Next Issues of HR フェイクニュースにどう向き合うか
第3回 有効なフェイクニュース対策とは?
これまでの2回の連載では、フェイクニュースが社会や個人にもたらす問題や、拡散の仕組みなどについて解説してきました。今回は、大量化・高度化が進むフェイクニュースに対して、今後私たちがどのような対抗策を取り得るかを考えます。
まずは、ファクトチェッカーなどの団体、メディアなどの情報の発信者側、情報発信の場を提供しているプラットフォーマーなどの動きについてみてみましょう。
ファクトチェックという言葉は目にしたことがある人も多いはずです。真偽の怪しい社会的・政治的な情報について、一次情報などにあたって確認するというもので、この作業は基本的に人が行い、手間も時間もかかります。ですから、対象となる情報は極めて社会的な重要度が高い問題に限定されます。今は世界的にファクトチェッカーの団体数も増えてきていますが、無数にあるフェイクニュースのすべてをカバーすることは不可能ですし、もとよりそれを目指す対策ではありません。
では、情報の発信者側には何ができるでしょうか。最近は、生成系AIの発達で画像や動画などの改ざんも簡単にできるようになっています。これに対しては、ブロックチェーンなどのテクノロジーを使えば元となるデータに本物であることを証明するメタ情報を付加することができます。この方法は研究が進んでおり、改ざんや加工の対策には有効です。
プラットフォーマーでもAI技術を駆使してフェイクの可能性がある情報を選別し、アラートを出すなどの対策に取り組んでいます。ただし、選別をAIが行うとしても、人間が「何がフェイクニュースか」を判断して日々AIにデータを学習させなくてはいけません。この作業がボトルネックになり、フェイクの大量化に追いつかないというのが現状です。
このようにフェイクニュースの拡散を防ぐための取り組みは行われており、一定の効果は上げてはいるものの、根本的なフェイクニュース対策とはなっていません。そうなると、最も基本的なことで同時に難しいことでもあるのですが、情報の受け手である個人が情報リテラシーを高めるほかはありません。
ポイントの1つはフェイクニュースの特徴を知ることです。私の研究室では、2021年、多数の協力者を集めて正しいニュースをフェイクニュースに改変してもらう実験を行いました。その結果を分析したところ、改変の際には感情、なかでも怒りに訴える傾向があること、よりわかりやすく伝える傾向があることなどが明らかになりました。つまり、煽情的だったり、過度に単純化された情報ほど「怪しい」ということです。少しでもそう感じたときは拡散しないよう意識すれば、思わぬところで加害者になる事態は避けられるはずです。
人は100%の真実を求めがちです。しかし、世の中そう単純ではありませんし、今すぐ白黒を付けなくてはいけない問題もそう多くはありません。「フェイクの可能性もある」ことを常に意識し、信じ込むことや拡散することを保留するのも大切な情報リテラシーだといえるでしょう。
笹原和俊氏
東京工業大学 環境・社会理工学院 技術経営専門職 学位課程 准教授
名古屋大学大学院情報学研究科講師などを経て現職。専門は計算社会科学。主著は『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人)。
Text=伊藤敬太郎 Photo=笹原氏提供 Illustration=ノグチユミコ