社会に溶け込むギグエコノミーの社会課題──村田弘美
2019年から2020年にかけて「ギグ」についての取材や執筆依頼が続いた。数年前はギグとは何か?というベーシックな問いがほとんどだったが、コロナ禍で、消費者がUber Eatsのサイトを利用して、飲食店から自宅に食事を配達してもらうことが世のなかに定着したことから、ギグワーク=Uber Eatsのようなもの、という認識がされているようである。ここで、再度ギグとは何か、まとめておきたい。
ギグは一度限りの仕事
ギグエコノミーは、インターネットで仲介され雇用関係がない単発の仕事を請け負うという定義で、ギグエコノミーで働く人はギグワーカーと呼ばれる。「ギグ」はライブハウスなどで、ミュージシャンがその場で一度限りのセッション(演奏)をすることから派生し、一度限りの仕事という意味で使われている。
米国のギグワーカーの人材規模は、約5,200万人と、米国の労働力人口の約35%相当する。プライスウォーターハウスクーパースの予測では、7年後には世界で37兆円の市場になるという。
一方、日本ではギグの正確な統計や調査はないが、クラウドソーシングの大手4社の累計登録者数(副業を含む)は2020年5月時点で、約700万人(2019年末比で約15%増)と、これは全就業者数の約1割に相当する。増加の背景は、①人材不足、②テクノロジーの進化、③働き方の変化、④副業を容認する企業の増加などが挙げられる。2021年4月には、改正高齢者雇用安定法によって70歳までの就業機会の確保策として、社員から業務委託への移行が支援されることから、近い将来、シニアのギグワーカーも増加するだろう。
ギグワーカーの報酬は7円から100万円まで
ギグのサービスを大別すると、高い知識や技術を提供するもの、趣味や特技の延長にあるもの、すきま時間に働ける簡単なものなどさまざまな領域の業務がある(表1)。個人のスキル・能力、時間のシェアリングのビジネスといってもよいだろう。報酬形態は、歩合制や出来高制が多い。報酬は公式統計がないため、2つの参考数値を挙げる。
1つ目は、求人媒体のインディードの2019年の調査で、業務委託募集4万6817件のうち105サンプルの報酬金額を見ると、事務職では入力で1工程あたり7円、テープ起こし1件1500円、営業職は1件成約で1万円、カメラマンは日給8000円、ライターは日給3000~3万円、ドライバーは日給1万2000円、インストラクターは1レッスン3500円、ウェブサイトの開発職は月額100万円など、職種や仕事内容、件数によって報酬金額は大きく異なる。
2つ目は、リクルートワークス研究所の調査で、本業フリーランサー324万人の平均報酬額は年額298.7万円を平均労働時間から算出すると「時給1800円」となる。職種によって異なるが、事務職1815円、営業職1943円、クリエイティブ職1762円であった。
ギグワーカーの保護など課題は山積している
ギグで働く就業者は自身が雇用なのか自営なのかをよく分かっていないケースも多く、ギグの課題は多い。
1つ目は、公式統計がなく実態が正確に把握されていない。
2つ目は、大手企業からの発注が少ないこと。これは個人の信用保証の低さや、雇用以外の人材調達方法があまり認知されていないことによる。
3つ目は、対個人の契約金額が小規模であること。これは不履行や瑕疵の場合に全額補償がされない懸念があるためである。
4つ目は、疑似雇用の問題、5つ目は、偽装請負の問題、6つ目は、日本の労働者保護の考え方は、雇用契約を前提として構築されているためギグワーカーの保護が少ないことである。これらの課題に対して、契約書の締結や労災保険への特別加入など、保護の必要性については、厚生労働省の委員会などで慎重に検討されている。また、フリーランサーの協会や民間企業が個人加入できる保険を推奨、サポートしている。しかし根本にある雇用と就業者の身分の違いや、格差などは未だ解消されていない。
ギグエコノミーの市場拡大のカギは何か
明日からギグワーカーになれるのか。答えはYES。いまは仲介事業者などのサービスが高次化したこともあり、サービス登録をすれば即開始できる。仲介事業者は発注側の企業のニーズや、ギグワーカーの現状をつかみ、客観的な判断のもと、それに対応した契約の在り方やルールの在り方、情報の透明性、サービスモデル、サポート体制などをつくっている。また、協会でも個人契約のサポートや各保険を整備している。
各所でインフラが整備されることで、安心・安全かつ雇用よりも数歩進んだ、フェアで自由な労働市場の整備ができ、安心してギグワーカーを選択できる社会をつくることができるだろう。
表1 ギグワークの一例