どうして副業・兼業を行うのか ―これからの副業・兼業の在り方― 阿部正浩

2021年01月25日

新型コロナウイルスは私たちの働き方にも大きな影響を与えた。失業や休業を余儀なくされた人々が増えた一方で、テレワークが加速度的に普及して在宅ワークを行う人々も増加した。こうしたなかで注目されている働き方の一つが、本業とは別の仕事を行う副業・兼業だ。

副業・兼業については、2017年3月に政府が取りまとめた「働き方改革実行計画」において、「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図る」とされた。

では、副業・兼業を行っている人はどの程度いるのだろうか。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2020」を用いてみてみよう。表1によると、2019年に雇用者のうち副業を行っている者の割合は12.7%であり、正規の職員・従業員では10.4%、非正規の職員・従業員では16.1%となっている。また、副業をしなかったが今後したいと考える割合は、雇用者全体では35.7%で、正規の職員・従業員では37.2%、非正規の職員・従業員では33.3%となっている。実際に副業を行っているのは非正規の職員・従業員が多いが、副業を希望しているのは正規の職員・従業員に多い。いずれにしても、半数近い雇用者が副業に興味をもっていることがうかがえる。

表1 副業の有無と希望

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注1)副業希望は、副業をしていない人の割合を計算。
注2)XA20を用いたウエイトバック集計である。

政府が副業・兼業の普及促進の旗を振る理由の一つは、それが労働者の自律的なキャリア形成や創業・新事業創出につながると考えられるからだ。たとえば2017年3月に中小企業庁でまとめられた「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言」によれば、「創業促進の観点からみると、兼業・副業の促進によって潜在的創業者が増大し、(中略)『創業を考える人そのものが少ない』という日本の課題解決に大きく貢献する可能性があると考えられる」とされている。

では、人々は何を目的に副業を行ったり、副業を希望したりしているのだろうか。表2によると、副業を行っている人の理由(複数回答)として最も多いのは「生計を維持するため」(48.3%)で、次いで「生活を維持する最低限の費用以外に、貯蓄や自由に使えるお金を確保するため」(38.1%)である。「転職や独立の準備のため」とする人は5.9%、「新しい知識や経験を得るため」は13.1%で、キャリア形成や創業を目的とする人はむしろ少数派となっている。副業や兼業を行っている人の多くは本業だけでは収入が少なく、せざるを得ないという状況のようだ。とりわけ非正規の職員・従業員で副業を行っている人にはその傾向が強い。

表2 副業をしている理由(複数回答)※クリックで拡大します表2 副業をしている理由(複数回答)

注)XA20を用いたウエイトバック集計である。

同様のことは副業を希望する人たちについても言える。表3によると、副業を希望する理由として最も多いのは「生計を維持するため」(63.4%)で、「生活を維持する最低限の費用以外に、貯蓄や自由に使えるお金を確保するため」(62.0%)が次ぐ。「転職や独立のため」(9.7%)や「新しい知識や経験を得るため」(22.9%)を理由とする人は多くはない。

表3 副業を希望する理由(複数回答)※クリックで拡大します表3 副業を希望する理由(複数回答)
注)XA20を用いたウエイトバック集計である。

このように、副業・兼業が自律的なキャリア形成や創業・新事業創出につながっているわけではない。むしろ本業だけでは生活の安定や維持が難しい人たちが副業を行っているのが実態だ。さらに、本業と副業間での労務管理が明確でなく、労働時間が長時間化したり、休暇がなかったりすることも多い。表4によると、副業あり雇用者の労働時間は、本業では副業なしの人と比べて短いものの、副業の労働時間を加えると長くなっている。また、健康状態についても、副業あり雇用者は副業なしに比べて平均的に悪い。副業あり雇用者の労働時間が長く、健康状態が悪い傾向に関しては、正規の職員・従業員でもみられるが、特に非正規の職員・従業員で顕著だ。非正規の職員・従業員のなかで副業を行っている人は、上でもみたように本業だけでは生計維持がままならず、副業の時間が長くなるからだろう。

表4 本業と副業の週労働時間と健康状態2000_6-h4.jpg

注1)数値は「いつもあった」または「しばしばあった」と回答した割合
注2)副業の週労働時間が不規則な場合を除く。
注3)XA20を用いたウエイトバック集計である。 

こうしたことから、副業・兼業に対するセーフティーネットの拡充が進められている。まず、2020年3月に労働者災害補償保険法が改正され、同年9月から複数の事業主に雇用される副業・兼業を行う労働者が労働災害に遭った場合に、災害の発生した事業所だけでなく、雇用される事業所すべての賃金を合算して労災保険給付が算定されることになった。同時に、従来の制度では労災認定での業務起因性の判断は就業先の業務負荷等を個別に評価して行っていたが、今回の法改正により雇用されるすべての事業所での業務上の負荷を総合的に評価することになった。また、2020年9月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定され、副業・兼業の労働時間管理および健康管理についてのルールも明確化された。

今後は、副業・兼業を自律的なキャリア形成や創業・新事業創出につなげていくことが必要だ。そのためにも、本業における労働時間短縮や休暇付与などの副業支援だけでなく、キャリアカウンセリングなど個人のキャリア形成への支援も必要だ。これまでのキャリアの棚卸を行い、次のキャリアに向けて必要なスキルは何かを明らかにし、どのような副業が適当なのかを考える必要がある。人々が次の時代に向けてキャリアを準備するためにも、これからも副業・兼業の在り方を検討する必要がある。

阿部正浩(中央大学大学院経済学研究科 教授)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

 

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
阿部正浩(2021)「どうして副業・兼業を行うのか ―これからの副業・兼業の在り方―」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2020」Vol.7(https://www.works-i.com/column/jpsed2020/detail007.html)

 

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