学生時代のどのような経験が役に立つのか 辰巳哲子
新卒採用場面では、必ず過去の経験を尋ねるが、どのような経験が「正解」なのだろう。部活のリーダーシップ経験や起業経験、留学経験をアピールしてくる学生は多い。私たちはそうした経験の背後に、どのような能力を期待しているのだろう。
採用担当者として把握しておきたいのは、どんな経験をしたのかということよりも、学生時代の経験が個人の中でどのように意味づけられているのかということだろう。例えば、学生時代に感じた壁はどのようなもので、その壁をどう乗り越えたのか、課題を他者のせいにせず、「自分ごと」として捉えられる人なのだろうか、チームで働ける人なのか、そして、経験からの学習は次の経験に活かされているのか、基礎力に代表される能力の獲得につながっているのか、ということを知りたいはずだ。
また、大学でもインターンシップやキャリアデザインの授業に代表されるキャリア教育が盛んに実施されているが、本コラムでは、インターンシップなどの就業体験だけでなく、経験を通じた学習としてのキャリア教育にも改めて目を向けてみたい。
経験を意味づけする力
Deweyは、「経験」は2種類に分けられるとしている。1つは行き当たりばったりの試行錯誤的なものであり、もう1つは、リフレクティブ(reflective)なものである。この場合のリフレクティブというのは、省察可能であること、ふりかえりができることを意味している。「実際の経験」と「経験の結果生じた結果」との間の関連を発見し、両者が連続的になるようにする意図的な努力のことを意味している。
経験を意味づけするにはDeweyのいうところの「意図的な努力」が必要であり、このような経験の意味づけは、近年「ふりかえり」「内省」能力として、大学教育にもその能力開発が求められるようになっている。この背景には、ジェネリックスキルや基礎力、21世紀型スキルなど、全世界的な流れとして、学校教育に対しても、何を知っているかではなく、持っている知識をどう使いこなせるかが強調されてきていることにある。そしてこうした能力の開発には、リフレクションが必要だ。
成長させてくれた学校時代の経験
そもそも、個人は過去の経験をどのように意味づけしているのだろう?ここでは若年者の経験からの学習について確認するために、全国の15歳~64歳の働く男女約1万人を対象とした調査から、高校時代・大学時代の経験について、「当時あなたをもっとも成長させてくれた経験はどのような経験でしたか」「その経験を通じて、何を得ましたか?」と、経験を通じた学習について回想法で尋ねた結果を紹介する。
大学時代の「成長させてくれた経験」を確認すると、回答数の多い順に、アルバイト、友人関係、専門分野の学習、サークル・同好会・部活動が続く(表1)。インターンシップなどの就業体験を挙げる人は少ない。
表1.大学時代の経験
以下では、このうち、上位8つの経験について、経験を通じた学習を取り上げる。
大学時代の経験からの学習
表2は、これら大学時代の経験を通じて、何を学習したのかを尋ねた結果である。具体的には、「その経験を通じて何を獲得しましたか?」と、選択肢を挙げて尋ねた結果だ。
表2からは、協調性や精神的なタフさ、自分に対する自信など、多くの学習が、アルバイト経験を通じておこなわれたと考えている人が多いことがわかる。ただし、「物事の本質を捉える力」や、「将来やりたい仕事の分野やテーマの発見」は、専門分野の学習を通じて獲得されたと回答している傾向にある。また、「協調性」や「集団で物事を進める基本的なスキル」はサークルや部活動で獲得されたとする回答が多い。
経験から学習するための内省力
これまでに見てきたように、同じ経験をしていたとしても、それをどう意味づけ、学習するかは個人によって異なっている。例えば、部活動でバスケットをやっていた経験はバスケそのもののスキル向上につながるだろうが、同時に「他者を信頼して任せるということ」を学ぶ人もいる。そして、このような経験からの学習は、表2に示したように、ある特定の経験と親和性の高い「経験学習」が存在しているようだ。
経験を通じた学習を深化するためには内省が必要だ。内省する力は、社会人になってから一気に獲得しようとしても難しく、日々少しずつ開発されているものだ。学校時代に自分なりの内省の方略を獲得しているかどうかが、その後の能力開発の鍵になると思われる。
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