フツウでないと戦力外?

HIV陽性者

想像をリアルに変えて、不安という感情と決別する

2015年12月10日

What'sthis number? 42%

社員からHIV陽性(*)と打ち明けられたら、読者諸氏はどう反応するだろうか。たとえ「日常生活では感染しない」と頭ではわかっていても、「HIV(とその後に発症する可能性のあるAIDS)は死をもたらす感染症」という過去に刷り込まれたイメージは、読者に動揺と不安をもたらすのではなかろうか。
「国内のHIV陽性者は累積2万4561人、うち新規感染は年1546人。実は今も増え続けていて、その約9割が20代から50代の働き盛りです。現在では適切な治療を受ければ人にうつすことはなく、働き続けることに何の問題もない慢性疾患となったにもかかわらず、42%の人が、陽性と判明した後に離職しています」と、HIVの予防啓発と陽性者の支援に取り組むぷれいす東京の生島嗣代表は語る。陽性者は、周囲に知られ、拒絶されることを恐れながら働き、疲弊し、職場を去っていく。がんなどに比べて圧倒的に数が少ないため、職場単位では滅多にないケースとはいえ、人事はこれを静観するべきではない。

HIV陽性者、陰性者、そして検査未受検者が一緒に活動するぷれいす東京のオフィス。ここで陽性者の方と話すうちに、筆者の不安も消えていった。

まずは人事担当者こそが、不安という感情と決別する必要がある。「職場では感染しないこと、2〜3カ月に1回の通院と服薬で陽性者の健康は維持できること。正しい知識を改めて学んでほしいのです」(生島氏)。とはいえ、知識武装しただけでは感情を抑えこむことはできない。不安に打ち克つ最良の方法は、実際にHIV陽性者に会ってひとときを共に過ごすことだ。支援団体を訪ねたり関連イベントに参加することで、当事者に会い、話を聞くことはできる。想像するしかなかった対象がリアルに変われば恐れは一気に小さくなり、不安もなくなる。
一方で、職場では日ごろの機密保持体制が問われている。「病名が知らぬ間に漏洩することを、陽性者は心配しています。普段から個人の健康情報などの管理を徹底し、それを周知させておくことが重要です(生島氏)
受け入れられている、守られているという確信を求めるのは、HIV陽性者だけではない。他人には明かしたくない秘密を持つ誰もが、それを求めているのだ。

(*)HIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性者とは、AIDS発症・未発症にかかわらずHIVに感染した人たちの総称。
※数字は、厚生労働省「全国のHIV陽性者の生活と社会参加に関する調査」(2014年)に基づく。

Text=湊美和Photo=平山諭