600株式会社 Employee Experience担当 執行役員 Corporate マネージャー 阿部 愛 氏
週2回の「締め切り効果」でハイパフォーマンスを実現
SNSで「週休3日制」が話題となったベンチャー企業・600。新機軸の無人ストア事業を展開する同社は、創業時から週休3日制を導入している。事業が拡大するなかで社員たちはどのように働いて成果を上げているのか。執行役員の阿部愛氏に週単位の社員の業務分担や管理手法などを聞いた。
50m商圏を創出する、無人ストア事業で成長
スタートアップ企業「600」は、代表の久保渓氏が2017年に起業、マンションやオフィスにショーケースを置く無人ストア事業を展開している。「600」というユニークな社名は、ショーケースに最大600SKU(最小管理単位)の商品が入ることに由来する。
「50m商圏の創出」を掲げる通り、購入客にとっては職場や住居にきわめて近く、専用アプリによるキャッシュレス決済や、欲しい商品が今あるのか遠隔で確認できる利便性が魅力となっている。顧客は従業員の福利厚生や住民サービスを目的とする企業やマンション管理会社が中心で、商品売上のほか月額利用料を受け取るビジネスモデルを構築。都心部を中心に展開し、冷凍食品対応の新サービスも始めるなど急成長している。
さらに現在はAIによる自販機DXサービスも行っている。無人ストア事業で培った在庫管理や物流オペレーションのノウハウを活かし、自動販売機のデータをアルゴリズム解析して売上向上やルートオペレーションの効率化を支援するサービスで、実証実験では最大39%の業務改善を実現した。大手飲料メーカーと業務提携契約を結び、これまで10万台のサービス提供契約を締結している。今後もこの2事業の発展に向け、サービスを拡充していく方向である。
時間内に仕事を終える企業文化が定着
600は創業時から、水曜・土曜・日曜休みの週休3日制を導入している。当初は代表の久保氏が1人で起業した際、家庭の事情から暫定的に始めたものだが、効果を感じたことから社員が18人に増えた現在も続けている。その効果とは「締め切り効果」。「週の真ん中の水曜日が休みだと、1週間を月火と木金という2つのブロックに分けて考えやすくなります。火曜日と金曜日は休みの前日なので、休みに入る前に『これだけは仕上げておきたい』という心理が働きます」と執行役員の阿部氏は指摘する。
同社の社員の多くは事業開発部門に所属し、営業と物流を担当するといった兼務制で仕事をするほか、常時複数の社内プロジェクトが進行しているので協働が基本である。「そのため、チームで話し合って物事の優先順位をつけたり、必要のない業務は思い切ってなくすという提案を行ったりと、効率化や生産性をめぐる社員間のコミュニケーションも活発です。限られた時間内で最大のパフォーマンスを発揮しようという意識が、個人の期日管理の徹底はもとより、企業文化として浸透しています」(阿部氏)
1日8時間勤務で週に32時間。業務の平準化とハイパフォーマンスを実現するため、社員は32時間を今何に使っているか明確にする。「たとえば営業として16時間、物流業務に8時間、プロジェクトのメンバーとして8時間。兼務状況も表にして可視化し、それぞれの割合が適切かどうかも細かくチェックしています。裏を返せば、ある業務の割り当てが1時間だったら、それは『1時間でできることをやってください』という会社のメッセージです。もっとやりたい、という人は経営課題としてやるべきことではないかと提案をし、リソースも準備して上長の承認を得る仕組みです」(阿部氏)
時間内に優先度の高い業務を集中してやり遂げるのが前提だから、残業は本末転倒。「そこは大企業なみに管理を徹底しています。時には水曜に出社せざるを得ない場合もありますが、必ず振替休日を取ってもらうほか、制度が形骸化しないよう休日出社は事前承認制にしています。それでも残業になることはありますが、多い人でも月に10時間ほどです」(阿部氏)
入社したての社員、とりわけ「時間を忘れてバリバリと働くタイプ」ほど、こうした働き方に困惑することも多いという。そのため先輩社員が優先順位のつけ方などを一緒に整理するとともに、慣れるまで伴走する仕組みも導入している。
制度の概要
- 水曜・土曜・日曜の完全週休3日制
- フレックス制。推奨ワークタイムは9~18時(1時間休憩)
- 在宅勤務OK。Slackでミーティングや時間管理を行う
