Next Issues of HR フェイクニュースにどう向き合うか
第4回 同質性の高い組織は誤情報が拡散しやすい!?
フェイクニュースはテクノロジーと人間心理が複雑に入り交じって構成される情報生態系を通して拡散され、社会に悪影響を及ぼします。この情報生態系をはじめとするフェイクニュース研究の成果は、たとえば、企業などの組織内における情報の発信方法や伝わり方を分析・研究する際にも応用することが可能です。
フェイクニュースが拡散される大きな要因の1つにエコーチェンバーという現象があります。
インターネットそのものは開かれた世界ですが、人々が日々SNSを利用していると、自分と同じ意見、価値観をもった人ばかりをフォローするようになりがちです。掲示板なども意見を同じくする人が集まる傾向が強いものです。すると、インターネット上に同質性の高い人たちが集まった閉じた情報環境が形成されます。
このような環境下では、当然に自分の価値観に合った同じ意見や情報に繰り返し接することになります。「世の中のみんなが言っている」という感覚に陥り、フェイクであっても、確認もせず真実だと信じ込みやすくなる。そして安易にその情報をシェアする。その結果、狭い小部屋で音がこだまし、増幅するようにフェイクニュースが拡散されるのです。
同じことはソーシャルネットワークの一種である企業のなかでも起こり得ます。同質性が高い人たちが集まった組織では、嘘であれ本当であれ、噂話が拡散されやすく、信じられやすいというフェイクニュース同様の問題が発生しがちなのです。
実際に、経営者が全社的に新人事制度に関する思いや意図を公式に発表したところ、「実は裏で会社にはこんなねらいがあるらしい」といった噂があっという間に広まり、多くの社員がその噂話を真実だと信じてしまうといったことはよくあります。
企業はこの問題に対してどのような対処ができるでしょうか。組織内での噂話の拡散を完全に封じることは不可能です。しかし、拡散の規模やスピードを増幅するエコーチェンバーが生まれにくい環境を目指すことはできます。
そのために必要な手段の1つが組織の多様性を高めることです。今、多くの企業が多様性の高い組織を目指しています。一般的に企業の多様性の推進はイノベーションの実現を目的に行われますが、同時に健全な情報環境の形成にも有効なのです。
集団における多様性の大切さは、古典的な集合知の研究からも明らかになっています。20世紀初頭、英国の牛の品評会で、専門家以外の人も多数含む800人以上の来場者にある牛の体重を推定させたところ、その平均値は実際の牛の体重とほとんど差がなかったというエピソードもあります。一方、集合知に関する、後の似たような実験で、実験対象の集団に前もって他人の意見を共有させると、特定の意見に引きずられて本来の意見の多様性が阻害され、結果の正確さが落ちることもわかっています。
多様性が担保された集団では、誤情報の拡散や誤った判断は起きにくい。これは、組織を考えるうえで大切なポイントの1つです。
笹原和俊氏
東京工業大学 環境・社会理工学院 技術経営専門職 学位課程 准教授
名古屋大学大学院情報学研究科講師などを経て現職。専門は計算社会科学。主著は『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人)。
Text=伊藤敬太郎 Photo=笹原氏提供 Illustration=ノグチユミコ