コロナ禍下の組織業績における組織文化の影響
4つの組織文化と「個人適応」・「組織業績」の関係
2022年1月19日現在、新型コロナウィルスに関連する倒産の件数は2681件となった(※1)。また、財務省(2021)(※2)でも、2020年度決算で企業業績が「減収」となった企業は58.9%を占め、コロナ禍において企業の業績低下が問題視されている。そのため、企業はコロナ禍における企業活動の活性化に向けて、組織マネジメント上のさまざまな施策が行われている。本企画『企業が語る「集まる意味」の現在地』においても、コロナ禍において事業形態や組織文化・組織風土に応じて各社多様な施策が展開されている。
組織文化とは「組織に共有された価値観や行動規範、行動様式のパターン」と定義されており(※3)、組織文化が業績や個人の適応に影響を及ぼすことを示す研究が蓄積されている(※4)。したがって、新たな時代の「集まり方」を考える際には、組織文化の影響を考える必要がある。そこで、本稿では、コロナ禍における組織文化の影響について、個人の適応を表す「仕事の満足感」と「仕事の充実感」ならびに組織の業績を表す「中長期的懸念」と「業績に関する評価」に焦点を当てて検討する。それにより、各社が新たな時代の集まり方を考える際の視点を提供したいと考える。
なお、組織文化はさまざまな測定手法が開発されている(※5)(※6)。本調査ではCameron & Quinn (1999)(※7)による組織文化の尺度を用いた。Cameron & Quinn (1999)では、組織文化を「規則文化」「集団文化」「革新文化」「競争文化」という4つの下位側面に分類している(それぞれの内容については図表1を参照のこと)。
図表1
組織文化のばらつき
まず、本調査の回答者が所属する組織の組織文化のばらつきを算出した(図表2)。
図表2
組織文化の選択肢の比率では、規則文化が最も高く、次いで、集団文化、革新文化、競争文化の順であった。また、規則文化と集団文化の肯定率(あてはまる+ややあてはまるが選択された割合)は50%を超えていた一方で、革新文化と競争文化の肯定率は30%程度であった。したがって、多くの組織が規則文化や集団文化の側面を有しており、革新文化や競争文化の側面を有する企業は多くなかった。
組織文化が仕事への充実感・満足感に及ぼす影響
組織文化が個人の適応(「仕事への充実感」と「仕事への満足感」)に及ぼす影響を検討するために重回帰分析を実施した(図表3)。
まず、組織文化は「仕事への充実感」を説明しやすい一方で、「仕事への満足感」を説明できていなかった。すなわち、組織文化は「仕事への満足感」よりも、「仕事への充実感」に対して影響を持ちやすいと考えられる。また、組織文化それぞれの要素別に見ると、「規則文化」は個人の適応を促進しづらいが、「集団文化」は個人の適応を促進しやすかった。また、革新文化と競争文化は、仕事への満足感に対する影響がない一方で、仕事への充実感を高めていた。
図表3
組織文化が中長期的な懸念に及ぼす影響
次に、組織文化が中長期的な懸念に及ぼす影響を検討した(図表4)。その結果、規則文化が高い組織であると認識するほど「職場の一体感やチームワークが弱くなる」や「離職者ややる気のない人が出てくる」という懸念を持ちやすく、集団文化が高い組織であると認識するほど「離職者ややる気のない人が出てくる」や「新卒・中途の新入社員の早期離職が増える」という懸念を持ちづらかった。また、革新文化が高いほど「職場全体の仕事の効率や生産性が下がる」や「新しい取組や新規事業が生まれなくなる」という懸念を持ちづらかった。
つまり、規則文化が高い組織では人的資源に関する懸念が抱かれやすい一方で、集団文化が高い組織では人的資源に関する懸念が抱かれにくかった。また、革新文化が高いほど経営成果に関する懸念が抱かれにくかった。
図表4
組織文化が企業の業績評価に及ぼす影響
最後に、組織文化が企業の業績評価に及ぼす影響を検討するために重回帰分析を実施した(図表5)。その結果、革新文化の高い組織であると認識しているほど「職場の業績の変化」「職場の一体感の変化」「企業文化や組織風土の継承」が増えたと認識されていた。また、集団文化の高い組織であると認識されているほど「職場の一体感の変化」が増えたと認識されていた。すなわち、集団文化が高い組織は職場の一体感を高め、革新文化が高い組織は職場の一体感だけではなく、職場の業績も高めていたと解釈される。
