ジョブ・アサインメントモデルの全貌(2) 職務分担

2018年01月16日

本コラムでは、前回に引き続きジョブ・アサインメントモデルの詳細について解説していく。復習になるが、ジョブ・アサインメントモデルは「目標設定」「職務分担」「達成支援」「仕上げ・検証」の4つのステージからなる。今回は第2のステージである「職務分担」の内容を解説する。なお、ジョブ・アサインメントモデルにおいては、行動の主体はマネジャーである。

図1) ジョブ・アサインメントモデル~ステージB職務分担~

第2のステージ、職務分担とは、「最適な人選を行い、職務を委任する」ことである。第1の目標設定のステージで設計した職務のいくつかを束ねて、一定のまとまりごとにどの部下に任せるかを計画する。次に、一人ひとりの部下に、確実に職務を任せられたという意識を持たせるのが、このステージのゴールであり、このステージが、ジョブ・アサインメントの中核ともいえる。

職務分担のステージは2つのステップからなる。どの職務をどの部下に担当させるかを決める「人選」のステップと、部下が納得して職務に取りかかれるようなかたちで職務を任せる「職務委任」のステップだ。ここでも、それぞれのステップにおける重要なポイントを抽出している。

まずは、人選のステップとそのポイントについて見ていこう。

ステップ3 人選

職務分担のステージにおける最初のステップが「人選」である。人選の定義およびこのステップのポイントについては図2を参照されたい。既に第1のステージ、目標設定で、組織の目標を達成するために必要な職務はすべて明らかになっている。それらの職務がすべて完遂されるために、複数ある職務を束にして、いくつかの職務の束からなるまとまりを作り、どの部下に任せるべきかを検討するのが、このステップの目的である。これに加えて、一人ひとりの部下が、任せられた職務に対してやりがいを感じたり、その職務の遂行を通じて成長実感を持つことができるか、という職務を通じた部下の成長についても、このステップで検討しておく必要がある。

図2) ジョブ・アサインメントモデル~ステップ3 人選~

ここからは、人選においてポイントとなる「分配戦略」「職務の再編と統合」「ストレッチ」「最適マッチング」の4つを解説する。

ポイント1  分配戦略:職務の担当を重複させるのか、完全に切り分けるのかを決める

人選のステップにおける最初のポイントは「分配戦略」である。部下が職務を担当するときに、一つの職務を複数の人が重複するように担当させることを許容するのか、そうではなく完全に重なりが発生しないように切り分けるのかを決めることをいう。同じ職務を複数の人が担当するというのは、一見すると非効率にも思われるが、目標が達成できないというリスクを回避することになる場合もある。また、部下のモチベーションや能力開発の側面から、非効率が発生するとしても、部分的に同じ職務を複数の人にアサインすることもありうる。一方で、限られた人数で高い目標を達成しなければいけないという状況の中で、職務の担当を重ねることなく、完全に切り分けて部下に任せることもひとつの方法である。このように職務の分配の方針を決めることが「分配戦略」である。

ポイント2  職務の再編と統合:部下の働くうえでの制約などを理解し、職務の組み合わせ方、任せ方を検討する

2つ目のポイントは「職務の再編と統合」である。これは、部下の労働時間に制約がある場合や、欠員が生じた場合など、組織のコンディションに応じて実施する。基本的には、職務は関連性のあるもの同士を束にして、一人の部下に任せるものだが、状況に応じて、職務の束からいくつかの職務を抜いたり、抜かれた職務を別の部下に託したりすることが必要になる。また、人員数と完遂すべき職務の量のバランスが取れない場合には、部分的にアウトソーシングを検討することも必要であろう。こうした、状況に応じた対応をするのが「職務の再編と統合」だ。

ポイント3  ストレッチ:今期、特に成長させたい部下を選ぶ

3つ目のポイントは「ストレッチ」である。組織の中でも、特に成長させたいと考えている部下には、今の実力では達成が難しく、少し背伸びが必要な職務を、あえて選ぶ。ただし、すべての部下にストレッチを求めることは、いたずらに疲弊を招き、目標を達成できないリスクを増やすことにつながる。普段から部下の働きぶりや状況をよく観察したうえで、ストレッチした職務や目標を課す部下を選ぶことが重要だ

ポイント4 最適マッチング:それぞれの職務に求められる知識・スキル・経験を洗い出し、それぞれの部下の知識・スキル・経験や、志向、適性と照らし合わせて任せる職務を決める

4つ目のポイントは「最適マッチング」である。最適マッチングは、まさにジョブ・アサインメントの核心といっても過言ではない。複数の職務の束ね方、またその職務の束と複数の部下の組み合わせには、無数のパターンが存在しうる。その無数の組み合わせの中から、一人ひとりの部下にとって過剰な無理がなく、また逆に力があり余ってしまうような無駄もなく、なおかつ組織としての目標を達成できるように、すべての職務を割り振り切る必要がある。組み合わせを決めるにあたって考慮するのは、職務が期待される水準で完遂されるかどうか、職務を任される部下にとって、成長をもたらし、やりがいを感じさせるような分配になっているか、部下が適切な労働時間で職務を完了できるか、といった点である。