- 休日出勤は事前承認制。申請すれば副業もOK
給料は前職と同等。企業の価値観に適うかが採用基準
「私も前職では残業が多かったのですが、週4日勤務のほうが生産性や効率性をより意識するようになり、パフォーマンスが上がったという実感があります」と阿部氏。パフォーマンス向上を目的とする週休3日制なので、転職者に提示する給料は前職と同等かそれ以上で、入社後に上がった者も多い。採用はスキルの根幹となる資質重視。「面接では私たちが大切にする6つのバリュー(愛、誠実さ、責任感、仲間を助ける利他性、局面を変える力、柔軟性)を判断基準としています。6つのバリューを役割別に落とし込み、たとえばマネージャーにおいて局面を変える力とはどのようなものか、項目ごとに細分化して定義しています」(阿部氏)
3年前に代表の久保氏が「弊社が採用してる水土日休みの週休3日制なら、毎日が『休日』か『休日明け』か『休日前』なんです。これって凄くないですか?」とTwitterでつぶやくと、これが反響を呼び、広く拡散されたことで同社の知名度は一気に高まった。直後の中途採用には600人以上が殺到したが、「週休3日制が一番の応募動機というのは構わないのですが、『4日働くのが精一杯』の方はアンマッチになる可能性もあります。5日間を4日間、1日8時間に凝縮する働き方と理解してほしい」と阿部氏。「そのぶん頭脳も集中力も振り絞るので、最初の頃はかなり疲れて休日は寝てばかりでした」と笑う。
私用は水曜休みに済ます。休日は副業も可能
休日の過ごし方はスポーツに育児、介護と人それぞれだが、水曜日休みのメリットは役所や病院に行きやすいことである。「時間を気にせず手続きや通院ができるので営業日は業務に集中できます」と阿部氏。また水曜日であれば子どものいる社員が保育園の送り迎えなどを引き受けられるので、家族の負担が減るだけでなく、「平日の社会の様子を体感することにより、小売事業に求められる消費者共感性が高まります。『子育てって大変だな』といった体感も、働き方改革など社会課題への理解を促すようです」と語る。
休日に副業を行うことも可能で、デザイナーや経理、労務など、本業と同じ仕事をする社員もいれば、働く日時が選べる会社に登録してベビーシッターをする社員もいる。本業と同じ場合は事業領域が重なる恐れがあるため、副業は申請制にして事前に内容を確認し、競合する場合は個別に対応している。
今後も週休3日制は続けていく予定だが、「継続する理由は社員が週休3日制を強く支持し、今のところ相応のパフォーマンスが発揮できているからです。事業環境の変化によってはなくなる可能性もゼロではないと伝えています。ただ私たちは事業成長と等しく、従業員の体験価値を最大化して成長に繋げる、『Employee Experience』を大切にしている会社。会社も個人も成長できる組織にするため、さまざまな制度を柔軟に活用していきます」(阿部氏)
- 600は無人ストア事業と自販機DXサービス事業を展開する社員18名のベンチャー企業。ニッチ戦略が奏功して事業成長著しい。創業時から「水・土・日」の週休3日制を採っている。
- 週の中日の水曜が休みのため、週を月火と木金の2つのブロックに区分して業務計画を立てるようになり、「休日の前日までに予定した業務を終えなければならない」という「締め切り効果」が働くようになった。また制度の趣旨から残業は求めていない。就業時間内に完結するよう優先順位をつけ、効率的に業務に集中する意識が高まったため、パフォーマンスが向上した。
- 1日の業務は可視化され、兼務の割合も含めて仕事量やその成果を細部にわたり確認、管理している。新入社員に対しては同社の働き方に慣れるまで伴走する仕組みを構築している。
- 休日には副業もできるが、競合領域の副業については個別対応。事前申請制を採っている。
プロフィール
阿部愛氏
Employee Experience担当 執行役員
Corporate マネージャー
略歴
・2001年 株式会社ニューネットワークシステムにシステムエンジニアとして入社
・2011年 株式会社サムライインキュベートに情シス担当として入社
・2014年 同 新規事業 担当
・2015年 同 PR、コミュニティマネージャー 担当
・2017年 600株式会社にEmployee Experience担当執行役員として入社
Corporate マネージャーを兼務