オープンイノベーション実現のための3つの壁 中尾隆一郎

2017年10月26日

Why not us?

なぜ急成長を遂げているのはシリコンバレーの企業であって、我々ではないのだろう? GEがデジタルカンパニーへ変化するきっかけとなった前CEOジェフリー・イメルトの言葉だ。その後、GEは幹部自らシリコンバレーに学び、企業ドメインに加えて、仕事の進め方、評価の仕方まで大胆に変えていった。
そのシリコンバレーでは、社内の壁を取り払ったオープンイノベーションが活発だ。シリコンバレーのデータサイエンティストたちは自社の最先端のデータを使った分析結果を論文発表し、専門家からのフィードバックを受けることで、切磋琢磨している。データサイエンティストは、文字どおり科学者的側面があり、論文発表を制限する企業は採用が困難になる。その結果、最先端の知がオープンに循環している。

翻って、日本ではどうだろう。オープンイノベーションと言いながら、まずはNDA(秘密保持契約)を結んでから情報交換を始める。あるいは、大企業は、スタートアップのアイデアを出資という形で制限しようとする。オープンと言っても、「制限付きのオープンイノベーション」だ。
これらの制限を打ち破り、本当のオープンイノベーションで知の交換を実現するには3つの壁を超える必要がある。
(1)社内の壁:外部に情報を出すためには、社内の各種ルール、手続きや暗黙の常識を超えることが必要。(2)量の壁:テーマについて議論するためには、一定数以上の専門家ネットワークを持っていることが必要。
(3)質の壁:さらにイノベーションを起こすためには、業界、職種、専門性を超えたネットワークを持っていることが必要。
つまり、(1)自ら社内の重要情報を外部に提供し、(2)同業界や(3)異業界の専門家からのフィードバックを貰い、それを参考に磨きこみ、また情報提供を行うというループを作ることが必要だ。言うのは簡単。だが、実践するのはなかなか難しい。だから壁という表現を使った。

3つの壁の乗り超え方?

論より、事例ということで、この壁を超えている実践者にインタビューを行ってみた。
まずは東急ハンズ執行役員でハンズラボCEOの長谷川氏。
自社のIT関連の重要事項でもフェイスブックに投稿し、友人である専門家からフィードバックをもらうことを実践している。出してはいけない情報を最小限に留め、次々に投稿している。例えば、あるルータのスペックが表示通りであれば、自社のルータをすべて置き換えるという具合だ。そこに様々な情報が集まってくる。IT関連の人たちは、(1)社内の壁を勝手に作っているケースが多く、大概の情報は、競争戦略上重要でないとアドバイスする。

続いてアドバンスト・テクノロジー・ラボ(ATL)の櫻井氏。
このATLでは、最先端のVR機器を無料で貸出し、客員研究員という肩書を与えた上に、そこで出来上がったものに「Made in ATL」さえ付ければ、権利は主張しないという太っ腹さで、新たなエンジニアのネットワークを作り上げている。このATLという施設をつくる際の(1)社内の壁の超え方が参考になる。

また、アトラエの岡CTOが紹介してくれたYenta。
AIが私たちのビジネスネットワークを作るのを支援するアプリだ。私自身もこのアプリを使って様々な業界、年齢も20代前半から40代後半という多様な方々と実際に会って情報交換を行うことができた。(2)、(3)の壁を低くしてくれるサービスだ。

今後もホラクラシー経営を実践し、情報を社内外に開示しているダイヤモンドメディアの武井社長、医者向け情報交換アプリを作成しているAntaaの中山社長など、オープンイノベーションを起こしている方々をワークス研究所のコラム上で紹介していく。もしも、3つの壁を越えてオープンイノベーションを実践している方をご存知であれば、ご紹介頂きたい。
3つの壁を超えてオープンイノベーションを実践している人や会社が少しでも増えることを支援していきたい。

参考
GE 巨人の復活 シリコンバレー式「デジタル製造業」への挑戦:中田敦
https://eb.store.nikkei.com/asp/ShowItemDetailStart.do?itemId=D2-00P55110B0
オープンイノベーションに3つの壁 中尾隆一郎氏 日経BP社 10月6日 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21588730X20C17A9SHE000/

中尾 隆一郎

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