テレワークによる生産性向上や仕事満足にも労働者代表は必要だ 玄田有史
前回、本コンテンツで「テレワーク普及には労働者代表が有効だ」(2020年11月25日掲載)というコラムを書いた。
2020年春に発出された緊急事態宣言の期間中、労働者の利益を代表して交渉してくれる組織や手段が職場にあったという雇用者ほど、テレワークを実施していた割合は高かった(注1)。その理由として、職場を離れて働く上で個々の雇用者が抱える課題の解決に向け、労働者代表がまとめて交渉してくれたことで、会社もテレワークを実施しやすくなった可能性がある。
だが、労働者代表が有効なのは、テレワークの実施に限らない。実施後に、仕事の生産性や満足度を高めるためにも、労働者代表は重要な意味を持っている。
図表1 労働者の利益を代表・交渉する組織・手段の有無とテレワーク実施後の状況
注)労働者を代表して交渉してくれる組織・手段が確保されているかの問いに対し「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」場合に「あり」、「どちらともいえない」「どちらかとういうとあてはまらない」「あてはまらない」場合に「なし」とした。
図表1は、2020年の緊急事態宣言の期間中、テレワークをしていた人々について、2019年12月に比べて自身の仕事の生産性が「とても上昇した」もしくは「上昇した」と答えた割合を、労働者代表の有無別に示した。期間中に代表する組織や手段がなかった場合、生産性が向上した割合は12.5%にとどまった。一方、代表があった場合には20.8%と、大きな開きが生じていたのである(注2)。
さらに図表1では、宣言期間当時、テレワークでの「仕事そのものに満足していた」かという問いに「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」と回答した割合も示されている。代表がない場合、仕事に満足していた割合は28.4%だった一方、代表がある場合は実に53.3%と過半数に達していた。
これらの結果は、テレワークに伴う悩みや困りごとについて、労働者代表が会社にすみやかに伝達・交渉して、解決がはかられたことが、生産性向上や仕事満足に寄与していた可能性を示唆している。
その他臨時追跡調査と2020年1月実施の本調査を接合することで、緊急事態宣言の発出前後の労働者代表の変動状況もわかる。宣言発出前の2019年1~12月の期間と、発出後の宣言期間の両方で、労働者代表が存在しなかった人は74%にのぼる。逆に前後ともにあった人は10%に限られる。発出前はあったが発出後なかった人は9%、発出前はなく発出後にあった人が7%だった。
上記の労働者代表の変動に関する類型別に、宣言中のテレワークの実施割合と、図表1と同様、テレワーク実施後の生産性向上と仕事満足の割合を求めたのが、図表2である。
図表2 緊急事態宣言発出前後の代表有無とテレワークに関する状況
注)「あり」「なし」の区分は図表1と同様。緊急事態宣言の発出前は2019年1月から12月、発出後は4月16日から5月14日の状況。
宣言発出前後ともに代表がなかったとき、テレワーク実施割合は著しく低い。ここからもテレワーク実施への労働者代表の重要性が確認できる。
生産性については、宣言期間中の労働者代表の存在が向上につながっている。発出前に代表がなくても、発出後に代表が存在したことで21.3%が生産性は向上したと回答し、発出前後ともなかったときの12.7%を大きく引き離している。
仕事満足も宣言発出後に労働者代表が存在したときに高くなっている。特に、発出前になかった代表が緊急事態に伴い新たに設置されたケースでは、仕事満足割合は突出して高い。感染拡大を受け労働者代表の設置を緊急に実現できた職場ほど、労使双方によりよいかたちでリモートワークを推進できたことを物語っている。
2020年12月に厚生労働省が発表した「令和2年労働組合基礎調査の概況」によれば、労働組合の推定組織率は11年ぶりに上昇した。非組合員だった非正規雇用減少の影響も考えられるが、難局を乗り切るための労働者組織への期待を反映した可能性もある。
新しい働き方を可能にする労働者代表の役割について、改めて見直す時が来ている。
注1:使用データはリクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2020」および「臨時追跡調査」。対象は2020年春の緊急事態宣言の期間(2020年4月16日から5月14日)および2019年12月の両時点で雇用され、19年12月に就業していた仕事を20年6月末にも離転職しなかった7728名。本コラムの分析も同一サンプルを用いた。
注2:雇用者数は2020年6月追加調査用新クロスセクションウェイト(XA20TC)でウェイト付けした。以下同様。
玄田有史(東京大学社会科学研究所 教授)
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所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。