図表5
組織文化による影響のまとめ
まず、組織文化の傾向としては規則文化、集団文化であると認識される組織が多い一方で、革新文化や競争文化であると認識される組織が少なかった。また、重回帰分析の結果から、規則文化が高いと認識されている組織では、コロナ禍の環境変化の影響で職場の一体感やチームワークが弱くなると予測されやすかった。規則文化が高い組織は、ルールや官僚的な手段を重要視しており、コロナ禍の環境変化に応じたさまざまな対応をするのが困難になると推測され、コロナ禍下での柔軟な対応が難しいために、中長期的な懸念が高まったと考えられる。
また、重回帰分析の結果を図表6にまとめた。図表6から、集団文化が高い組織では人的資源の懸念を抱きづらく、職場の一体感が増えたと回答し、革新文化が高い組織では経営成果に関連する懸念を抱きづらく、さまざまな成果が増えたと回答していた。つまり、柔軟性が高い組織文化であると、懸念を持ちづらく、経営成果が高まっていた。新型コロナウィルスによる社会情勢の変化に対応するだけの柔軟性を有していたために、中長期の懸念を持ちづらかったと考えられる。また、集団文化は内部重視、つまり集団における従業員の一体感が高い組織である。すなわち、集団文化が高いと認識されている組織は柔軟に従業員のコミットメントを高められることから、コロナ禍でも人間関係における肯定的な変化をもたらしやすかったと推測される。一方で、革新文化は外部重視、つまり外的な環境への働きかけを重視する組織である。革新文化が高いと認識されている組織は、不確実な環境においても適切に対応することができるために、業績が向上したと評価されやすかったと考えられる。
さらに、個人の適応に着目すると、集団文化は仕事への満足感と充実感を高めており、革新文化と競争文化は充実感のみを高めていた。集団文化は先述のように、従業員の組織へのコミットメントを高めやすいことから、コロナ禍においても適応を促していたと考えられる。一方で、革新文化と競争文化は外部重視の組織文化であり、業績向上に向けて取り組もうとすることで、仕事への充実感を高めていたと推測される。
図表6
以上を要約すると、新型コロナウィルスによる社会情勢の変化に対して、柔軟に対応できる組織文化を有する組織では、中長期の懸念を抱えることなく、業績が向上したと評価されていた。したがって、「集まり方」を考えるうえでは、従来の「集まり方」に固執しすぎるのではなく、「集まり方」も柔軟に変化させることが個々人の不安を低減させ、生き生きとした働き方をもたらし、経営成果も高められると考えられる。
(※1)帝国データバンク(2022). 新型コロナウイルス関連倒産(https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/index.html)
(※2)財務省 (2021). 新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響 財務局調査 (https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/202004/singatakoronavirus100.pdf)
(※3)北居 明(2014)学習を促す組織文化―マルチレベル・アプローチによる実証分析 有斐閣.
(※4)北居 明(2005)組織文化と経営成果の関係:定量的研究の展開 大阪府立大學経済研究,50,141-164.
(※5)北居 明(2011a)組織文化の測定と効果:代表的測定尺度の検討(上) 大阪府立大學経済研究,57(1),41-66.
(※6)北居 明(2011b)組織文化の測定と効果:代表的測定尺度の検討(下) 大阪府立大學経済研究,57(2),49-67.
(※7)Cameron, K & Quinn, R. (1999) Diagnosing and Changing Organizational Culture: Based on the Competing Values Framework, Addison-Wesley.