過去10年で2.5倍に…急増する「外国人労働者」受け入れ再考の時 日本人の賃金との関係性

2023年04月03日

低・中所得者が増加している背景には、女性や高齢者の労働参加があることは、前回述べた。このほか、賃金の問題を考える上で「外国人労働者」の問題は言及しておかざるを得ないだろう。現在、日本では外国人労働者が大きく増え、2022年で182.3万人、労働者に占める割合は2.7%となっている。この外国人労働者の急増は、日本人の賃金にどのような影響を与えているのだろうか。

10年で4倍に 急速に増え続ける「外国人労働者」

厚生労働省「外国人雇用状況」では、外国人労働者の雇用状況を調べている。日本では法令に基づき、外国人労働者を雇う事業主はその在留資格などを確認した後ハローワークに届け出ることが義務付けられているのだ。同データは事業主に雇用される外国人労働者の届け出件数を集計したものになる。

データをみると、外国人労働者はここ10年ほどで急速に増加していることがわかる。2020年、2021年は新型コロナウイルスの感染拡大によってその人数は横ばい圏内で推移したが、足元では2022年で182.3万人、労働者に占める割合は2.7%と再び増加基調に転じている。

つまり、この10年超でその数は4倍近くになっており、急増といえる。また、この数字があらわしているのは雇用されている外国人の人数である。2022年時点で中長期在留者数は約300万人存在しており、非雇用者や事業者の申告漏れなども含めれば、多くの外国人が日本で働いていると推察される。

外国人労働者数と外国人労働者比率出典:厚生労働省「外国人雇用状況」より筆者作成

外国人労働者が最も多い 上位3職種

外国人雇用状況から外国人労働者はどのような業種で働いているかを調べてみると、製造業が48.5万人、サービス業が29.5万人、卸・小売業が23.8万人、宿泊業・飲食サービス業が20.9万人などとなっている。

総務省「労働力調査」から各産業で外国人労働者の占める比率を算出すると、サービス業が6.4%、宿泊業・飲食サービス業が5.5%、製造業が4.4%などとなる(図表2)。

各産業で外国人労働者の占める割合出典:厚生労働省「外国人雇用状況」、総務省「労働力調査」より筆者作成

外国人労働者の絶対数が多く、就業者に占める比率も高い業種はサービス業、製造業、飲食・宿泊業などとなる。彼ら/彼女らは高度な仕事についているのだろうか。外国人労働者が受け取る賃金の額をみれば、こうした人々のスキルについても推察することができる。

不足する労働力をほてんする安い労働力

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では、日本人の賃金状況と合わせて令和元年から外国人の賃金状況も調査している。同調査によると、一般労働者に絞ってみれば、2021年の外国人労働者の年収は338万円となる。これは調査全体の489万円に対して3割ほど低くなっている。

産業別にみると、特に差が大きいのは建設業である。外国人労働者のうち建設業で働く人の年収は278万円と建設業労働者の平均賃金水準を100とすると、その比率は51.7%とおおむね半分となる。製造業も同様に292万円と製造業全体と比較するとだいぶ安い。卸・小売や医療・福祉についても明らかに安い水準となっていることがわかるだろう。

一方、教育・学習支援業はこれらの業種とは様相がかなり異なっている。外国人の年収は629万円とむしろ日本人より高くなっており、この業種については高度な外国人が流入していると考えられる。

外国人労働者の賃金出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より筆者作成

ただ、こうした結果を総合的にみてみると、現状、日本の外国人労働者は日本人にはできないような仕事に熟練労働者として従事しているという感じにはみえない。それよりも、日本の各産業で不足する労働力をほてんするための非熟練労働者として来日し、安い労働力として働いているという姿がその大半なのではないだろうか。

外国人労働者を受け入れ過ぎると日本人の賃金は上がらない

このように相対的に低い賃金で働く外国人労働者を急速に増加させる現状の日本の政策に関して、著者は反対の立場だ。日本人にはできない高度なスキルを持った人材であればその人の国籍に関わらず積極的に受け入れるべきであるが、そうではない単純な業務に従事する低スキルの外国人労働者を大量に日本の労働市場に流入させるようなことはすべきではないと考えている。

賃金は労働者の生産性に応じて決められるものであるが、それとともに労働市場の需給によって決定される側面がある。つまり、相対的に低い賃金で働く外国人労働者の流入数を増やしてしまえば、それを通じて労働市場の需給は緩み、結果的に労働市場全体の賃金上昇圧力を抑制させてしまうことになる。日本社会が賃金上昇に向けて本当に取り組むというのであれば、低賃金労働者の積極的な受け入れはやめるべきではないか。

もちろんこうした考えとは別に、少子高齢化の中で日本は多様な人種を若い労働力として受け入れ、多文化共生社会を目指すべきだという考え方もあるだろう。こうした考え方も理論的には決して誤りではない。この問題に関しては、人それぞれさまざまな価値観がある。いずれにせよ重要なことは、これから外国人労働者の受け入れをどのように考えていくかは、多様な価値観を基礎とした上で、日本国民が意思決定すべき問題であるということだ。

外国人の出入国をどのように管理するかは、国家主権の発動として政府がその最終的な責任を負う。しかし、今の日本の出入国管理の現状をみると、業界団体からの要望を聞き、その積み上げた人数を受け入れているというのが実態である。

日本の歴史を振り返ってみると、有史以来、日本列島は多くの渡来人を受け入れてきた。しかし、その出身母体は朝鮮半島や中国大陸がほとんどであって、これほどまでに多様な人種が日本に移入してきた時代は歴史上存在しない。このような国家の形が根本的に変わるような政策に関して、国民的議論なしに、経済団体からの要望をそのまま受け入れる形で決めてしまってよいものなのか。

日本の労働市場で必要な改革

現在の日本の労働市場で必要なことは、日本に残る低い生産性のサービスを温存させることでもなければ、新しい技術についていけず旧来の仕事の仕方を労働者に強いるような事業者を守ることでもない。そうではなく、労働市場をひっ迫した状態に保つことで、賃金の上昇圧力を高め、安い労働力に頼ってきた企業の競争を促し、日本全体としてその生産性を向上させることにある。そして、結果として低い賃金で働くことを余儀なくされてきた日本の労働者の処遇を改善していくことが必要なのである。

近年の日本の経済政策をみると、拡張的な財政・金融政策で労働市場の需給をひっ迫させておきながら、それに合わせて低賃金労働者を流入させることでその需給を緩和させる政策を取っている。だから結果的に日本の賃金が上がっていかないのではないか。日本人の賃金を上昇させていくためには拡張的な財政・金融政策に傾倒するのではなく、むしろ最低賃金や外国人労働者の受け入れに関する施策など規制の在り方を見直すべきだ。

繰り返しになるが、外国人労働者の受け入れ人数は、社会的な影響はもちろんのこと、それが労働市場の需給や賃金に与える影響なども踏まえた上で、国民的な議論を行った上で決まるべき性質のものである。外国人に関する施策に関しては、人それぞれ異なる価値観の下で機微な問題も含まれてこようが、それをタブー視するのではなく、オープンで活発な議論を通して、一人ひとりの日本人が主体的に未来に向けての選択をしていくことが求められている。

坂本貴志(研究員・アナリスト)

関連する記事