コロナショックで若手に起こる二極化の正体 古屋星斗
新型コロナウイルス感染症の影響により、働き方には大きな変化があった。2度にわたる緊急事態宣言によって、リモートワークやオンライン会議は特例から通常の手段へと変わりつつある職場も多いだろう。また、懇親会や対面での研修など、急速に機会が失われたものも多い。こうした変化がキャリア形成に与えた影響について、今回は1度目の緊急事態宣言前後の2回(4、7月)(※1)にわたって同一人物から得たデータをもとに、最も変化の影響を受けやすいと考えられる若手社会人にもたらされている変化について考察する。
なお、結果の体系的な解説については、江夏ほか「新型コロナウイルス流行下での就労者の生活・業務環境と心理・行動」に詳しい。本稿の変数の説明なども江夏ほかの記述をベースとしている。
職場でのコミュニケーション活動
まずは前回の分析にも用いた、職場での人間関係に係る「職場でのコミュニケーション活動」の結果に注目する。
同僚や上司とのやりとりなどの職場での活動は今般の状況下で就労に起こった変化の影響を強く受けた活動の1つだといえよう。働き方の多様化やマネジメントスタイルの変化は、職場におけるコミュニケーションのあり方自体を変えてしまった。この点について、第2回調査となる7月調査(4月→7月での変化を聴取)の結果は図表1(※2、以下本稿の分析は全て34歳以下)の通りであった。
「どちらとも言えない」と答えている者が最も多く、各項目50%前後を占める。他方で、「上司や同僚から、業務を遂行する上での助言や情報を得る機会が増えた」では「ややそう思う」「そう思う」合わせて19.0%など、「増えた」という者も一定数存在していた。
さて、今回はこの7月調査の結果とともに、同一人物に4月に実施した調査の結果も分析することができる。4月調査における結果を用いて、職場とのコミュニケーション活動が「増えていた」「増えていなかった(変わらない・減っていた)」で分類した若手について、それぞれ7月調査での変化を図表2に示した。
図表2で一目瞭然だが、過去に職場でのコミュニケーション活動が増えていた若手の方が、7月調査においても活動が増えている割合が高い。例えば、「上司や同僚から、業務を遂行する上での助言や情報を得る機会が増えた」では、4月調査で職場でのコミュニケーション活動が増えていた若手は27.3%がさらに機会が増えたと回答する一方で、4月調査時点では増えていなかった若手においては15.0%にとどまる。他の3つの項目についても同様の傾向が見られる。
つまり、“4月に職場でのコミュニケーション活動が増えていた若手の方が、その後の7月にもさらに増えたとする傾向がある”ことがわかる。過去に活動が増加していた者が、さらに増加しているのだ。
2時点の検証から見えた、職場での活動の変化と仕事の成果の関係
では、「職場でのコミュニケーション活動」について、前年→4月の変化(4月調査)と、4月→7月の変化(7月調査)のデータを用いて検証してみよう。図表3に2つの時点での増減の状況を組み合わせた、若手の割合を表記している。
図表3:2時点の「職場でのコミュニケーション活動」の増減別グループ(%)
図表3からは、“前年→4月に増加、4月→7月にも増加している”という者が全体の12.8%であり、“前年→4月に増加したが、4月→7月には増えなかった(変わらない・減少)”という者は20.8%であった。また、“前年→4月には増えなかったが、4月→7月には増えた”者は12.3%であり、“前年→4月には増えず、4月→7月も増えなかった”者は54.2%と最多であった。
54.2%と、過半数の若手がコロナショック下で職場でのコミュニケーション活動が一切増加せず、あるいは縮小し続けていることがわかる(なお、54.2%のうち、29.6%は4月→7月は活動が減少していた)。コミュニケーションのオンライン化に始まり仕事の進め方が直接的に影響を受けるなか、半数以上の若手が職場でのコミュニケーション活動を現状維持以下となってしまっている状況が浮かび上がる。他方で、「増えた」とする若手もおり、特に12.8%は2時点ともに増加していた。
