高校時代に高校卒で就職する人がまわりにいた大学卒者の方が、その後のキャリアが豊かである仮説 古屋星斗
本稿で提示するデータはある1つの仮説を浮き彫りにしている。その仮説は偶然、調査データのチェックを実施している際に気がついたものであった。ただし、その時点ではサンプルサイズが小さかったために、別の調査においてより大規模な対象に対して検証を実施し、同様の結果が得られたことから、今回整理して提示する。
結論から言えば、提示するデータは、「高校時代に多様な進路の友人がいる環境であった方が、社会人になった後のキャリア形成がうまくいっている」ことを示している。検証内容に即してより具体的に言えば「大学卒社会人について、高校3年生時に進学者ばかりの環境より就職する人もまわりにいた方が、その後のキャリア形成が豊かである」点が示唆されている。
検証の概要
もともと筆者は高校卒就職に強い関心がある。若年労働市場の研究を行っていると、明らかに異質なのが高校卒就職で、就職・採用慣行や成立史からその後のキャリアへの影響等を含めた検証を行ってきた。その過程で「高校卒就職当事者に関する定量調査」(以下、当事者調査)を行っており、調査項目のなかで高校3年生時点での“相談資産”を検証する目的で以下を設定した(調査対象は39歳以下の社会人、就業年数2年以上、初職が正規社員・従業員、性別・年代・居住地にて人口動態に基づく割付を実施(※1))。
Q 高校3年生のときのあなたの状況について、あてはまるものを選んでください。 (※2)
① 毎日のように話をする友人に、高校卒業後の就職を考えている人がいた
② 毎日のように話をする友人に、進学を考えている人がいた
③ 進学や就職といった卒業後の進路について、相談できる友人がいた
以上の問いに対して、「多数いた(5人以上)」「複数人いた(2~4人)」「1人いた」「全くいなかった」で回答を得た。
このシンプルな質問を使うことで、高校3年生のときに周囲にどのような進路の友人がいたかを描き出すことができる。例えば、①の設問を大学卒に対して考えた場合、2つのパターンの高校3年生の時期がありうる。1つは卒業後就職する友人が全くいないというケース(「全くいなかった」と回答)、もう1つは卒業後就職する友人が1人以上いるというケース(「全くいなかった」以外の回答)である。
また、②設問と組み合わせることで状況をより浮き上がらせることができる。つまり、①就職する友人が「全くいなかった」&②進学する友人が「(1人以上)いた」と回答した大学卒者は高校3年生の時期に「自身は進学を考えまわりも進学する友人ばかりであった」状況であると想定されるし、①就職する友人が「(1人以上)いた」と回答した大学卒者は高校3年生の時期に「自分は進学を考えるがまわりには就職する友人もいた」状況と想定される (※3)。
前者はいわゆる“進学校”に属する生徒に多い状況だろう。進学校でない場合にも、進学する友人とだけ交流があった進学者であると想定できる(“特進クラス”等)。後者は進路多様校と呼ばれるような学校に所属していた可能性が高い。大学等へ進学する者しかいない高校(進学校)では毎日のように話をする友人に就職する友人がいることは極めて稀である(※4)。いずれにせよ重要なのは、後者は自身は進学するのにもかかわらず、就職するという者と関わりがあったことだ。
この条件で当事者調査では以下の回答者を得た(図表1)。当事者調査は高校卒者を主対象とした調査で、大学卒者については対照群という扱いで小サンプルであったため、サンプルサイズが限定的である。このため、特に母集団との関係で男性比率に差が生じていると考えられるため以降の分析では性別比を50:50とする集計ウェイト (※5)を用いて分析する。
なお、図表1について、「中学3年時成績上位率」及び「大学進学決定時期・中学校卒業以前に決定していた者の割合」の差は1%水準で有意であった。つまり、「高3時に就職する友人がいない大学卒者は、中学3年時の成績が相対的に良好な層が多く、また大学進学決定時期も早い」。これは先に述べた“進学校”に見える特徴であるが、ともかくいったん分析へ進もう。
図表1 当事者調査における回答属性
「就職希望の友人がいた」大学卒者の方がキャリアに満足
