なぜ大学卒の“3年以内離職率”は高まっているのか 古屋星斗

2025年01月10日

目下、新卒入社者の「早期離職」問題で悩まない企業は、よほど幸せな企業といえるのではないか。そう思わせられるほどに、企業の経営者や人事担当者から、採用後の定着についての課題感を聞くことが多い。

大手から小規模企業まで、企業規模問わず、早期離職の問題が顕在化していることは統計的にも明確である。図表1に学歴別での早期離職率の推移を示した(※1)。3年以内離職率については、大学卒が直近で34.9%。この数字は統計が残る限りの最高水準(2004年卒36.6%が過去最高値)に近い。なお、この早期離職については卒業時の経済情勢との関係が検証・指摘されてきた(世代効果論 ※2。不景気時に入職するほど離職率が高い。太田・玄田・近藤,2007など)が、近年ではその関係がなくなりつつあることが指摘される(古屋,2024 ※3)。また、学歴別に見た場合の傾向の違いも顕在化しており、3年以内離職率について短大等卒や大学卒が横ばいの一方、高校卒は50%程度から40%程度へと低下傾向が見られる。

本稿は、こうした近年の変化を見せる早期離職の状況について分析する。結論を先に申し上げれば、こうした早期離職率の変化は「大学生の職業観がかわってしまった」「学生のマインドの変化で転職が当たり前になっているから」などといった理由ではなく、「就職先業種や規模の変化の影響による」ものである可能性が高い。大学卒や短大等卒は産業構造の変化のなか医療・福祉などサービス業への就職が増加し、他方高校卒は大手企業への就職率が増加・製造業への就職が一貫して極めて高いことが、全体の早期離職率の動向へ影響しているのだ。解説していこう。

図表1 早期離職率(3年以内、1年以内)の推移

図表1 早期離職率(3年以内、1年以内)の推移

大学卒と短大等卒の就職先が変化している


まず、新卒者の就職先がどのように変化しているかを見ていこう。業種別の早期離職率と突合するために、データのある最も古い時期と新しい時期(2003年卒と2021年卒)で比較する。詳細については図表2、概況については図表3に整理した。2021年卒がコロナ禍期であり、飲食・宿泊業については採用数が少なかった時期だが、それでも飲食・宿泊業を含むサービス業の採用比率については明確な学歴別による差異が見られる。高校卒では29.3%から25.3%へと減少した一方で、短大等卒では60.2%から67.1%、大学卒でも32.8%から38.9%へと増加傾向が見られている(共に2003年卒・2021年卒)。他方で、かつて日本の新卒者の主要な就職先の1つであった製造業については、高校卒では35.9%から39.8%へと増加、他方で短大等卒では8.8%から6.4%、大学卒でも17.7%から13.9%へと減少傾向が見られている。

こうした変化の結果として、2021年卒では高校卒は約40%が製造業へ就職、サービス業は25%の一方で、短大等卒は3人に2人以上がサービス業へ就職、大学卒でも4割近くがサービス業へと就職する状況となっている。もちろん、サービス業就職比率はコロナ以降のインバウンド需要の高まりによって、さらに高まっている(これも採用時期を考えればコロナ以降のインバウンド関連産業における採用需要の高まりに対応しているとはいえない時期だが、直近の2023年卒では宿泊業・飲食サービスへの就職率は大学卒5.1%、短大等卒5.4%、高校卒2.2%と高まっている)。いずれにせよ図表3を見れば、学歴別で就職先業種が全く異なっており、その違いがさらに顕在化する方向へ変化が進んでいること(高校卒は製造業へ、短大等卒はサービス業へ、大学卒はサービス業を中心としつつ多様な業種へ)がわかる。

図表2 業種別就職率(2003年卒/2021年卒)

図表2 業種別就職率(2003年卒/2021年卒)
図表3 業種別就職率の概要(主要業種抜粋、サービス業計)

図表3 業種別就職率の概要(主要業種抜粋、サービス業計)

