SOMPOひまわり生命 人財開発部 企画グループ 課長(グループ長)坪井 正登氏/課長代理 落合 加奈氏/課長代理 山田 友美子氏
保険業界初の「週4勤務」。女性活躍を推進する効果も
生命保険は保険外交員など女性が多く活躍する業界。近年では正社員の女性比率も上昇しており、労働における価値観の多様化も進むなか、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みが求められている。「健康経営」を基盤にさまざまな働き方の制度を先駆けて構築し、なかでも保険業界で初めて週休3日制度を取り入れたSOMPOひまわり生命の人財開発部に話を聞いた。
「インシュアヘルス」と「健康経営」を両輪に、社員の働き方を改革
SOMPOひまわり生命の週休3日制度は、社内では「週4勤務制度」と呼ばれる。対象者別に2種類の働き方があり、1つは「妊娠・育児・介護」を事由とする社員、もう1つは定年後の再雇用社員が対象で、こちらは事由を問わずに利用できる。条件は両者とも同じで、月曜から金曜までの営業日のうち、本人の希望した曜日を「特定休日」とする。基本的に特定休日の曜日は固定で、変更するには1カ月前までの申請が必要となる。勤務時間は9時から17時までのフルタイムのほか、妊娠・育児・介護を事由とする社員は短時間勤務またはシフト勤務(時差出勤)との併用も可能。最短1カ月単位から利用でき、育児が事由の場合は子どもが小学校3年生の年度末まで、介護の場合は終了まで期間を問わない。給与と賞与は適用期間中は5分の1を控除する。一方、有給休暇は付与日数の削減なく、週5日勤務の社員と同等である。
同社が週休3日制度を始めたのは、「健康応援企業」への改革の一環である。医療保険や死亡保険などを提供するSOMPOグループの国内生命保険事業会社として、「本来の保険機能(インシュアランス)と健康応援機能(ヘルスケア)を組み合わせることにより、新たな価値として『インシュアヘルス』を提供することが、前中期経営計画のなかで鮮明に打ち出されました」と坪井氏は振り返る。「お客さまにインシュアヘルスをお届けする以上、そもそも提供する私たち社員とその家族の健康を守る『健康経営』を実現しなければ説得力はありません。インシュアヘルスと同じ比重で、健康経営とそれに伴う働き方改革に取り組んでいます」(坪井氏)
具体的な健康経営の取り組みは、健康に関する定期的なミーティングの開催から禁煙外来の補助等まで多岐にわたる。2019年には全従業員就業時間内禁煙とし、新卒・中途社員とも非喫煙者限定の採用を開始した。また全社員に装着時の歩数や消費カロリー、バイタル、睡眠時間などが表示されるウェアラブル端末を無償貸与し、健康に対する意識向上を促進している。併せて勤務時間も、インターバル出社(※)やシフト勤務、フレックスタイム制など次々に選択肢を増やした。週休3日制もその1つで、妊娠・育児・介護事由は2017年に、再雇用社員は2018年から制度を開始している。生命保険業界で週休3日制を導入したのは、公式には同社が初である。
こうした取り組みの成果として、「社員の健康診断における血糖値や肝機能の数値など、健康経営のKPI(指標)は明らかに向上しています」と坪井氏は語る。
制度の概要
- 週4勤務制度は2パターン。「妊娠・育児・介護」事由と「再雇用社員」が対象
- 妊娠・育児は、配偶者が妊娠中の社員も対象
- 営業日のうち本人の希望する曜日を毎週休みに
- 妊娠・育児・介護を事由とする社員は短時間勤務またはシフト勤務との併用が可能
- 特定休日に出勤した場合は休日出勤扱い。勤務日の残業は時間外手当を支給
- 適用期間は最短1カ月から。育児は小学3年生の終わりまで、介護は終了まで
- 給与・賞与は5分の1カット
- 有給休暇やその他の制度は週5勤務と同様の扱い
育児利用が大半。水曜日を休みにする社員が5割近く
育児・介護休業法では、育児による短時間勤務制度は、原則子どもが3歳に達するまでとされている。事業主は小学校就学開始時までが努力義務になっているが、SOMPOひまわり生命では短時間勤務・シフト勤務とも小学3年生の学年末まで取得可能。育児休業も2歳1カ月までと法定(原則1年)より長く、復職後もシフトと短時間勤務の組み合わせで15パターンの働き方が可能である。
「社員にキャリアを諦めさせないため、こうしたさまざまな制度を構築しました。週休3日制ももちろんその意図で設計しましたが、育児支援制度はほかにも充実しているため、当初はどちらかというと介護利用を想定していました」と語るのは制度設計を行った山田氏。当時は介護を保障する保険商品を発売した時期だったこともあり、社内でも介護がしやすい環境を促進できれば、という思いもあった。しかし蓋を開けると、現在週休3日制を利用中の社員8名は全員育児が理由。平均年齢が40歳程度と比較的若い同社では、今のところ介護のニーズが低いと考えられ、今後の利用を期待している。なお、制度の拡充としては健康経営の観点から、通院治療を行いながら仕事をする社員への適用に向けても検討中である。
特定休日にする曜日はこれまでの累計によると、水曜日が45.2%と圧倒的。金曜日が最も低い9.7%で、月・火・木はほぼ均等である。「ヒアリングするなかでも水曜休みの働き方が印象的でした」と語るのは同じく制度設計を担当した落合氏。「週の中日を休みにすると、ちょうど良いタイミングでリフレッシュでき、前半も後半も同じペースで仕事が捗るようです。業務の優先順位を付けるなど、皆さん計画的に仕事を進めているのはもちろん、情報共有を徹底したり、ペアを組んで仕事をする態勢をつくったりと職場も協力しています」(落合氏)
