地域移動した人材が活躍する組織とは? 城倉亮

2016年01月27日

「自分の価値を生かして貢献できる場がこの会社にあること、これが全てですね」

Iターンしてある企業に中途入社し、経営層として活躍している方が「Iターンして一番良かったと思うこと」として語ったコメントである。
2015年度リクルートワークス研究所のプロジェクトの一つである「地域移動と就労に関する研究」にて、各地にUIターンし組織内で活躍されている方々にインタビュー調査を行っている。
UIターンという地域移動を伴うキャリアチェンジが個人の働き方にどのような影響を与えるのか。
地方創生が声高に叫ばれているなか、地域移動を成功させるためには何がキーとなるのか。
私たちは、その解決のヒントを地域で活躍しているUIターン人材から見出そうとしている。都市圏を離れ、各地域で活躍する人たちの「実態」に迫り、活躍のメカニズムを解き明かしている。

UIターンは「異文化適応」のプロセスを辿る

インタビュー調査を重ねていくなかで、一つの形が見えてきた。それは、多くの方が、異文化適応のプロセスとして知られる「U型曲線」と類似した経験をしていることだ。「U型曲線」とは、異文化へ適応する感情の時間経過をU字になぞらえて説明した理論である。異文化の環境に入った直後は「ハネムーン期」と呼ばれる時期で感情が高まるが、様々な違いに直面する「カルチャーショック期」に落ち込み、再度、「適応期」「習熟期」を迎えて高まっていく、とされている。海外派遣者の異文化適応のケースでよく用いられるが、UIターンでも、生活面はもちろんのこと、仕事上でも、マーケット、ネットワーク、仕事の進め方など、大きな変化を伴うため、多くの方が同様のプロセスを辿ることになる。そのため、適応のプロセスにうまく乗れずに力を発揮できないケースが散見されている。
では、受入側はどうすれば、入社直後にぶつかるハードルを下げ、適応を促進し、より大きな成果を上げられるのか。
インタビュー調査を通じて現段階で見えているものとして、次の3点が挙げられる。
・対峙するマーケットの違いに戸惑う。経営者がスピーディなキャッチアップを支援する。
・摩擦はどこかで必ず生まれる。経営者・上司などがクッション役の支援者になる。
・すぐに成果は出ない。性急に成果を求めず、期待を伝え続けるコミュニケーションをとる。
陥りがちなパターンが解明できれば、受入側として打ち手が打て、好循環が生みだせる。インタビュー調査とあわせてアンケート調査も実施して分析を進め、メカニズムの更なる解明に取り組んでいる。

いま各地にチャンスが溢れている

「新卒のときには、地元にこんな会社があるなんて知らなかったんですよね」

インタビュー調査にご協力いただいた、ある企業にUターンされた方のコメントだ。この方は、たまたま自らのチャレンジと合致する地元企業に出会い、「やりたい仕事」を軸に検討した結果、Uターンに至った。
このように、経験を生かせるワクワクするようなチャンスが、いま日本各地に溢れている。企業を強くしていくために、新たな取り組みを促す「事業創造人材」が各地で求められている。新しいビジネスを立ち上げてマーケットを拡大していくことが事業創造の取り組みとしてすぐに頭に浮かぶ。一方で、競争環境の厳しいグローバルビジネスに揉まれた経験を持つ人材が、既存ビジネスにメスを入れて、新しいモデルへと再生産していくこと、これも一つの事業創造のパターンである。地方のビジネスの現場はまだまだ改善の余地がある。ビジネスモデルを改善し生産性を高めていくことが、地域に活力を生みだす最短のルートであり、まず取り組める施策ではないか。
これからの10年、20年はテクノロジーの進化も伴い、大きな変革期を迎える。企業と個人、それぞれにとって、危機であると同時に、新たなチャンスの果実が目の前にぶら下がっている状態でもある。機は熟している。
「自分の価値を生かして貢献できる場」がそこにある。

城倉亮

[関連するコンテンツ]