも優秀な人がそのリソースを提供してくれるならすごくうれしいね、という発想が自然になってきました。副業禁止の会社が一般的ですが、例えば育児や家事、地域のボランティアのサッカーコーチ、あるいはNPOに参加して社会貢献するというのも、立派な『仕事』です。家事はいいけどお金をもらう仕事はだめという理屈はそもそもおかしいように思います」(中根氏)。
2012年には会社として副業を許可する方針を明確にした。選択型人事制度で従業員はチームにコミットする時間と場所を選択できる。そしてコミットしない時間は自由に使ってもらう。これを許容することでその人個人も幸せに生きられるし、チームとしても優秀な人材を確保でき、互いにwin‐winの関係が築ける、と中根氏は説明する。しかし、副業に熱中して本業のアウトプットが低下することはないのだろうか?「子育てをしていて夜泣きで寝不足という人と夜の仕事をしていて寝不足という人に違いはありません。ともにアウトプットが下がれば評価も下がるし、下がらなければそうはならない。そこを理由に個人がやりたいことを制限するのはおかしい」と中根氏の答えは明快だ。

9種類から働き方が選べる選択型人事制度

副業に関してのルールについては「原則として自由」だ。
「ただし、例えば競合企業にノウハウが流出といったことや、業務にマイナスになることは禁止。エンジニアが論文を書いて雑誌に投稿して原稿料をもらうのも原則はOKですが、サイボウズの資産を使うような場合は事前に承認を得てください、としています」(中根氏)。また、大切なことは副業していることをチームの仲間が知っていることだという。「隠れてやっていると『あの人は会社の時間を使って論文を書いて原稿料をもらっているらしい』となって別なメンバーがモヤモヤしてしまうかもしれません。だから資産を使うような副業の場合は事前にマネージャーに申請して堂々と周りにも『これは許可をもらってやっているから』とオープンにしてもらうようにしています。副業を原則自由としながら、サイボウズのチームとしては、あくまでそのメンバーのチームへの貢献度で公平に評価していきます」(中根氏)。

中根氏は働き方が多様化するほど個々の業務や内容を「見える化」することが大切だと語る。2007年に開始した「選択型人事制度」では、当初3種類の選択肢から始め、現在は時間と場所の組み合わせによって9種類の働き方から選べるようになった。チームメンバーは他の人がどこに属しているかがお互いにわかるようになっている。課題だった離職率は2015年には4%にまで改善された。Great Place to Work(R) Institute Japanが実施する『2016年版日本における「働きがいのある会社」ランキング(従業員100~999名部門)』では3位に選出された。今後も個々が自立した存在でそれぞれの役割を認識し、信頼し合い、フォローし合いながら最大のパフォーマンスを発揮できる組織を目指す。

理想は制度もルールもない会社

中根氏自身、現在も2人の子どもの育児や家事という「副業」と執行役員事業支援本部長という重責を両立させている。女性の働き方について中根氏は「多くの日本企業の場合、女性総合職の管理職はまだまだ少数派で、どちらかというとスペシャリスト系かあるいはアシスタント職の二者択一になることが多かったと思います。サイボウズでは多様な働き方を用意し、『いつでも選べるという安心感』を提供することによって、一時的に働く時間が短かったり、量が少なかったりしても長い目で見れば性別に関係なくキャリアが築けるんだということを発信したい」と語る。サイボウズでは育児休暇が最大6年取得できるが、これを発展させて転職や留学など環境を変えて自分を成長させたい人を対象に、最大6年間は復帰が可能な「育自分休暇制度」も2012年にスタートさせた。これを活用して実際にJICAに転職し海外で活躍する人もいる。

「本当は制度やルールなんてなくて、個人が自立していて、ブラックな経営者もおらず、『さあ、白紙の中から、どういう約束でチームと個人のハッピーな形を見つけようか』というのができる社会が理想です。それでもあえていろいろな制度を作る意味は、それが一つのメッセージになると考えているから。何もなければそれをやっていいかどうかわからない。チームとしてもどう対応していいかわからない、だから『こういう働き方もできるよ、あなたに合った方法を見つけてくださいね』というメッセージを伝えるのが制度の意味で、今後も制度は増え続けると思います」と中根氏は笑顔で締めくくった。

プロフィール

中根 弓佳氏

サイボウズ株式会社
執行役員 事業支援本部長

略歴:
1999年 3月 慶應義塾大学 法学部法律学科 卒業
1999年 4月 大阪ガス株式会社 入社
2001年 2月 サイボウズ株式会社 入社
2014年 1月 事業支援本部長
2014年 8月 執行役員 事業支援本部長(現任)