ラジオの未来を考える、副業者ドリームチーム結成!:FM鳥取
株式会社FM鳥取 社長 中原秀樹氏/取締役副局長兼アナウンサー 山下弥生氏
副業の産物というと、労働を通した具体的な成果物を連想しがちだが、実際は知恵やアイデア、面白い企画なども含まれる。コミュニティFM局が、地元活性化のために、都会からお金を引き寄せるアイデアを、都会在住の副業者に期待する、というユニークな試みを紹介したい。
鳥取以外からお金が入る仕組みをつくりたい
― まずは副業者を募集した経緯から教えてください。
中原 弊社は2006年に開局した、鳥取市内に本社のあるコミュニティFM局です。それまで、鳥取市は全国で唯一、「民間ラジオ局の本局がない県庁所在地」であり、FM鳥取は「日本最後のラジオ局」とも呼ばれています。
開局時から、「日常に当たり前に溶け込むラジオ局」を大切にしており、今後も地元に根差したインフラとして存続したいと考えています。そのために、ラジオに限らず、若者のマスメディア離れといった世の中の変化を踏まえ、今後の展開や方向性を一緒に考えてくれる人を副業者として募集したのです。
山下 弊社は地元、鳥取だけでお金を稼ぐ企業なんです。出資者もスポンサーも、すべて地元、というわけです。そのお金の流れをどうにかして変えたい、つまり、鳥取以外の都会からお金が流れてくる仕組みをつくれないかと。それで、都会在住で、ラジオに興味がある人に、ラジオの未来を一緒に考えるドリームチームの一員になりませんか、という形で呼びかけをしたんです。2021年8月に募集を開始したところ、あっという間に40名を超える応募があり、あわてて募集をストップさせました。
そのなかから、いわゆる書類選考で16名ほどの方をオンラインで面接し、6名を選びました。
― その6名はどんな基準で選考されたのでしょうか。
山下 まず、「高額の報酬が必要です」と言う方はご遠慮いただきました。また、鳥取というこのローカルな地をご存じでない人は難しいだろう、と判断しました。重視したのは、面白がってもらえること。ガチで真面目な仕事というよりは、地域貢献という意識や、何だろうという好奇心をくすぐられて応募してくれた人を選びました。
― 選考にあたっては、お二人との相性みたいなものも重視したのでしょうか。
山下 そうですね。このプロジェクトは中原と私が担当者ですので、私たちとフィーリングが合いそうな人たちです。
鳥取というハイパーローカルな地
中原 面接というより、鳥取ってこういうところなんですよ、こんなことがあるんですよ、というぶっちゃけ話をしました。6名はそれに対し「へえそうなんですか」と、興味をもってくれた人たちです。仕事というミクロなものではなく、私たちコミュニティFMあるいは鳥取というマクロなものを見てくれた。
それに加えて、その人の本業に関わる部分で、豊かなアウトプットを出してくれそうな人を選びました。実際、面接の時点で、「こんなことはどうでしょうか」「こんなことができますね」という会話が多々生まれていました。今後もそういうアイデアを出してくれそうな人を選んだということです。
― 経歴はどのような人たちなのでしょうか。
山下 大手企業の人が2名、うち1名は広報の人です。情報発信のやり方に詳しいのではないかと、広報の人は大歓迎でした。あとはコンサルティング会社や金融機関にいて、今は幅広く自分で仕事をしている人もいます。県内出身者で、大手企業に勤務後、定年退職し今は自営業の人もいます。稼ぐために日々あくせくしているというよりは、経済的余裕のある人たちばかりです。
― 鳥取に詳しい、というのは結構ハードルが高かったと思うのですが、なぜそこまで必要なのでしょうか。
中原 広告を例にお話ししましょう。たとえば、今世間で最も流行っている広告媒体といえば、YouTubeだと思うんです。でも鳥取でYouTubeに広告を出しても、ほとんどの人に見てもらえない。YouTube? 自分と関係ないや、と思ってしまうんです。
わかりやすくいうと、その広告に出ている人を知っているか、知らないか、知っていても、いい人か、そうでもないかで、その商品を好ましいと思うかどうかが決まる。私流にいうと、「ハイパーローカル」な人たちばかりなんです。東京のコンサルティング会社が推奨しそうな、最先端の広告戦略というものがまったく通用しない。
