人事はデータにどう向き合うべきか、問われる人事の覚悟 久米功一
いま求められているdata-drivenな人事
経営環境における不確実性の増加、多様な従業員のマネジメント、利用可能なデータの蓄積などを背景として、経営戦略に沿った人材活用のための人事データの分析が求められている(注1)。しかし、実際に人事がデータを分析するとなると、さまざまな壁に直面している現実もある。そこで、本コラムでは、データ分析の先進事例とそのポイントを紹介し、日本企業の現状を概観した上で、人事がデータ分析に取り組む際の留意点を述べる。
すべての意思決定はデータと分析に基づく-グーグルの例
人事に関連するデータ分析の先進企業といえば、グーグルである。All people decisions at Google are based on data and analyticsの通り、さまざまなデータ分析が行われている(注2)。例えば、Project oxygenでは、リーダーシップの特徴とマネジャーの役割を研究して、8つの要素を識別している。PiLab (People & Innovation Lab)は、従業員の健康と生産的な職場環境に関する調査を実施し、Janus(効率的な採用アルゴリズムの開発)では、不採用者の履歴書を再分析している。さらには、イノベーションがdiscovery(learning)、collaboration、funの3要素からなることをデータで導いて、職場設計に活かしている。
データ分析に求められる5つの要素
上述の例のように、人事がデータ分析によって組織や人を導くための主たる要素は何だろうか。米バブソン大学のダベンポート教授が提唱する「DELTAモデル」(図表1)によれば、それは、人事が、独自の切り口のデータをもとに、全社視点に立ち、主導して、経営課題に沿った筋の良い仮説を、適切な手法で分析すること、である。
図表1.データ分析に求められる5つの要素 DELTAモデル(注3)
データ分析はこれからの状況
筆者が行ったアンケート調査の結果から、日本企業の現状をみてみよう(図表2、注4)。データの活用状況を尋ねたところ、「全くその通り」は10%に満たず、大半は「どちらともいえない」状況である。データの確保、データアナリストの有無等の他の項目に比べて、「人事部門が他部門の情報にもアクセスできる」に関しては、やや二極化傾向がみられる。部門の「壁」の有無がデータ活用の成否の一つの分かれ目となりうることを示唆している。
図表2.人事部門のデータ活用の現状(N=75)
人事は何に注意すべきか(注5)
データ分析によって得られた「統計的に有意」な結果は、人事施策を企画・推進する上での強力な武器となる。データにもとづく議論は、合意形成を図る上で有効であり、まさに「データは語る」「データこそすべて」である。しかし同時に、データに何を語らせるのか、これは人事の判断に依ることも強調すべきだろう。つまり、人事にデータ・リテラシー(仮説を構築し、得られた結果を適切に読み解く力)がなければ、データは何も語ってくれないのだ。データは蓋然性(probability)を示すに過ぎないが、人事は可能性(possibility)に賭けることができる。人事によるデータ分析は、次の一手を決めるのはほかならぬ人事であることを、改めて教えてくれているといえる。
注1)「人事データ」とは、ここでは、人事が扱うデータ(狭義)と人事が分析するデータ(広義)の両方を含む。
注2)Hansell, Saul (2007) Google Answer to Filling Jobs Is an Algorithm, N.Y. Times January 3
Sullivan, John (2013) How Google Is Using People Analytics to Completely Reinvent HR TLNT The Business of HR
注3)Davenport, Thomas H., Jeanne G. Harris and Robert Morison (2010) Analytics at Work Smarter Decisions Better Results Harvard Business School Press.
北崎茂(2015)「データアナリティクス時代に企業の競争力を生み出す人材マネジメント第4回・完 日系企業が直面する人事データ活用の五つの課題」労政時報jin-jour.
注4)人事パーソン75名の回答協力を得た(無回答を除く)。
注5)本節の議論は、大湾秀雄氏(東京大学教授)、本間浩輔氏(ヤフー株式会社 執行役員)からの示唆に基づいている。記して感謝申し上げたい。
久米功一
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