さて、問題は業種別で早期離職率の水準が著しく異なるということだ(図表4)。
業種別の早期離職率(ここでは3年以内離職率)は学歴横断的に以下の傾向がある。

  • 製造業、電気・ガス・熱供給・水道業が低い(10~30%程度)
  • 情報通信業、運輸業・郵便業、金融業・保険業等が中間的水準にある(30~40%程度)
  • サービス業、特に宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業、医療・福祉等が高い(40~60%程度)

なお、学歴別で見た際には、高校卒における製造業就職者の3年以内離職率の低さ(20.6%)、医療・福祉における短大等卒の低さ(41.5%)などは特筆すべき事項であろう。ただ重要なポイントは業種別に早期離職率が、10%台から60%台と実に割合にして5倍・6倍といった水準で全く異なるという点である。

この点に留意したうえで、早期離職の構造がどう変化したかを整理しよう。図表5において、全体の離職率に対して各業種へ就職した者の離職がどの程度寄与しているかを離職率の積み上げで示した(業種別就職割合×業種別離職率の積み上げ)。例えば短大等卒の早期離職率において、図表3で見たようなサービス業への就職割合の増加による離職率の押し上げが大きなインパクトをもっていることがわかるだろう。大学卒についても同様であり、サービス業における就職割合の増加にともなって、早期離職率が押し上げられている構造にある。

図表4 業種別3年以内離職率(2021年卒)※クリックして拡大

図表4 業種別3年以内離職率(2021年卒)

図表5 3年以内離職率への寄与率(業種別)

図表5 3年以内離職率への寄与率(業種別)

就職先の企業規模という“ファクターY”

若者の早期離職問題を総括するうえで、さらにもう1つの隠れた重要要素に触れておきたい。“ファクターX”が就職先業種とするならば、“ファクターY”は就職先企業規模である。新卒者の就職先の大きさが変化しているのだ(図表6)。

新卒者全体で2003年卒に20.3%だった1000人以上の大手企業への就職者の割合は、2023年卒では29.3%へと実に割合にして1.5倍近くなった。500~999人規模も合わせると、2023年卒は43.4%の新卒者が500人以上の大企業へ就職している。2003年卒ではこの割合は31.0%にすぎない。他方で、100人未満の企業への就職者の割合は2003年卒では37.6%、2023年卒では26.8%と10%ポイント以上も低下した(中小企業の人手不足が深刻になる最大の理由の1つがここにある。労働供給制約下、企業の若手採用需要が高まった結果、入職先企業の大規模化が起こっているのだ)。

就職先企業規模の変化は早期離職に極めて大きな影響をもたらす。規模が小さい企業の方が、離職率が高いためである(図表7)。例えば高校卒では、5人未満企業では3年以内離職率は62.5%、5~29人企業では54.4%だが、規模が大きくなるにつれて低下傾向が見られ、1000人以上では27.3%となっている。短大等卒、大学卒でも同様の傾向が見られる(短大等卒のみ、比較して低下幅が小さい)。

図表6 新卒者の就職先企業規模の推移(学歴別合計)

図表6 新卒者の就職先企業規模の推移(学歴別合計)

図表7 企業規模別3年以内離職率

図表7 企業規模別3年以内離職率

では、規模別の就職先の変化を学歴別に見ていこう(後ほど3年以内離職率との突合を行うため2003年卒と2021年卒と比較する)。

高校卒は図表8に整理しているが、500人以上の大企業に就職した割合(1000人以上と500~999人の合計)は2003年卒で20.0%であったが、2021年卒では32.5%と急激に増加している。99人以下企業に就職した割合は2003年卒で47.6%、2021年卒では32.3%へと減少傾向が明確である。

短大等卒は図表9である。500人以上の大企業に就職した割合は2003年卒で21.8%であったが、2021年卒では29.8%と増加している。99人以下企業に就職した割合は2003年卒で49.7%、2021年卒では44.3%であった。

大学卒は図表10。500人以上の大企業に就職した割合は2003年卒で40.8%であったが、2021年卒では49.9%と増加している。99人以下企業に就職した割合は2003年卒で26.9%、2021年卒では20.8%であった。