山田氏も「同じ職場のなかでも短時間勤務やシフト勤務、本社ではフレックス制と、働き方が多様なので、特に『週4勤務だから困っている、周囲に負担がかかっている』といった問題は聞きません」と続ける。取得理由では、配偶者の出社日に休みたい、また精神的にも体力的にも余裕を持って働きたい、という声があり、「やはり1日丸々休めることが、予想以上に育児利用が多かった理由だと思います」と分析。男性も育児事由で取得可能だが、今のところ実績はない。一方で、同社の男性社員の育児休業取得率は過半数に達している。「主たる家計支持者」としてノーワーク・ノーペイがハードルになっていると思われるが、夫婦間の収入のジェンダーギャップが縮小あるいは逆転すると、状況も変わっていくかもしれない。
女性社員の離職率が減少。「どこでも本社社員」で場所を問わない働き方も推進
SOMPOひまわり生命では正社員の基幹職・専任職と、契約社員、LC(ライフカウンセラー)社員および定年後の再雇用社員が働いている。これまで週4勤務制度を利用したのは2022年半ば時点で延べ32人。母数からするとまだまだ少ないが、増加傾向にはあるという。そのうち再雇用社員の週4勤務制度の利用については、これまで2名が取得した。現在は利用者がいないが、同社の定年は60歳なので休むよりもバリバリ働きたいということだろう。「セカンドライフの充実に向け、シニア社員の多様な働き方を支援するため導入しました。制度が浸透すれば、ゆったりと働きたい、趣味を楽しみたい、といった感じでさまざまに利用していただくことを期待しています」と山田氏。基幹職は延べ24人、専任職・契約社員は6名が利用している。
同社が健康経営を踏まえた働き方改革に着手するまでは、育児などにより女性社員がやむを得ず退職するケースが少なからずあり、「業界では女性活躍推進といいながらも、そこに手を打てていなかったので、女性が利用しやすい制度づくりには特に力を入れました」と山田氏。週4勤務をはじめ、短時間勤務やシフト勤務の活用が進むにつれ、女性社員の離職率は有意に下がり、女性管理職の比率も23.7%に上昇している。「キャリアを諦めさせない」という所期の目的に一定の成果が出たといえるが、「今後は当社のさまざまな制度を活用して新しいキャリアパスをつくっていきたい」と落合氏。その1つが地方在住の社員に本社業務を任せる「どこでも本社勤務制度」で、一例を挙げると福島の拠点で営業としてキャリアを積んだ社員が、フルリモートワークにより地方に居住したまま人事制度の設計などを行う本社部門で活躍している。2022年4月時点で31名が「どこでも本社勤務制度」で働いている。多様な勤務時間と働き方を組み合わせれば、場所を問わず優秀な人材が採用でき、長く働いてもらうことも期待できる。
同社の週休3日制度が「週4勤務制度」と呼ばれるのは、制度の概要を発表した時の社員の反応を参考にしている。「もともと休暇制度が充実しているのに、これ以上増やす必要があるのか、という感想が多く、受け入れられやすいように週4勤務に変えました。名前通り、休むのではなく密度濃く働く、ポジティブな利用者を増やしていきたい」と山田氏。そんな同社の取り組みは「女性活躍推進」のヒントとしても参考になるだろう。
- 社員の休息確保を目的に、出社時間は前日退社時間の10時間後以降とする制度
- 週休3日制の取得目的は育児が大半。水曜日を休みにする者が半数近く。
- 週休3日制以外にも短時間勤務など多様な働き方があり、柔軟に組み合わせが可能。勤務形態が異なる社員が働く職場も多いため、週休3日も理解が得られやすい。業務に支障が出ないよう情報共有の仕組みを構築したり、チームで業務を分担するなど、各職場で効率化の取り組みが進んでいる。
- 短時間勤務やシフト勤務も含め、制度の活用が進むにつれ明らかに女性社員の離職率が下がった。女性管理職の割合も上昇している。
- 週4勤務者の人事評価は、週4日勤務相当の目標を設定し、他の勤務者と同じ対応。時間当たりのパフォーマンスを評価する。
- 健康経営の実現のため、負荷の少ない働き方を推進している。再雇用社員の利用はまだ少なく、今後の取得促進が課題。
プロフィール
坪井正登氏
人財開発部 企画グループ 課長(グループ長)
略歴
入社後、商品企画部、業務改革を経験し、2017年1月より現職。
現在は人事制度設計、働き方改革を中心とした人事企画業務に従事している。
プロフィール
落合加奈氏
人財開発部 企画グループ 課長代理
略歴
4年間営業店を経験し、2015年より人事部門へ。
若手社員教育を中心とした能力開発業務に取り組み、2017年10月より現在の人事企画業務に携わる。
現在は人事制度設計や働き方改革、社員のキャリア開発支援に従事している。
プロフィール
山田友美子氏
人財開発部 企画グループ 課長代理
略歴
10年間保険引受査定業務を経験し、2016年より人事部門へ。
2016年4月より現在の人事企画業務に携わり、一貫して、人事制度設計を中心とした業務に取り組む。
現在はエンゲージメント向上などの組織開発支援にも従事している。