最初に注目したいのは、高校時に多様な進路の友人がいたかどうかで、現在のキャリアに対する満足感に著しい差が見られたことだ。
図表2の通り、全項目において「大学卒×高3時に就職する友人がいた」者(以下、「いた」群。もう一方を「いない」群とする)が満足している割合が高い。また、「目標とする将来の年収に向けた、これまでの年収の増え具合」「目標とする仕事や社会的な地位に向けた、これまでの進み具合」は1%水準で有意な差、「新しい技術・技能を獲得するための、これまでの進み具合」は5%水準で有意な差であった。
なお、男女別で比較をしても同様、つまり高3時に就職する友人が「いた」群の大学卒者の方が満足している割合が高い結果となっていた。
図表2 現在のキャリア満足感(「満足している」の合計の割合(%))
次に、図表3に自社へのコミットメント度合いの尺度の1つとして、「あなたは現在働いている会社・組織に就職・転職することを、親しい友人や家族にどの程度すすめたいと思いますか」という質問への回答を示した。10点満点中6点以上の高コミットメント層は「いない」群において44.4%、「いた」群において53.7%であり、4点以下の低コミットメント層は同34.6%、23.5%であった。共に1%水準で有意な差であり、つまり高3時に「就職する友人がいた」大学卒者の方が現在の会社へのコミットメントが高い結果となった。
図表3 現職の企業で勤めることを家族・知人にどの程度すすめたいか(%)
他にも仕事の実感として、「自分でないとできない仕事をしている」と感じている者の割合は「いた」群が著しく高かったこと(図表4)、幸福感についても「とても幸せ」と回答した者が「いない」群で7.7%、「いた」群で13.8%であったことなどさまざまな被説明変数について、両者には社会的に考察すべきと感じられる著しい差異が生じており、そしてそのすべてについて「いた」群が高い。つまり、高校時代に進学者しか友人がいなかった大学卒者よりも、就職者を含めた多様性の高い環境に身を置いていた大学卒者の方がキャリア形成状況が良好であることが読み取れる。
図表4「自分でないとできない仕事をしている」
別データで再検証しても同様の結果
こうした結果に対して、正直に言えば筆者自身、著しい差異が生じていたことに懐疑的であったこともあり、別調査においてより大規模に再検証を行う機会を設けた。「いない」群と「いた」群に関する設問は上述の調査と同様のものとし、分析対象もほぼ同様(大学卒、39歳以下就業者、初職・現職が正規社員・従業員、性別・年代・居住地にて回収割付を実施)として分析した結果を以下に記載する。ただし、この調査の主目的との関係で、対象は従業員規模1000人以上の大手企業に初職で在職した者となっている(以下、当該調査を実態調査と呼称する (※8))。
先述の当事者調査は、卒業時の就職活動状況の把握に重点があり、現在の職業生活実態に関する設問が限定的であった。他方、実態調査ではこの点にも焦点を当てており、本稿で検証している点を分析するうえで有用である。なお、いずれの調査についても本稿の問題意識である「大学卒者が高3時に就職希望の友人と関わっていたか」を検証することを主目的として実施したものではない点には留意いただきたい。研究リソースの有効活用を念頭に、別の目的を有する調査と対象及び被説明変数を共有できたために、分析対象を抽出して検証するものである。
図表5 実態調査における回答属性
こちらも、抽出の結果として母集団との関係で男性比率に差が生じていると考えられるため以降の分析では性別比を50:50とする集計ウェイト(※10)を用いて分析する。
まず図表2と同様、現在のキャリア満足感に関する分析を実態調査のデータでも行った(図表6)。こちらでも図表2の結果と同じく全項目で「いた」群が「いない」群を上回っている。また、図表2と異なることはサンプルサイズが十分に大きいためか、全項目において1%水準で有意な差が確認されたことだ。例えば、「自分のキャリアにおいて、これまで成し遂げたこと」に満足している割合は「いない群」で32.2%、「いた」群では47.1%であった。「将来の目標に向けた、これまでのキャリアの進み具合」は同29.3%、43.9%。共に割合にして「いた」群が「いない」群より1.5倍程度多い結果となっていた。
図表6 現在のキャリア満足感(「満足している」の合計の割合(%))
