一般社団法人 全国交通誘導DX推進協会:AI警備で業界課題を解決

2022年02月09日

KB-eye株式会社 代表取締役 秋山氏.jpgKB-eye株式会社 代表取締役 兼
一般社団法人全国交通誘導DX推進協会 代表理事
秋山一也氏

最新テクノロジーで、警備業界の課題を解決する──。そんな理念を掲げて活動するのが、全国交通誘導DX推進協会だ。2018年の設立以来、2号警備における人手不足や、警備員の肉体的・精神的ストレスを解消すべく、AI警備システムの啓蒙・導入支援などに取り組んでいる。今回は同協会の発起人である秋山一也氏に、テクノロジーを用いた警備の現在地と展望を聞いた。(聞き手:坂本貴志)

人手不足が深刻な業界課題に

── はじめに、協会の設立経緯を教えてください。

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全国交通誘導DX推進協会は、警備業界の人手不足に課題意識を持つ企業が集まって生まれました。警備の中でも、特に人手不足が顕著な2号警備(工事現場での交通警備やイベント会場などで行う警備の総称)に特化し、テクノロジーを活用した業務のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の啓蒙・推進や意見交換を行っています。現在(2021年12月時点)で、加盟企業は全国で11社。年々、当協会に興味を持ってくださる企業も増えている状況です。私自身、これまで20年ほど警備会社を経営していて、人手不足の問題をどうにか解決したいと考えていたので、こうして賛同してくれる方が多くいることを心強く感じています。

─ そもそも、なぜ2号警備は人手不足なのでしょうか?

需要と供給の2側面があります。まずは需要=交通警備のニーズが増えていることです。バブル期などと比較すると、公共・民間問わず工事の総数は減少傾向にありますが、相次ぐ事故の影響や近隣住民の声を受け、工事現場の安全対策の要請は年々強まっています。ところが、供給=警備員のリソースは、高齢化や相次ぐ早期離職の影響で追いついていない。ゆえに、もともと働き手が少ない地方企業を中心に、慢性的な人手不足が続いているのです。

こうした問題を解決するため、当協会ではAI警備システム「KB-eye for 交通誘導警備(以下KB-eye)」の啓蒙・導入支援に取り組んでいます。このシステムは、工事の規制区間付近に設置したカメラでAIが車両や歩行者を検知し、無線で離れた場所にいる警備員にその旨を伝えたり、専用のLEDパネルで交通誘導したりする、というもの。

わかりやすいのは、「片側交互通行」と呼ばれる現場です。幅員が狭い道路で1車線を塞ぐ場合、もう片方の車線で両方向の一般車を通行させる必要があるため、始点と終点の双方に警備員を配置しなくてはなりませんでした。ですが、一方をAI警備システムにすることで、これまで5名必要だった現場のオペレーションを3名で回せるのです。

期待集まるAI警備。200以上の現場で実証実験

── AI警備は、現在どれくらい普及しているのですか?

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KB-eyeの場合は、国土交通省と共同で実証実験を行っている段階です。2018年から累計で200現場ほどの実績があり、実用化に向けて検証を重ねています。都内のように人や車の往来が多かったり、複雑な判断が必要だったりする場所はまだ向いていませんが、それ以外の場所では、地方を中心にほぼどこでも導入いただける状態まで来ていると思います。

普及にあたって、焦点になるのは大きく2つ。①所轄の警察署から道路使用許可がもらえるか、②(公共工事での利用がメインになるので)発注先である国や県、市町村などから許諾がもらえるか、です。現時点での事故件数はゼロですし、国土交通省のコンソーシアムでは「生産性を上げる革新的技術導入プロジェクト」としても採択されているため、実用化に向けて着実にステップを踏んでいます。今後も、引き続き実証の事例を増やしつつ、ステークホルダーに対して安全性と実用性を啓蒙したい所存です。特に、国や自治体の導入では期初の予算に組み込んでもらう必要があるので、工事を請け負う建築・土木企業も含めて、丁寧にコミュニケーションしていきたいですね。

── 安全性のほかに、人件費削減などのメリットもあるのですか?

システム導入への初期投資が必要になるので、いきなりコストが安くなるかというとなんとも言えません。ですが、中長期的に見ると残業代の支払いなどが減るので安くつくと考えられます。何より、警備員の肉体的・精神的なストレスを軽減できるのがメリットですね。警備の中でも、交通警備は負担が大きいといわれています。

長時間の立哨(立って警備すること)がメインなので、疲労がかさみますし、暑さや寒さ、雨といった天候に警備員のコンディションが左右される。さらに、交通警備は常に事故のリスクと隣り合わせで、年間10名ほどの警備員が命を落としています。AI警備が普及すれば、こうした負担を軽減できる上に、警備員一人ひとりがよりパフォーマンスの高い状態で業務にあたれます。従来は労働集約的だった警備業ですが、今後テクノロジーが普及していくと、より付加価値の高いサービスを提供する企業に軍配が上がるでしょう。

人員定着・採用への効果も

── 働く上での負荷が減れば、自ずと離職率も下がりそうです。

おっしゃる通りで、この取り組みは人材の定着にも効果があると考えています。残念ながら、この業界は仕事の面白さを理解する前に辞めてしまう人がとても多い。長く警備を生業とする身からすると、この状況は非常にもったいないなと感じます。少しでも彼らの負担を軽減し、この仕事の面白さややりがいを感じてもらう機会が増やせればうれしいですね。

加えて、テクノロジーを活用しているとわかれば、AI警備システムのような機械を触ってみたい若手世代や、「なんとなくつらそう」とこの仕事を避けていた方々にも興味を持ってもらえるのでは、と考えています。従来のイメージを少しずつ変えながら、これまでとは違う層の働き手にも積極的に入ってきていただけるようにしたいです。

これまでも経営者として、協会理事として、様々な手段を用いて警備員の働き方改善について働きかけてきました。ですが、その中でも最もインパクトがあるのがテクノロジー活用だと確信しています。今後も、同じ志を持つ全国の企業や関係者の方とともに、警備業界のDXに邁進していきたいです。

執筆:高橋智香