私は社長ですが、実は自分のラジオ番組ももっており、ロジャーと名乗っています。この山下はアナウンサーでもある。つまり、二人ともFM鳥取の経営陣であるとともに、しゃべり手でもあるんですが、われわれに出資している地元企業やスポンサーの営業パーソンでもある。われわれはもちろん、鳥取について隅から隅まで熟知していますから、「この人がこう言うなら」という形で、リスナーの人たちが私たちの言葉を受け入れてくれるんです。
思いがけないヒントやアイデアで脳が活性化
― 実際、6名の仕事はいつから、どのようにスタートしたのでしょうか。
山下 選考に予想外に時間がかかり、実際の業務が始まったのは昨年11月でした。それ以来、毎月1回ないしは2回、オンラインで打ち合わせをやってきました。平日の夜7時から8時までの1時間ですが、盛り上がって9時になってしまうこともありました。最初は6名だったのですが、家の事情などから辞めざるを得ない人が2名いて、現在は4名です。
最初は、田舎や都会に対する、お互いの間違った固定観念をなくすことを心掛けました。田舎はこうだよねと思い込んでいること、都会はこうだよねと思い込んでいることを挙げてもらい、それが実態からどう離れているかという話からスタートしました。それを認識したうえで、ラジオで何ができそうか、各自に考えてもらいました。その次の回は各自に発表してもらい、意見交換したり、出されたアイデアを膨らませたりしました。詳細かつ秀逸な資料とともに発表してくれた人もいて、感激しました。
― そうした会合を開催してきて、感触はどうでしょうか。
山下 普段だったらお話をする機会がないような人たちばかりなので、脳が活性化されます。いつも使わない部分がフル稼働している感じがします。
中原 思いがけないアイデアやヒントをたくさんもらえ、ありがたいと思っています。
― 逆に苦労したことや困ったことはありますでしょうか。
山下 苦労というのは考えたことがありませんが、唯一あるとしたら、全員が集まることができる日時を設定することくらいでしょうか。実はこの企画、今のところ報酬をお支払いしていないんです。何か企画が実現した時点で、何かしらの対価をご提供することになっているんです。それでいいますと、「こんなに一生懸命になっていただき、申し訳ない」という気持ちです。
― 企画というのは、たとえばどのようなものを想定しているのでしょうか。
山下 県外の企業や団体が、それだったらお金を出してもいい、と思ってくれるような「ウルトラC」の企画です。それも単発ではなく継続的、という非常に難しい条件がつきます。
中原 かなり無理な注文であることは私たちも承知しています。でもこれは人口減少に悩む地方ならどこでも抱えている共通課題でもあるんです。地方が死ぬと、都市も死にます。都市の住民というのは元を辿ると、地方が生み育ててきた人たちだからです。国や都市の繁栄を支えるのは人口です。地方から都市への人口の流入がなくなるわけです。それを何とかするには、地方にお金を流入させなければならない。私たちが模索しているラジオの未来というのは、そのための試みなんです。
副業受入れは地方企業にとって重要な人材獲得手段
― 地方の人口減少を止めるのは無理だから、旅行者などの関係人口を増やすべきだ、という話もありますね。
中原 関係人口を増やすことはよいことだと思います。ただ、どうしても、それだけでは地元全体を潤すというレベルに到達するのは難しいかも……と、感じています。どうにか、ウルトラCを使って、お金が流れてくる仕組みをつくりたいと思って、日々ずーっと、もがいています。
― 想像以上に大きな問題意識が背景にあるわけですね。副業者の人たちにとっても刺激の高い場になっているのではないでしょうか。
山下 そうですね。Slack(ビジネス用のメッセージアプリ)でこのプロジェクト専用のワークスペースを開設しました。情報共有のためですが、副業者の方々同士もそこで親交を深めています。
― 最後に一つ、質問をさせてください。地方の企業にとって副業受入れというのは、地方で不足している人材を外から一時的に連れてくる手段だと考えています。この仕組みについてはどうお考えでしょうか。
山下 すごくいい仕組みだと思います。県内には専門人材の不足で困っている企業がたくさんあります。そうした企業が、ある仕事を切り出し、それを得意とする都会の人に任せるという仕組みはもっと広がっていい。地方にとってはありがたいシステムです。
中原 業務のマニュアル化が進んでいる企業ほど副業者への委託がしやすいはずですから、使わない手はないでしょう。
聞き手:千野翔平
執筆:荻野進介