時間と期間と:非正規から正規への登用 玄田有史
ひとくちに非正規雇用といっても、その内実は言うまでもなくさまざまである。まずは、パート、アルバイト、派遣、契約、嘱託など、職場での呼称が違う。さらになんといっても違うのは、就業時間と契約期間だ。
非正規雇用といえば短時間で働く有期雇用の人々というイメージが今も強い。しかし実際には正社員と同様の時間で働く場合も多いほか、無期雇用の非正社員も増えつつある。
表1には全国就業実態パネル調査(2016年・2017年)を用いて、2015年12月時点で正規の社員・職員以外で働き、2016年12月にも同じ企業で働いていた人々(在学中を除く)について、契約期間と週就業時間ごとの構成比を示した。
表1 非正規雇用に関する構成比(2015年の契約期間・週労働時間)
週就業時間を「一般時間(35時間以上)」「短時間(20~34時間)」「極短時間(20時間未満)」に分けると、それぞれ41%、37%、22%と、実のところ、一般時間が最も多くなっている。契約期間は、有期雇用が1年未満で39%、1年以上も35%と多いが、無期雇用も10%弱存在する。人手不足が深刻化するなか、正社員以外に対しても、通常の就業時間を求めたり、無期契約を結ぶことで就業確保をはかろうとしている企業は少なくない。
一方で、臨時的・補助的な業務を担うことが多いと予想される、1年未満の有期雇用かつ極短時間就業の非正社員は、7%程度とそれほど多くはない。問題なのは、自らの雇用契約期間がわからないという期間不明が、どの就業時間区分にも一定程度存在することだ。期間不明は非正社員のなかでも就業条件が著しく劣っていることが、全国就業実態パネル調査の分析から確認されている(注1)。
ではこのうち、翌年に同じ会社で正社員に登用されている場合が多いのは、どのようなケースだろうか。表2には、表1でみた契約期間と就業時間ごとに、正社員への登用率を求めた結果を示した。
登用率は全体で4.6%と、必ずしも高いとはいえない。特に低いのは1年以上の有期契約で極短時間働いている場合で、登用率は0.9%にすぎない。そのほかにも1年未満の有期契約で短時間もしくは極短時間働いている非正社員の登用率も1.6%、1.7%ときわめて低い。従来の非正社員のイメージに合致する有期契約の短時間就業からは、正社員に登用されることがほとんどないのは、事実といってもよいだろう。
対照的に非正社員のなかでも正社員への登用が進んでいるのが、無期契約で一般時間働く非正社員だ。その登用率は14.2%と、非正規全体の3倍以上に達している。表2をみると、無期契約と一般時間は、相対的に登用率が高くなっているが、さらにその両方を満たす場合には、正社員への登用可能性が一段とアップすることが、ここからわかる。
2018年4月からは通算5年を超える有期雇用者には、無期転換への申し込み権が発生することになる。無期転換は、必ずしも正規雇用への転換を意味するものではない。しかし、無期転換ルールの適用をきっかけに、一般時間で働く無期契約の非正社員が着実に増加していくならば、早晩、正社員へ登用される場合が増えていく可能性もある。
その意味でも、まずは無期転換ルールの今後の履行状況が、大いに注目されるところである[2]。
注1:玄田有史「雇用期間が不明な人々」
注2:戸田淳仁「無期転換ルールに当てはまる人はどれくらいいるか」によれば、無期転換ルールの対象者は893万人(非正規の46.7%)に達する可能性があるという。
玄田有史(東京大学社会科学研究所教授)
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