若年の社会貢献志向は、なぜ高いのか? 豊田義博

2015年05月27日

他年代に比して高い若年の社会貢献志向

社会に貢献したい、人々の役に立ちたいと考える若者が増えているといわれる。
その高まりは、東日本大震災に端を発している、と推測できるデータがある。震災のあった翌年度にあたる2011年度に実施された内閣府の「社会意識に関する世論調査」を見ると、「何か社会のために役立ちたいと思っているか」という質問に対して、20〜29歳の70.1%が「思っている」と答えている。震災直前に行われた前回調査の59.4%から10ポイント以上アップしており、社会貢献への意識が高まったことがうかがえる。日本を大きく揺るがした災害を契機に、多くの若年が、自身が生きる意味を捉え直したと解釈できる。

一方、社会貢献志向の高まりは、2000年に始まっているというデータもある。日本生産性本部が毎年新入社員に対して実施している「新入社員『働くことの意識』調査」では、新入社員に対して働く目的を尋ねているが、2000年までは一貫して5%程度しかなかった「社会のために役に立ちたい」という項目の回答率が2000年を境に急増、2012年には15%まで上昇している。バブル崩壊後、日本経済の先行きが不透明になり、大企業の破綻、リストラ、フリーター問題などの社会構造のひずみが露見する中で、若年の中に、こうした意識が既に育まれていたと見ることもできる。

「就業観に関する調査」(2012年 リクルートワークス研究所)の分析結果からも、若年の社会貢献意識の高さがうかがえる。

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今の仕事では、社会貢献できない、という意識

社会貢献志向は、仕事観のひとつと考えられる。他の仕事観との関係を探ると、仕事を通して自身の能力・スキルを高めたいという成長志向と、0.5強という極めて強い相関があり、昇進・昇格を重視し、自身の地位を高めたいという上昇志向とも0.3前後の相関がある。社会貢献志向は、純粋に利他的な志向なのではなく、自身を向上させたいという志向と密接につながっていることがわかる。

しかし、こうした相関傾向を年代ごとに子細に見ると、1985年以降生まれのG7に関しては、社会貢献志向と、仕事の目的や意義ではなく、仕事自体を楽しみたいとする自己目的志向との相関が他年代に比べ高くなり、社会貢献志向と成長志向、上昇志向との相関が相対的に弱くなっている。

ここから読み取れるのは、G7年代では、与えられた環境での仕事で、自身の社会貢献意識を満たそうとは考えていないという姿勢だ。社会貢献意識を高く持ちながら、その発露を社外の仕事以外の環境に求めている、とも考えられる。そして、その状況は、今日的なものであるのかもしれない。長時間労働への忌避感、職場以外の多様なコミュニティへの所属など、現在の若手の特徴を勘案すると、このような解釈も十分に成り立つものと思われる。
端的にいえば、今の若手は、社会貢献意識を持ちながら、それを発揮する場を獲得していない、ということだろう。もっと突き詰めていえば、自分らしくある、という状況が満たされていないことの発露とも考えられる。

仕事を通じて社会に貢献し、自身も成長して昇進昇格を同時に果たしていく、というあるべき状態、かつては多くの企業の仕事に内在していた状態が失われているのかもしれない。少なくとも、若年は、そう捉えていると考えられる。

「社会課題」は、NPOやCSRの中にしかないのか?

社会起業家への関心の高まりには、そうした背景もあるだろう。ある若手社会起業家は、自分たちの世代を、「人と同じことをしていたら沈んでいく」と表現した。社会全体が縮小均衡に向かう中で、意識の高い人材ほど、いかに人と違うことをするか、固有の存在であるかに想いを馳せているのだと語ってくれた。社会貢献意識は、その枯渇感から誘発されたものかもしれない。自らを強く動機づけてくれるような社会課題との出合いを、彼らは待望している。目の前の仕事の意義・価値を深く意識することなく。そして、そのような状況になっているとすれば、それは彼らのせいではなく、彼らに仕事をアサインしている企業の責任だ。企業は、若手従業員を、十分に生かしているとはいえない。

昨今は、企業のCSR活動の一環として、従業員自身が社会活動に従事するようなケースが増えている。そうした活動などを通じて、従業員の意識が高まっている様子も聞かれる。また、そうした活動を通して、日常業務に臨む姿勢にも変化が表れる、という状況も生まれているようだ。そうした活動は、有効な手立てだろう。しかし、それ以上に、彼らが今担当している目の前の仕事から、社会を見つめなおしてみることはできないのだろうか。事業化の背景や社会環境を語り、今日に至るまで脈々と続いている業務・仕事の目的、意義を語り、各人が、仕事を通して社会と繋がっていることをしっかりと自覚してもらえるような対話を、もっともっと増やしていかなくてはならないのではないだろうか。

グローバル化を推進している企業の一部では、海外現地法人での人材の採用、リテンションのために、創業の理念を伝えていると聞くが、ことのほか有効なのだという。人は、誰しも、そうした大きな物語を欲し、自分が生きているという実感を求めている。そして、その物語の続きを、自身もその登場人物として作っていくことを望んでいる。
今は、青臭い議論が必要な時代なのだ。

豊田義博

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