ステップ4  職務委任

職務分担のステージで人選の次にくるのが「職務委任」のステップである。人選の段階で、どの部下にどの職務を任せるかを確定した。職務委任のステップでは、実際に、部下一人ひとりに、具体的に職務を任せていく。このステップにおける重要なポイントは図3にまとめたとおりである。職務を任される部下が、職務の目的や責任について腹落ちしており、高いモチベーションとともに職務に取りかかれる状態をつくりあげることが、このステップで目指すゴールだ。

図3) ジョブ・アサインメントモデル~ステップ4 職務委任~

職務委任のステップでポイントとなるのは、「手挙げ誘導」「意義付け」「工数・納期管理」「報告ルール決定」「権限委譲」である。以下にひとつずつ解説していく。

ポイント1 手挙げ誘導:任せる職務を、部下が自ら選び取ったかのように仕向ける

第1のポイントは「手挙げ誘導」である。基本的に、部下はマネジャーが決めて割り振る職務を引き受けるのであり、部下自身が職務を選択する余地はあまり与えられていないことが多い。しかし、他者に割り振られた仕事をするよりも、自分自身の意思で、自分がやりたいと思う仕事をするほうが、モチベーション高く仕事に取りかかれるはずである。また、自身で決断したことに対しては、自ずと責任感が生まれるため、その仕事を最後までやり遂げようとする意識も向上すると考えられる。手挙げ誘導とは、こうした効果を期待して、マネジャーの心のうちでは部下に任せる職務を決めているにもかかわらず、あたかも部下が自分自身でその職務を選んだかのような状況をつくることをいう。これは、職務委任の中でも高度な技術や経験を必要とする行動であるが、これができるようになると、より自然なかたちで部下を動機づけることが可能になる。

ポイント2 意義付け:部下に、任せる職務の重要性や意義・意味を理解させる

第2のポイントは「意義付け」だ。部下に一連の職務を割り振るにあたって、部下自身が、その職務を自分がやるべき理由に納得して職務を引き受けられるように、任せる職務の本質的な価値や事業戦略上の重要性を丁寧に説明することを指す。職務についての理解が表面的なものに留まらないよう、マネジャーの視点・経営の視点から、任せる職務の重要性を伝えることが必要になる。また、マネジャー自身が一方的に考えを述べるだけではなく、部下の意見を傾聴し、部下への期待を伝え、最終的に部下の納得を確認することも重要である。

ポイント3 工数・納期管理:部下との協議のうえで、職務を完遂するために必要な時間を想定し、納期を決める

第3のポイントは「工数・納期管理」である。一連の職務を任された部下が、とりあえず手近なところから取りかかるのではなく、職務を終わらせるべき時期や、仕事全体を通じての繁忙の度合いを考慮しつつ、優先順位や手順を決めて職務を開始できるように、職務の完遂に必要となる時間や納期を相談して決定する。職務の難易度と、部下の経験や能力に応じて、職務の完遂にどの程度の時間がかかるのかは変わってくるため、優先順位や取りかかる時期については個別に調整することが必要である。また、意義付けの時と同様に、マネジャーがすべてを決定するのではなく、部下自身の判断を踏まえたコミュニケーションを通じて合意することが大切である。

ポイント4 報告ルール決定:進捗状況の報告のタイミング・方法を取り決める

職務委任のステップにおける4つ目のポイントは「報告ルール決定」である。職務を部下に任せたとしても、職務を完遂し、目標を達成する最終的な責任はマネジャーに帰属する。そのために、マネジャーは適切にそれぞれの職務の状況を知っておく必要がある。部下が、任された職務にどのように取り組んでいるか、またその進捗などの状態は適切であるかをマネジャーが適時把握しておけるよう、進捗状況の共有方法や共有の頻度を事前に決めておくことが大切である。すべての職務に対して一律に報告を求める必要はなく、それぞれの職務の重要度や局面に応じて、報告の方法や頻度は変えることができるだろう。

ポイント5 権限委譲:部下に仕事を任せる際、仕事を遂行するために必要な権限を部下に与える

職務委任のステップにおける最後のポイントは「権限委譲」である。具体的には、どの程度までであればマネジャーに相談せず、本人の裁量で職務の進め方や予算を決定してよいか明確にすることだ。また、部下が職務を進めやすいように、任せる職務に関係者がいる場合には、関係者に対しても部下に委譲した権限のレベルを伝えておくことが重要である。「権限」の範囲が明確になっていれば、部下はそのなかで、自分なりに考えて職務を進めていくことが可能になる。

以上がジョブ・アサインメントの第2ステージである職務分担の内容である。ステップ3の人選により、多様な職務をどの部下に任せればよいかを明らかにする。また、ステップ4の職務委任によって、部下が高い意欲を持ち、明確な針路を理解したうえで職務を開始する状態をつくりあげることができる。

さて、我々が考えるジョブ・アサインメントは、部下に職務を任せたら終了、というものではない。
部下に任せた職務が順調に完遂され、最終的に組織としての目標を達成するために、マネジャーとして、職務の遂行フェーズをサポートしていく必要がある。次回のコラムでは、ジョブ・アサインメントの第3のステージである「達成支援」について解説する。

※内容を更新したため、差し替えました(2019.1.18)