統計が物申す

職住近接が進む首都圏

2019年02月10日

「大都市交通センサス」

首都圏・中京圏・近畿圏の三大都市圏における、鉄道など公共輸送網の在り方についての実態を明らかにすることを目的とした調査。1960年から5年ごとに調査を実施しており、2015年調査は12回目にあたる。

最近、都心から会社に通う人が増えたな、と感じることはないだろうか。
今回は、国土交通省「大都市交通センサス」をもちいて、東京都心における通勤の実態をみてみよう。
上のグラフは、2015年の東京23区への定期券利用者の出発地の内訳とその10年前からの変化をみたものである。このデータからわかることは、やはり勤務地に近い場所に住む人が増えているということである。東京23区に通勤している人のうち、東京23区に住んでいる人の割合は、2005年には34.8%だったが、2015年には41.4%と増えている。特に、中央区や江東区など主要なビジネス街から至近にある特別区において増加が著しい。
また、東京都以外の都道府県に目を移してみると、神奈川県全体では17.9%(2005年)から16.4%(2015年)と数値を落としているなか、川崎市の割合は増えている。埼玉県も、全体としては割合が減っているが、川口市は割合が増えており、都心に通う人は、都心へのアクセスのよい場所を選んで住んでいると考えることができる。
職住近接が進行する理由には、共働き世帯の増加や都心の都市開発の進展などがあると考えられるが、このような状況を企業としてはどのようにとらえるべきか。
まず、従業員の健康確保や仕事と家庭の両立の実現を、企業側に求める声が近年ますます強くなっているなか、職住近接はそれを補完する動きとして好ましいものととらえることができる。勤務地に近い場所に住んでいる従業員に手当を支給する会社もあるが、それも1つの考え方だ。
一方、もう少し視座を高く持ち、国土の均衡ある発展という観点からいえば、都心一極集中には問題があると考えることもできるだろう。都心回帰という現象は、企業がまだまだ勤務場所にとらわれた働き方を従業員に強いていることの表れともとれる。企業はテレワークなどの施策を大胆に進め、多様な地域に住む人が働ける環境を整えるべきではないか。
どこに住むかというのは、優れて個人的な問題である。しかし、そこに企業が与える影響は大きい。企業としても、人事施策を考えるにあたって、従業員が住む場所がどうあるべきか、一定の考えを持っておくのがよいだろう。

Text=坂本貴志