「ヒューマンクラウド」で変化する米労働市場 村田弘美

2015年08月05日

英オックスフォード大学のフレイ氏、オズボーン氏の調査によると、「今後10〜20年以内に、米国の702職種のうち47%がオートメーション化される」という結果となった。また、米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが専門家を対象に行った調査によると、「2025年までにロボットやAIが多くの労働者から仕事を奪う」という回答が48%を占めている。今後、テクノロジーの進化は労働者にどのような影響を及ぼすのだろうか。
企業人事も内部労働市場のみならず、テクノロジーを含めてあらゆる外部労働市場から労働力を調達するなど、新たな選択眼を養わなければならないだろう。

まずは、人的資源をどう活かすか

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米国でフリーランサーが増加している。フリーランサーとは、企業に雇われない個人事業主のことで、インディペンデントコントラクター、インディペンデントワーカーともいわれる。
フリーランサー先進国である米国での人数は5,300万人と、「労働力人口の3人に1人がフリーランサー」である※1。この数値はミレニアル世代(18〜34歳)の人数とほぼ同じ規模である。また、コンサルタントやIT技術者、デザイナーなどのプロフェッショナルに加えて、非プロフェッショナルの学生、新卒者、ムーンライターなどの副業者、空き時間に趣味を生かしているという者も含まれる。需要と供給のマッチングシステムが発達したことで、誰でも容易に仕事ができるようになった結果ともいえる。 OnForceによると、今後4年間にフリーランサーは33%増加するという予測もあり、フリーランスの労働力をいかに活用するかは社会課題となっている。
本コラムでは、フリーランサーをとりまく環境変化と、フリーランサーを支える社会システムについても考えてみたい。

「ヒューマンクラウド」の3つのサービス形態

「ヒューマンクラウド」は、デジタルまたはオンライン上で仕事が完結する働きかたを可能とするプラットフォームを指す。業務は特定の労働者か不特定の労働者に依頼するのか、また、労働者との関係性の深さによって、「オンラインスタッフィング」、「オンラインサービス」、「クラウドソーシング」など、利用するサービス形態も異なる。
SIAによると、「オンラインスタッフィング」は、UpworkやFreelancer.com、Task Rabbitのようなフリーランサーのマーケットプレイス・モデル。「オンラインサービス」は、SOW(Statement of Work、プロジェクトベースの短期間の有期労働者)のような労働者の供給ではなく、サービスやアウトプットを提供する契約。「クラウドソーシング」は、大量の業務をタスクごとに細分化し、不特定多数の労働者に作業を委託するモデルであるという。フリーランサーは職業別労働市場に埋もれたマーケットで、フリーランサーの互助システムはこれまでにもあったが、LinkedInのようなソーシャルメディアによる開かれた情報や、前述の企業と個人をテクノロジーでつなぐプラットフォームが整備されたことで、契約に必要な相場(価格)、実績、評判などの評価指標が増えて双方の利用しやすさを助長しており、これがフリーランサー増加の追い風となっている。
企業の人事部は、自社の労働力にフリーランサーをどう組み込み、最適化するにはどうしたらよいか。自社にどのようなフリーランサーを発掘し、採用・管理・報酬支払などが可能なフリーランサー・マネジメント・システム(FMS)を導入すべきか、改めてヒューマンクラウドを含めた人的資源の再配置について試行錯誤をはじめたところである。

「オンラインスタッフィング」が拡大

一方、人材サービス会社やスタッフィング会社は、これを大きな商機ととらえ、自社のリソースである派遣労働者や契約労働者に加えて、質の高いフリーランサーを調達するために、オンラインスタッフィング会社と提携しはじめた。「オンラインスタッフィング」のサービスを可能とすることで、顧客の戦略的パートナーとしての地位向上を狙っている。2015年4月時点で、オンラインスタッフィングを提供する企業は約150社あるが、SIAによると同市場規模は2020年までに460億ドルに達する見込みで、今後は、さらにグローバルに領域拡大し、サービスそのものも進化すると見られる。
サービスが拡大、多様化する中で、企業側はどのように見極めたらよいのか。
1つめは、質の高いプロフェッショナル人材のプールができているか。
2つめは、進捗状況や双方のコミュニケーションを活性化するオンラインプラットフォームが構築されているかを見るとよい。フリーランサーのマネジメントは非常に難しいため、そのサポートシステムが構築されているかどうかは大切な指標となる。

日本では、「ヒューマンクラウド」をどう活用するか

日本でフリーランサーは増加するのだろうか。米国官公庁や大手企業のように、フリーランサーとの取引の垣根が低くなる可能性はあるのだろうか。米国のフリーランサーを支えているのは、社会制度と外部労働市場の機能強化によるものである。日本の場合は、個人の能力スキルの変化、フリーランサーが置かれている市場やそれをとりまくサービスの変化を認識し、新たな社会制度の構図を描くことからはじめたい。新しい市場を支える基盤と、ワークルール、政府は最低限のインフラを整備しなければならない。高齢化が進むなか、プロフェッショナルを市場全体でどう共有したらよいのか。これが喫緊の課題であることは間違いない。

 

※1 Edelman Berland、Upwork(旧Elance−oDesk)、Staffing Industry Analysts(SIA)の推計

村田弘美

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