ソニー株式会社 人事センター 人事企画部 吉田絵里加氏
私費就学も配偶者の海外赴任同行もOK! フレキシブルキャリア休職制度
私費での就学や配偶者の海外赴任への同行をキャリアに生かす"休職のススメ"
ソニーは2015年4月、社員が専門性を深めるための私費就学目的の休職(最長2年)と配偶者の海外赴任や留学への同行で知見を広め、その後のキャリアに生かすための休職(最長5年)が取得できる「フレキシブルキャリア休職制度」を開始した。休職といえば大きな決断だが、人事センター人事企画部の吉田絵里加さんによれば制度の発表後、「想定以上に社員のニーズがあると感じた」とのこと。実際の取得例としては欧米の研究機関などへの留学のほか、ふだん中国と頻繁に業務上のやり取りをしているエンジニアが、「もっとしっかり中国語を身に付けてビジネス相手の暮らしやバックグラウンドを理解したい」と私費留学したり、事務系社員でも「海外のビジネススクールでマーケティングをじっくり学んでMBAを取得したい」とシンガポールの大学院に通っている人などがいる。
「配偶者への同行のケースではアメリカやアジア各国への転勤に同行する場合が多く、中には外国籍の男性社員の方で奥様に伴って本制度を利用した例もあります」と吉田さんは笑顔をのぞかせる。
ソニーが個の成長を支援し、個のチャレンジがソニーを成長させる
「本業に関連する勉強を深める機会を支援したり、やむを得ずキャリアが中断する場合でもサポートできるよう環境を整えていこうという考え方から今回の『フレキシブルキャリア休職制度』が生まれました」と吉田さん。「ソニーが個の成長を支援し、個のチャレンジがソニーを成長させる」というのがソニーのキャリア開発の基本姿勢。30歳、35歳、40歳などの区切りの歳には、社員が自ら自分のキャリアを見つめ直す研修や講演会も設けている。人材の募集情報は月ごとにグローバルに公開されており、全世界のグループ社員が各国の求人に応募できる仕組みになっている。さらに年に一度、海外の大学の研究室を中心に社費で留学派遣する候補者の公募も行っており、これまで400名以上の社員が留学を果たしている。まさに求めれば応えてくれる環境がソニーには整っている。
入学金や初年度教材費等について最大50万円を支給
「フレキシブルキャリア休職」の取得中は基本無給だが、社会保険などは本人負担相当分を会社が支給している。私費就学の初期費用についても入学金や初年度教材費等について最大50万円を支給する。取得の要件は勤続2年以上であること、私費就学の場合は業務に関係する勉強内容であること、配偶者同行の場合は配偶者が海外赴任を命じられていることなどで審査も厳正に行う。休職中の会社との連絡については、上長、人事と定期的にキャリア面談を行ったり、コミュニケーションを取るようにしている。
「私費留学の場合は業務に関係ある内容を勉強してもらうので、そこまでキャリアの断絶にはならないと思いますが、配偶者同行の場合は最長5年なので職場復帰がしやすいような仕組みも重要になります。来年4月『休職キャリアプラス制度』として、職場からの要請があり本人が同意した場合、テレワークで週2日まで仕事をしていいですよ、といった制度についても組合と協議(2016年11月現在)しているところです」と吉田さん。休職中や復帰後の配属に関しては個別判断で、事業部の人員配置を見ながら各管轄人事が現場と相談しながら調整していくという。
業務のブランクによるデメリット以上の経験を手に入れる
私費就学については海外に限らず国内の東京大学や京都大学などの大学院にまるまる2年間通う例も少なくない。2年間のブランクが昇進の妨げになる不安はないだろうか?吉田さんに尋ねると「一時的に手を動かすスピードが落ちたとしてもそれはすぐに取り戻せるものだと思います。それ以上の専門知識や人間力が身に付けば、いずれそれに見合った役割がアサインされることになります」という答えが返ってきた。
配偶者同行についてはすでに海外から職場に復帰した例もあり、吉田さんは海外での経験で何を得たかなどを面談でヒヤリングしている。「あるエンジニアの女性の場合、旦那様がアジアの発展途上国に転勤となって同行したのですが、現地では家の補修の交渉など暮らしまわりの整備から始まって、宗教の違いなどそれまでとは全然違う世界観の広がりを感じたり、生活力や交渉力がつくいい経験ができたと言っていました。復帰直後だったので実際の業務にどう生かしていくかはまだ模索中とのことでしたが、こういった経験が日々の業務に生きてくるものと期待しています」(吉田さん)。
社員個々の役割に応じたワークスタイルを整備
「現在果たしている役割」に応じた処遇を基本とするソニーでは、ワークスタイルについても一定の勤務管理が必要な新入社員などは固定勤務、ある程度裁量が持てるようになるとフレックスタイム勤務、とくに裁量を持って働いてほしい社員に対しては裁量労働制など役割に応じた勤務形態をアサインする。仕事と子育て、介護の両立支援制度についてもソニーは先進企業として妊産婦の時間短縮や育児休暇、育児短時間勤務、在宅勤務などをかねてより導入してきた。「ソニーは子育てなどで一定期間仕事量が限定されるのはやむを得ないと理解する一方で、トータルのキャリアを考えた時には、1日も早く会社の戦力として活躍いただくため復職しやすい環境づくりを始めています。例えば休職期間中も要望に応じて在宅勤務ができる制度や今回のフレキシブルキャリア休職などがそうです」と吉田氏。前述のフレキシブルキャリア休職から職場復帰した女性はこうも語った。「正直海外に行くまではソニーが身近なブランドとして認知されていないのではという不安がありました。しかし今は、ソニーを世界のハイブランドとしてもっともっと"押して"いける感触を得ました」。働き方改革から新たなソニーの胎動が始まっている。
プロフィール
吉田絵里加氏
人事センター 人事企画部
略歴:
2011年 3月 上智大学 英文学科 卒業
2011年 4月 日本アイ・ビー・エム株式会社 入社、グローバル・ビジネス・サービス事業配属
2015年8月 ソニー株式会社 入社