パワハラを誘発する組織文化をもつ業種とは ―金融・保険業の特殊性― 茂木洋之
リクルートワークス研究所(2020)「職場のハラスメントを解析する」のPart3では、パワーハラスメント(以下、パワハラ)がどういう職場で起きているかを分析した。そこでは組織文化(風土)がパワハラと密接に関連していることがわかった。たとえば、「社員同士が競い合っている」「業務外の職場でのイベント参加(飲み会など)を断りにくい雰囲気がある」「朝礼がある」という職場ではパワハラは増加する傾向にあることがわかった。
本コラムでは、このような組織文化(風土)をもつ職場がどのような業種で多いかを考察してみよう。
まず「社員同士が競い合っている」からみる(図1)。金融・保険業が24.6%と他業種と比較して、突出して競争が激しい環境であることがわかるだろう。金融商品や生命保険の販売などノルマが厳しく、成果がみえやすいことなども反映されていると思われる。
次に「業務外の職場でのイベント参加(飲み会など)を断りにくい雰囲気がある」をみる(図2)。こちらも金融・保険業が22.2%と最も高い。また、公務も21.2%と高くなっている。どちらの業種も規則やルールが多く、規律が厳しい。さらには明示されたルールだけではなく、暗黙の規則のようなものがあるということかもしれない。同調圧力が強く、職場の雰囲気などを重視する業種と言えそうだ。
最後に「朝礼がある」をみる(図3)。これも金融・保険業が60.5%と最も高い。またインフラ系の業種である、電気・ガス・熱供給・水道業も57.8%、製造業も54.5%と高い。これらの業種は組織風土にやや保守的な要素がある業種と言える。
以上をみると、金融・保険業の特殊性が浮かび上がってくる。金融・保険業は組織的な業務が多く、お金を扱うことからコンプライアンスなども厳しい。社内規則順守の社員教育が行きわたっており、何をするにしても社内ルールが厳格に適用される。また、保険や証券などの金融商品の販売はノルマが厳しく激務と言われる場合が多い。事実、リクルートワークス研究所(2020)での集計によると、金融・保険業における、ハラスメントを見聞きした人の割合は、23.5%と15業種のうちで3番目に多い(1番は医療・福祉の26.2%で2番は公務の26.0%である)。これらの組織文化が、上意下達で上の者には絶対服従という組織構造となり、パワハラを誘発している可能性が高い。業務の性質上、そのような要素をもっていることは仕方ない側面もあるだろう。しかし、これらの業種でパワハラが起きやすい土壌があることを、まずは自覚することが、パワハラを減らす第一歩となる。
図1 社員同士が競い合っている
図2 業務外での職場でのイベント参加(飲み会など)を断りにくい雰囲気がある
図3 朝礼がある
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
注1:2019年12 月時点で雇用者だったサンプルに限定している。
注2:各組織文化(風土)について、回答者の職場があてはまるか質問している。選択肢は「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」「どちらともいえない」「どちらかというとあてはまらない」「あてはまらない」の5件法としている。「あてはまる」と「どちらかというとあてはまる」を回答した人の割合を集計している。
注3:サンプルサイズは29248。
注4:ウエイトバック集計をしている。
茂木洋之(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。
※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
茂木洋之(2020)「パワハラを誘発する組織文化をもつ業種とは ―金融・保険業の特殊性―」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2020」Vol.6(https://www.works-i.com/column/jpsed2020/detail006.html)