仕事につきたい希望はどれだけ本気なのか 戸田淳仁

2016年07月28日

人口減少が続く日本において、労働力不足が懸念されている。失業率は3%前半を推移するようになり、ミスマッチが原因となる失業がほとんどであるという見方がある。こうしたことをふまえ、政府も「一億総活躍社会」を目指して、主婦やシニアなど潜在的な労働力の活用に取り組んでいる。はたして、潜在的な労働力はどれだけ実際の労働力になりうるのか。

総務省「労働力調査」などの統計においては、15歳以上人口を「就業」「失業」「非労働力」の3つに区分している。働いていない人は「失業」と「非労働力」の2つの区分に分けられ、特定の期間(「労働力調査」では月末の1週間)において、求職活動をしている人を「失業」、求職活動をしていない人を「非労働力」と区分している。これまでの雇用政策は、失業者をできるだけ減らす完全雇用が目標とされ、「非労働力」にあたる人は政策の目標からは外されてきた。しかし、失業率が低下し、ミスマッチが原因となる失業を解決することは容易でないために、「非労働力」にも焦点があてられるようになったといえる。非労働力といえども、就業希望はあり、たまたま特定の期間において求職活動をしていなかったために、非労働力になってしまう場合もある。そこで、「全国就業実態パネル調査」のなかでの非労働力の就業希望やどれだけその希望が本気なのかについて見てみよう。

図表1は、非労働力の就業希望である。男性の35~54歳の中年層で非労働力であっても就業希望のある(ただし、就職先は決まっていない)人は2割を超えている。それ以外の年齢や女性については1割程度である。非労働力のなかには就業希望はあると回答している人はそれなりにいることがわかる。

図表1 非労働力の就業希望item_panelsurveys_toda01_ae46b1f460ee46f789c27b264a6cb421.png

次に、就業希望のある人についてどれだけ就業意欲が強いかという質問をした結果を見る(図表2)と、「すぐに仕事につきたかった」「時期が来たら、仕事につきたかった」「漠然といつかは仕事につきたかった」の選択肢のうちで、一部の年齢を除いて、ほぼ均等に割れている。特に男性の35歳以上や女性の55歳以上では「すぐに仕事につきたかった」の割合が他の年齢よりも高い一方、男性の15~34歳では「漠然といつかは仕事につきたかった」の割合が高いが、大差はないといった状況である。そのため意識の観点からはある程度、就業希望は本気であるといえそうだ。

図表2 非労働力の就業希望に対する程度item_panelsurveys_toda01_b21aa6e7a5229bdbdbdb6524b66d20f0-1.png

こうした意識に関する質問では、回答者の主観によってしまう可能性もあるため、就業希望を強く持っている人ほど、過去も含めてある程度求職活動をしたことがあるだろうという推測をふまえ、実際に求職活動の有無との関連を見てみよう。図表3は男女別に、就業希望に対する程度ごとに、どれだけ求職活動をしたかを示したものである。男性については、漠然と仕事につきたいと思っている人ほど2015年1年間でまったく求職活動をしなかった人が多くなっているが、すぐに仕事につきたいと思っても2015年1年間でまったく求職活動をしない人が44.0%と、求職活動をしない人が少なからずいる。女性については、すぐに仕事をしたいと思っていても求職活動を2015年1年間でまったくしていない人は68.5%にのぼる。

図表3 非労働力の就業希望別 求職活動の有無item_panelsurveys_toda01_92c76f58f42f8c9f109c678daae90aac.png

就職希望があるという意識や、すぐに仕事につきたいという意思があったとしても、実際に求職活動をしていない人が一定数いるため、非労働力の就業希望は必ずしも本気とはいえない状況だ。その背景として、たとえば2014年以前において本人なりに頑張って求職活動をしたものの仕事が見つからず、求職活動をあきらめてしまっていることや、本人が受け身になっていて自ら自発的に求職活動を行わない可能性もある。こうした非労働力の人たちの意識と行動のずれがなぜ起こっているのか、就業希望を持つという意識によって実際に就職につながっているのか、今後のパネル調査の蓄積を持って検討していきたい。

戸田淳仁(リクルートワークス研究所 主任研究員/主任アナリスト)

本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。