さらに図表3と同じ項目として、現職企業へのコミットメントの代理指標として10点満点の質問結果を掲示する(図表7)。「いない」群では4点以下が32.4%、6点以上が44.5%。「いた」群では4点以下が28.6%、6点以上が52.9%であった。図表3結果と同様、「いた」群の方がコミットメントが高い者が多い傾向が示されている。
図表7 現職の企業で勤めることを家族・知人にどの程度すすめたいか(%)
実態調査では、現在のキャリアについて聞いておりその点からも確認する。図表8に仕事に関する満足感のデータを掲載した(※11)。調査した全項目において「いた」群が「いない」群を上回っており、その差はすべて1%水準で有意であった。
例えば、「仕事は、私に活力を与えてくれる」があてはまる割合は、「いない」群32.2%、「いた」群45.9%。「仕事内容に満足している」では同38.0%と50.4%であった。こうした項目はいきいきとした仕事をするうえで重要なポイントであることがわかっており、エンゲージメント高く仕事をする若手社会人に「いた」群が多いという結果となっている。
図表8 仕事に関する満足感(あてはまる計(%))
“良い”学校環境とは何か
最後に、簡単な重回帰分析を行い全体像を把握したい。
現在のキャリア満足スコア(※12)を被説明変数にした重回帰分析を行った。説明変数として、「高3時の就職する友人数(※13)」「高3時の進路相談できる友人数」を投入した。また統制変数として、「学生時代の社会的経験(※14)」「開放性スコア」「神経症傾向スコア(※15)」により学生時代の行動姿勢及びパーソナリティを制御し、また個人属性として「転職経験(※16)」「性別(※17)」「回答時年齢」「都市部居住(※18)」を制御した。
結果は図表9の通りである。説明変数について、「高3時の就職する友人数」は0.1%水準で正に有意であり、本稿全体の結果と整合的である。他方、「高3時の進路相談できる友人数」は有意ではない。総合すれば大学卒者については、「高3時に進路相談できる友人数が多いか少ないかというよりも、自身の進路と異なる(就職を考えている)友人が周りに多いことが重要」になっていることが示唆される。
なお、この構造自体は普遍的なものではない可能性がある。40歳以上の回答者について同様のモデルで分析を行うと、「高3時の就職する友人数」の係数・有意水準ともに低下している一方、「高3時の進路相談できる友人数」が0.1%水準で正に有意となっている。これは40歳以上の回答者において「就職する友人であろうが進学する友人であろうが、とにかく進路相談できる友人が多いことが重要」であったことを意味する。
39歳以下の大学卒若手社会人においては「とにかく多ければ多いほど」ではなく、「自身の進路と異なる友人がいたか」というようにファクターが変化している。これは経済社会の変化が、多様な価値観を持つこと、ひいては多様な進路選択があることを実感できたかどうかの、職業生活におけるインパクトを増大させた可能性を指摘できるだろう。
図表9 大学卒社会人における現在のキャリア満足スコアを被説明変数とする重回帰分析(39歳以下)(※19)
図表10 大学卒社会人における現在のキャリア満足スコアを被説明変数とする重回帰分析(40歳以上)(※20)
本稿の結果は、学生時代の“良い”環境に関して新しい視点を提供している。進学者ばかりの画一的な環境に属することが、その後の職業人生におけるリスクを孕む可能性である。本稿ではこれを「大学進学する者が、進学者だけが周りにいる環境に身を置くことの危うさ」として整理する。こう考えたときに、近代以降の学校が持つ“選抜”という機能の意味を我々は再考する必要があるだろう。
確かに選抜することで、同質の集団を形成し伝達効率を上げ、学習効率を上げることが可能だった。しかし、選抜することで画一的な集団を形成することが、多くの転機が待つ職業人生に対して脆弱性を生むリスクを上昇させているかもしれない。そう考えたときに、選抜することで多様性の高い集団を形成する、そんな新しい選抜の機能が希求されるし、間違いないのはその基準は単一(代表的な選抜基準に学力がある)ではないということだろう。キャリア・レジリエンスが必要とされる職業社会で、学校が果たすべき役割が変質していると指摘されるなか、この結果は学校が新たな環境をつくるための方向性を示しているのではないか。