図表11に就職先企業規模別での3年以内離職率への寄与率の変化を示した。特に大きな変化があったのは高校卒で、99人以下の小規模企業からの離職者が急速に減少している。そして、この主因は前掲の通り99人以下企業への就職割合自体が47.6%から32.3%へと3分の2程度になったことである。

図表8 高校卒者の就職先企業規模の推移

図表8 高校卒者の就職先企業規模の推移

図表9 短大等卒者の就職先企業規模の推移

図表9 短大等卒者の就職先企業規模の推移

図表10 大学卒者の就職先企業規模の推移

図表10 大学卒者の就職先企業規模の推移


図表11 3年以内離職率への寄与率(企業規模別)

図表11 3年以内離職率への寄与率(企業規模別)

「なぜ若手は辞めてしまうのか」という古くて新しい社会課題

本稿での検証から、近年の新卒者の早期離職問題は以下のように総括できる。

  1. 近年の3年以内離職率の変化については、就職先の業種・就職先の企業規模の変化をふまえた議論が必要になっている。
  2. 新卒者の就職先の業種と規模が大きな変化を遂げている。就職先としてはサービス業への就職割合が上がっており、就職先規模も大きくなる傾向にある。この背景には高齢化による医療・介護業を中心とした対人サービス需要の高まりがある(※4)。また、構造的な人手不足(労働供給制約)に起因する若手獲得競争の結果として、採用力の高い大企業への就職割合が増加していると考えられる。
  3. 学歴別では高校卒のみ独自性の高い状況が顕在化している。高校卒は従前からの製造業4割という就職先傾向に加え、大企業への就職者が急速に増加している。短大等卒・大学卒ではサービス業への就職割合が高くなっている。
  4. 以上の結果として、製造業と大企業という構造的に早期離職率が低いファクターの掛け合わせが生じた高校卒において3年以内離職率への押し下げ効果が生じており、実際に高校卒全体の離職率が低下している。他方、短大等卒・大学卒では早期離職率が構造的に高いサービス業の比率がさらに高まった結果、早期離職率に押し上げ効果が生じている。

もちろん、以上は早期離職について公的統計の存在する業種と企業規模のみの分析であり、近年の全く異なる離職ファクターによる変化も指摘されよう(※5)。

個社単位、特に大手企業では大学卒の3年以内離職率は2021年卒に過去最高値を更新(28.2%)しているなど、深刻な経営課題となっていることも確かだが、社会課題として捉えた場合には違った見え方が私たちに示されている。

今回の分析でいえるのは、産業別や企業規模別で若手の離職の問題の大小が固定化しているという問題が残っていることである。人手不足に苦しむ、エッセンシャルサービスである対人サービス業や中小零細企業における若手離職の問題は全く解決されておらず、現場の困窮は極まっている。筆者はこうした企業が1社1社独自に若手を育てるのは従前より極めて困難であると申し上げてきた(参考:https://www.works-i.com/research/books/detail011.html)。「地域共同育成」「業界全体での育成」などの新たな人材育成の仕組みや、地域・行政による協働・支援の仕組みを議論すべき時が来たのではないだろうか(※6)。

「若手の早期離職」は20年以上議論されてきた古い問題だが、その実、全く新しい社会問題として顕在化しつつあるのだ。

(※1)本稿における統計は、厚生労働省, 新規学卒就職者の離職状況 を分析したものである
(※2)太田聰一・玄田有史・近藤絢子(2007)「溶けない氷河―世代 効果の展望」『日本労働研究雑誌』No. 569,pp. 4-16.
(※3)古屋星斗. (2024). 若年労働者の離職と定着, その現代的論点. 日本労働研究雑誌, 66(6), 19-32.
(※4)古屋星斗,2024,なぜ人口が減っているのに、労働需要が減らないのか 図表9参照
(※5)「ゆるい職場」論など
(※6)筆者自身も全国各地の地域経済団体における「地域共同育成」の試みなどに参画している

古屋 星斗

2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。
2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。