この「職場でのコミュニケーション活動」の2時点の変化に基づくグループによって、すでに仕事上の成果に影響が出ている可能性がある(図表4)。そこで、「仕事上の成果」への認識についての質問における「そう思う」「ややそう思う」の合計の割合を示したのが図表4である。「仕事上の新たな挑戦により、実際になんらかの成果を出した」についてグループ1(増→増)は48.6%がそう思うと答えた一方で、グループ4(減→減)は12.8%となっている。他の2つの項目についてもグループ1が最も高く、グループ4が最も低い、という同様の傾向があることがわかるだろう。
また、仕事成果だけでなく、幸福感(※3)に対しても一定の関係が見られる(図表5)。グループ1では「非常に幸福である」は18.3%、「どちらかといえば幸福である」まで合わせれば56.3%の若手が幸福であると答えている。グループ4では「非常に幸福である」は6.9%にとどまり、「どちらかといえば」と合わせても43.7%である。
こうした結果は、コロナショック下における「職場でのコミュニケーション活動」の変化が、若手の総合的なキャリア状況に対して一定の説明力を持つことを示唆している。急激な変化の時期だからこそ、職場の人間というアクションを起こしやすい場・対象に対してどういったアクションを行ったのか、が重要になっているのではないか。
では企業はどうすれば、若手の職場におけるコミュニケーション活動を促進することができるのだろうか。
企業ができる明瞭な打ち手、“発信”と“環境改善投資”
こうしたなか、企業の打つ手について今回の調査は有効な手立てを教えてくれている。“企業に所属する就労者の⽬から⾒た企業対応”について、8つの項目(「企業が今後中長期的に目指すことについて、社員向けに明確に発信された」「従業員のワークライフバランスや働きやすさを向上させるための環境改善がなされている」など)を行い5件法で回答を得ているが、その回答を因子分析してスコア化(※4)した数値を比較したものが図表6である。
図表6からは、若手の職場でのコミュニケーション活動と、コロナショック下における企業対応が一定の関係性を有する可能性が示されている。グループ1では方針明確化スコアは0.56、環境改善スコアは0.60だが、グループ4では同-0.16、-0.09と著しく低い水準にある。7月調査で「4月から7月の間の企業対応」について聞いた項目のため、直近の職場での活動が増加しているグループ3が高い傾向があることも理解し易い。
なお、方針明確化スコアは、
「企業が今後中長期的に目指すことについて、社員向けに明確に発信された」
「事業の中身や進め方について、前例や常識にとらわれないような変化が見られる」
「既存の従業員の雇用を維持することについて、社員向けに明確に発信された」
といった、いわば“会社・組織が今後、進むべき方向性を発信なり事業の進め方なりで示している”程度を示すものである。
環境改善スコアは、
「従業員のワークライフバランスや働きやすさを向上させるための環境改善がなされている」
「従業員の業務効率を高めるための環境改善がなされている」
「従業員の業務遂行能力を高めるための投資や機会提供が行われている」
といった、“変化の時代に従業員が働きやすい環境を作るための投資”が行われている程度を示すものである。
この結果からは、若手の職場でのコミュニケーション活動の頻度を向上させるための企業が可能な施策として、「今後についての発信、説明を尽くすこと」と「環境改善に向けた投資」との関係が明確となっている。いかに方針を発信しても投資が見合わなければ絵に描いた餅であるし、逆に環境改善投資を行ってもその意図を説明することなしには、その効果は十分に若手社員に届くことはない。企業にとっては、「発信と投資の循環」がコロナショック下における若手活用の要点であるといえるかもしれない。
活動変化は外形的属性に左右されない
最後に全体の関係性について整理するため、簡易な重回帰分析(プロビット分析)を実施する。「職場でのコミュニケーション活動が2時点でともに増えなかった(上記グループ4)」をダミー変数の被説明変数とし、「職場でのコミュニケーション活動が継続して増えていない・減っている」若手の要因を探るものである。
説明変数として、性別、年齢、7月までに休業時期があったどうか(非休業ダミーとして使用)、大手企業在籍(1000人以上企業に4月時点で在籍していたか)、正規職員だったかどうか(4月時点(※5))、直近1~2週間のリモートワーク日数、方針発信スコア、環境改善スコアを導入する。対象はこれまでと同じく34歳以下、4月→7月で離職していない者に限定する。結果が図表7である。
