萬運輸:「中継輸送」でドライバーの負担を軽減
深刻な人手不足が叫ばれる運送業界。長時間労働に不規則な勤務スタイル、低賃金など解決すべき課題が山積している。そんな中、ドライバーの負担の軽減策として注目されているのが「中継輸送」だ。中継輸送とは、長距離の輸送工程を1人のドライバーが担当するのではなく、複数人で分担する輸送方式を指す。今回は、この中継輸送を他社との協業で実現した萬運輸株式会社の東海林憲彦社長にインタビュー。企業内で行われるのが一般的な中継輸送を、なぜ協業で実現できたのか。中継輸送でドライバーの働き方はどう変わったのか。同社の取り組みを起点に、運送業界の働き方を考える。(聞き手:坂本貴志)
他社との協業で「中継輸送」を実現
── 今年(2021年)3月に、東北~関東の地区間で中継輸送を開始しました。取り組みの背景を教えてください。
萬運輸は、神奈川県横浜市にある物流・運送企業です。冷凍・冷蔵商品、機械部品を中心に、様々な貨物を全国に向けて輸送しています。従業員数は200名(2021年11月時点)で、うち120名ほどがトラックのドライバーです。仙台市にある株式会社仙台配送と中継輸送の提携に至ったのは、「長距離運輸によるドライバーの負担を軽減したい」という思いが一致したから。長距離の運輸は、運転時間が10時間を超えたり、車内やホテルで宿泊する必要があったりと、ドライバーに過重な負担がかかるのが課題でした。
今回の取り組みは「ドライバー交代方式」と呼ばれるものです。仙台―相模原間で実施しており、ドライバーが福島にある中継地点でトラックを乗り換えます。相模原から出発した当社のドライバーは相模原に、仙台から出発した仙台配送のドライバーは仙台に、トラックだけ交換してそれぞれUターンするかたちです。これにより、ドライバーは長距離運輸でも宿泊をする必要がなくなり、毎日家に帰れるようになりました。
── これまでも同じ会社内やグループ会社内では中継輸送がありましたが、「ドライバー交代方式」の、他社との協業による実施は珍しいと聞きます。なぜ実現できたのでしょうか。
仙台配送の尾上(寿昭)社長とは10年以上前から知り合いで、これまでも働き方の改善などについて意見を交換していたため、その信頼関係がまず大きいと思います。日頃からトラックドライバーが長く、快適に働ける環境を作るための打ち手を考えており、その一つが中継輸送だった、というわけです。
社長同士の働き方に関する考えが近いため、現場のドライバー同士のトラブルもほとんどなく、今回の取り組みにはかなりの手応えを感じています。現在、この路線で働いているドライバー数名にも、「毎日家に帰れるので身体が楽になった」と好評です。
意外な副産物として、車中泊などによるアイドリングがなくなったため、燃料代の節約につながりました。それから、今回の取り組みがメディアで取り上げられたことにより、採用にもいい影響がありましたね。それまではコロナ禍もあってほとんどドライバーの応募がなかったのですが、今回の取り組みや、その他の働き方改善の施策が功を奏し、今では月に5〜6名から応募が来るようになりました。
国も注目する中継輸送
── 中継輸送を実施する上で、大変だった点はありますか?
2社が関わるので、ドライバーのシフトをどう組むかや、いろいろな事故が起きたときの対応フロー、補償問題などは、やはり普段とは異なる調整が必要でした。構想から足掛け3〜4年ほどで、一つひとつ課題をクリアしていったかたちです。
また、前例の少ない取り組みだったので、そもそもこのルートで中継輸送が可能なのかの検証もかなり念入りに行いました。実は、当社は2017年に国土交通省が進めている中継輸送の試験運行に参加したことがあります。この試験運行が、今回中継輸送に取り組んだきっかけでもあるのですが、このときに得た知見も生かしながら検証を進めました。
── 中継輸送は、国も注目する手法なのですね。
当社に限らず、運送業界全体で人手不足は差し迫った問題です。解決のためには、長時間労働や不規則な勤務シフト、賃金の低さなど様々な課題をクリアする必要があります。その中で、中継輸送はドライバーの長時間勤務の解消のほかに、不規則な就業形態の改善や、2〜3時間でのスポットでの勤務の実現などの点から注目されているのです。
一人あたりの運転時間は短くなるので、もちろん免許制度や定期的な専門教育、安全・品質への保証の仕組みは整える必要がありますが、コロナ禍で一気に普及したフードデリバリーのように配送業務をギグワーク(2~3時間など短時間だけ働き、継続した雇用関係のない働き方)化する、などの広がりも考えられます。普通免許を持っている人であれば、2〜3週間ほどの教習、もしくは1週間の合宿で大型免許がとれますからね。
これまでは男性が中心の業界でしたが、こうした自由な働き方が少しずつ増えていくことで、女性や若者など年齢や性別に関係なく、さまざまな人がこの業界に興味を持ってくれる可能性が高まるといいなと思います。
「働き方改革」と同時に「意識改革」を
── 中継輸送の取り組み含め、働き方改革を進めていく上で、意識していることはありますか?
単に働き方の制度を変えるのではなく、働く人の意識やマインドも変えられるよう促しています。20年、30年前と今とでは、やっぱり世の中も人も変わっていますから、それに合わせて私たちの価値観も刷新していかなくてはいけません。
たとえば、トラックはこれまで「保有」が前提でした。一日中乗って寝泊まりもするので、ドライバー自身も愛着を持っていて、自分の「書斎」のような感覚があったと思います。もちろん、それ自体は否定されるものではないですが、中継輸送などの取り組みを含め、今後はもっとトラックを「シェア」する価値観を取り入れていく必要があると思います。今や、一般企業の営業パーソンだって、カーシェアを使う時代です。この流れをきちんと汲まないと、いつまでも運送業界だけ遅れた業界になってしまう。それは、社員にも常々伝えていますね。
── 時代の変化に合わせて、考え方そのものも変えていく必要がある、と。
そうです。それこそ、先ほどお話ししたギグワーク化も、シェアの一つのあり方でしょう。ほかにも、見直す余地のある価値観がこの業界にはたくさんあります。たとえば、高度経済成長期の日本を支えた「ジャスト・イン・タイム」での配送。必要なときに必要なものを供給する生産方式で、余剰在庫を持たないことで効率化を実現するものですが、人手不足の今、このジャスト・イン・タイムがドライバーの働き方にゆがみを生じさせているのも事実です。もちろん、商材ごとの特徴があるので一概にはいえませんが、この20年で生産方式も変わってきています。ならば、それに合わせて最適な物流・運送のあり方を模索していく必要があるはず。
極端な話ですが、普通免許を取る時点で、みながトラックを運転できるような技術まで身につけてもらうくらいが理想です。そうすればいつでもだれでも運輸業界に入っていけますから。このように、一つひとつ考えていくと運送の世界には変えられるポイントがたくさんあります。だからこそ、中継輸送を含め、今後も業界の働き方、考え方をアップデートできるような施策に取り組むつもりです。ドライバーが、楽しく、サステナブルに働けるような社会の実現に向け、現場から少しずつチャレンジしていきたいと思います。
執筆:高橋智香