なお、高校卒社会人についても同様の構造があることも確認できており、高校卒者の場合には周りに進学者がいた方が現在のキャリア満足度が高い傾向がある。
こうした事象を考えあわせたとき、同質の集団を形成するための選抜を行っている学校に所属することの意味は変わらざるを得ず、逆に多様性の高い環境に身を置くことの意味は早晩、子どもたちにとって建前を超えた“合理的な選択”になる可能性を示唆している。
(※1)概要・結果についてはリクルートワークス研究所,2020,「高校生の就職とキャリア」を参照。
(※2)なお調査の全体注釈として、「定時制高校卒業者等、卒業高校が4年生まであった方は、質問中“高校3年生”とあるものを“高校4年生”と読み替えてください」旨掲示した。
(※3)この他に、高校3年生時点で「毎日のように話をする友人が全くいなかった」というケースがあるが、今回の分析では交友関係の程度を制御するためにそうした回答者を除外した。
(※4)もちろん、アルバイト先にいるケースや、近年ではオンラインでやり取りがある友人に高校卒後就職する者がいたケースなどは想定できる。
(※5)性別設問は男性・女性・上記以外としており、「上記以外」のウェイトは1.0とした。
(※6)「中学3年生の頃、あなたの学業の成績は、学年全体の中でどれくらいでしたか」質問に対してリッカート尺度・5件法による回答のうち「上のほう」を選んだ者の割合。他、「やや上のほう」「真ん中あたり」「やや下のほう」「下のほう」とした。
(※7)「あなたが、高校卒業後に「就職する」「進学する」と決めた時期はいつですか。」質問に対して、「中学校卒業より前」を選んだ者の割合。他、「高校1年生」「高校2年生」「高校3年生・卒業学年」とした。
(※8)リクルートワークス研究所,2021,「大手企業新入社会人の就労状況定量調査」。インターネット調査にて、2021年11月15日~2021年11月22日実施。サンプルサイズ2680。対象:大学・大学院卒、就業年数3年未満、初職・現職が正規雇用者であり従業員数1000人以上の就業者(サンプルサイズ967)。対照群として就業年数4-6年、8-12年、18-23年を同様の条件で聴取している(サンプルサイズ1713)。
(※9)回答時点居住都道府県が、東京・埼玉・千葉・神奈川・愛知・大阪・京都・兵庫以外。
(※10)性別設問は男性・女性・上記以外としており、「上記以外」のウェイトは1.0とした。
(※11)設問は、リクルートワークス研究所,2020,働きがいの実態調査2020で用いられた項目を使用した。
(※12)図表2、6で示した5項目に対するリッカート尺度5件法での回答を因子分析(最尤法、プロマックス回転)した結果として1因子構造の因子が得られており、その因子得点。高い方が現在の自身のキャリアに満足している度合いが高いことを示す。
(※13)本稿冒頭の「Q」としている項目。全くいなかったを0人、以下順に1人、3人、5人と設定した。もう1つの説明変数も同様である。
(※14)入社前の大学・高校時代に企業や地域社会、社会人とどの程度接点を持っていたかを経験の個数として変数化したもの。学生時代の行動姿勢を統制する目的で導入。詳しくはこちら。
(※15)ビッグファイブパーソナリティに関する尺度は、以下による尺度を用いた。小塩真司, & 阿部晋吾. (2012). 日本語版 Ten Item Personality Inventory (TIPI-J) 作成の試み. パーソナリティ研究, 21(1), 40-52.
(※16)現在までの転職経験を制御した。転職経験有りを1、無しを0。
(※17)女性ダミーとして、女性を1、それ以外を0とした。
(※18)図表5の東名阪と同様、東京・埼玉・千葉・神奈川・愛知・大阪・京都・兵庫に回答時点で居住している者を1、それ以外を0としたダミー変数。
(※19)N=1542、修正済み決定係数は.114である。
(※20)N=380、修正済み決定係数は.138である。
古屋星斗
※本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織・研究会の見解を示すものではありません。