性別や年齢といった変数から、休業経験があったか、在籍企業の規模、雇用形態といった外形的に個々人の状況を規定すると考えられる変数は有意ではなかった。また、活動に影響を与えそうな要素であるリモートワーク日数も有意ではない。他方で、図表6で検証した在籍する企業による「方針発信」や「環境改善」は負に有意な結果となっている。当該分析で負に有意、つまり、「職場でのコミュニケーション活動が増えない要素を取り除く効果がある」という積極的な効果があるといえる。
図表7の結果からは、若手の活動変化は、中小企業に所属しているとか、非正規である、といった外形的な事柄で規定できる問題ではなく、性別・年齢・所属企業にかかわらず存在している問題であり、企業のコロナショック後の人材施策などにも左右される個別性の強い問題であるということがわかる。若手個人側にどういった原因となる要素があるのかについてはさらなる検証が必要であろう。
図表7:「職場でのコミュニケーション活動が増えなかった」背景の分析(プロビット分析)
※有意水準5%
今回は4月・7月の1度目の緊急事態宣言を挟んだ2時点のデータを検証することで、コロナショック下における若手のキャリア形成の動向を検証した。いま強調したいのは、2021年1月に発令された2度目の緊急事態宣言が、今回検証した若手のある種の「二極化」の傾向をさらに加速させた可能性が高いということである。過半数の若手が職場でのコミュニケーション活動について変化なし、もしくは継続的な縮小の状況になっている一方で、一定数の若手は前年から4月、7月と増加し続けていた。これはコロナによる環境変化の中で、新しいスタイルを体得し飛躍の契機にした若手が存在していることを意味する。
外的環境の変化が生じた場合、対応できる者とそうでない者が分かれること、これは自然の摂理なのかもしれない。しかし、これから若者がどんどん減少していく日本社会において「適者生存」に賭けている余裕はない。企業の打ち手と強い関係があり、人材施策で「生み出せる」可能性があることも確認された。若手における「二極化」は、新時代の「人で勝つ企業」が生まれる、号砲なのではないだろうか。
(※1)リクルートワークス研究所,2020,仕事と⽣活に関わる変化に対する調査及び【第2回】仕事と生活に関わる変化に対する調査を用いる。なお、結果の体系的な解説については、江夏ほか「新型コロナウイルス流行下での就労者の生活・業務環境と心理・行動」を参照。本稿における分析する変数の選別や因子分析の結果解釈などに当たっても当該レポートの記載内容を参考としている
(※2)本稿で用いたデータはすべて34歳以下に限定して集計している。全体のサンプルサイズ3341中、サンプルサイズ766である。前回の記事では29歳以下対象のところ、今回はパネル調査となり連続回答サンプルが減少したことから、有意差の検証のため対象を34歳まで拡大した
(※3)“以下の文の空欄「( )」に最も当てはまるものを選んでください。<全般的にみて、私は自分のことを( )と考えている>”という質問に対する回答
(※4)「企業が今後中長期的に目指すことについて、社員向けに明確に発信された」「事業の中身や進め方について、前例や常識にとらわれないような変化が見られる」「既存の従業員の雇用を維持することについて、社員向けに明確に発信された」「既存の従業員の給与の水準を切り下げないことについて、社員向けに明確に発信された」の4設問への回答の因子負荷量が高い因子を「方針明確化スコア」とした。「従業員の新型コロナウイルス感染リスクを下げるための予防的な措置を講じている」「従業員のワークライフバランスや働きやすさを向上させるための環境改善がなされている」「従業員の業務効率を高めるための環境改善がなされている」「従業員の業務遂行能力を高めるための投資や機会提供が行われている」の4設問への回答の因子負荷量が高い因子を「環境改善スコア」とした。
(※5)在職企業規模、および雇用形態についても7月時点の結果を用いるのが望ましいが、聴取していない、かつ4月→7月で離職した者は全体の4.6%であったが、正確を期すため図表7の分析には、4月→7月で離職していない者に限定した。
古屋星斗
※本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織・研究会の見解を示すものではありません。