Vol.14 ルノー
「テレワークを導入して10年以上、成熟されたノウハウは一見の価値あり」
セシル・ド・ギイユボン氏
アライアンス・グローバル・ディレクター
グローバル・ファシリティー・マネージメント ルノーVP
リアルエステート&ファシリティー・マネージメント
情報提供協力
アルメル・ヴォティエ氏
グループ・ルノー テレワーク担当責任者
自動車販売台数で世界トップに躍り出たルノー(ルノー・日産・三菱アライアンス)。アライアンスのさらなる成長のためには今後も強いリーダーシップが不可欠であるという理由から、2018年2月15日の株主総会でカルロス・ゴーンCEOの続投が決定した。ルノーは、テレワークが世間で注目されるかなり以前から企業合意を結ぶなど、フレキシブルワークのパイオニアとしても知られている。テレワークが公式に導入されて10年以上の企業はフランスでも珍しく、成熟されたノウハウは一見の価値がある。
同社のテレワーク導入のキーマンであるド・ギイユボン氏は、金融業界でM&Aを担当した後、リアルエステート・マネージング分野で25年活躍した経験を持つ。2013年に総務部のトップとしてルノーに入社し、アライアンス・グローバル・ディレクターという肩書きの下、グループ全体で1000人のスタッフを従えている。グループが世界40カ国に保有する、計1万3000平方キロメートルに及ぶ資産(工場敷地、オフィス、支店、R&D施設など650拠点)の有効利用を統括する重要なセクションである。2008年よりテレワークに関連する業務は総務部が担当している。
テレワークのパイオニア
ルノーでは、2000年頃からテレワーク導入に関する検討が行われていました。テレワークが「生産性向上」「通勤ストレスの軽減」「QOL(生活の質)の向上」に直接貢献するという展望から、ほかの企業に先駆けて2007年に最初の企業合意を締結しました(※1)。
製造業としては非常に画期的なもので、メディアでも多く取りあげられました。現在のルノーでは、テレワークが可能な職種に従事し、パリ近郊の主要施設に勤務する社員の20%弱に当たる3200人が日常的にテレワークを実施しています。テレワークの希望者数は2008年の172人から毎年20%のペースで増加しています。マクロン政権が推進する労働法典改定の一環として、テレワーク促進を盛り込んだ政令(※2)が発令されたこともあり、テレワークは今後もさらに大きく前進することが見込まれています。
ルノーがテレワークのパイオニアである理由は、単なる流行りではなく、会社が成長するための重要な戦略の一部であるというビジョンを上層部と社員が早々に共有できたところにあると言えます。
しかし、導入当初から順風満帆というわけではなく、多くの反発や課題が生じました。その都度、試行錯誤を繰り返して解決してきた事例はほかの企業にとっても参考になることでしょう。
手本とされるテレワーク導入と管理方法
ルノー独自のテレワークシステムは、シンプルながら非常によくできたものです。テレワークは以下の4つのステップを踏んで導入されます。
ステップ1:3つの分野に関するアンケートに回答
- 「テレワーク希望者の業務詳細」と「モチベーション」
- 「上司や同僚とのコミュニケーション」
- 「技術面」
ステップ2:自宅の適合性診断(電気配線、環境など)
テレワーク場所となる自宅がテレワークに適しているかの診断。[2010年から自宅以外の第二の場所として別荘も認められるようになった(※3)]
ステップ 3:上司との面談・承認
ステップ1、2 の結果をもとに話し合いを行い、上司の承認を得る
ステップ4:本人、上司、人事部の三者で署名
雇用契約書の変更(avenant)に本人とその上司の二者が署名し、人事部は電子署名を行う
技術的な問題は、技術サポート部によって早期解決しますが、目の前にいない部下を新たな基準によって評価しなければならないマネジャー側のサポートは、課題となっています。そもそもフランスには仕事場にいることを重視する「プレゼンティズム」が深く根づいていますので、メンタリティが進化するには時間がかかるのかもしれません。
2010年から自宅以外の「第二の場所」もテレワーク場所として認められるようになりましたが、あらかじめテレワークが許可された本人の別荘で、かつテレワークに適している環境であると認められた場合のみ可能です。また、コワークスペースなどの公共スペースでのテレワークは認められていません。そのため、日中の多くを社外で過ごす営業職や、通勤時間を短縮したいが自宅ではテレワークができない従業員などのために、サテライトオフィスの実現が急がれています。
データで見るルノーのテレワークとその効用
テレワーク頻度で一番多いのが週1日(60%)で、続いて週2日(31%)、週3日(7%)、週4日(2%)です。週3日以上のケースは特別な事情を考慮した場合のみ許可されています。テレワークを導入した理由では、「通勤時間の節約のため(49%)」、次いで「プライベートな事情(30%)」、となっています。また、導入後に断念したケースは稀で、定期的に行っているアンケートでは、テレワーカーの100%が「現状に満足している」とし、77%が「パフォーマンスアップにつながった」と答えています。
テレワークが可能な業種に就く社員の平均年齢は45.5歳で、職位別では、「管理職(49%)」「従業員(51%)」となっています。テレワークは認められているが実施していない社員の81%が「今後の導入を考えている」と答えていることから、今後も活用が大きく延びることが予想されています。
なお、テレワーク申請が却下されたケースは過去10年で2%のみですが、理由は「従事する職種がテレワーク不可能」「社員の独立性が確立されていない」などが挙げられています。
環境配慮の観点からは、2016年に自動車の走行距離にして1300万キロメートル分が節約され、1855トンのCO2削減に貢献しました。公共交通機関の利用は2500万回分節約されたことになります。フランス全体、世界全体で考えると軽視できない数字です。
拠点の合理化が柔軟性を会社にもたらした
2010年以降、ルノーが保有する多くの拠点が全体の合理化の観点から閉鎖されました。老朽化が指摘されていたパリ近郊ルイユの拠点が2014年に売却・閉鎖された際には、数千人の従業員が、パリ南西郊外のブーローニュやパリから1時間の拠点に異動になりましたが、通勤時間が1時間以上も増えたケースなどが続出し、テレワークの希望が殺到しました。
また、業種柄、ルノーでは多くの社員が自動車通勤していますが、2016年の大気汚染時に発令された自動車ナンバーによる交通規制は大きな足かせとなり、通勤手段を失った社員からもテレワークの希望が多くなされました。こうした背景から、2014〜2016年にテレワーク希望者が爆発的に増え、新たな枠組みが必要になりました。これが、大きな話題となった2017年の労使合意につながります。2017年1月に締結された労使合意はテレワークを含む柔軟な働き方を視野に入れた「職場におけるQOL」「社員の育成・キャリアパス」「接続を切る権利」「フレキシブルな労働条件」に重点がおかれました。
テレワークの利点
変化するオフィス概念
社内アンケートでも、マネジャーの47%が自身は「ノマド」であり、決められた机を持つ必要がないと答えており、テレワーカーの33%は自分のオフィスをほかの社員とシェアすることに賛成しています。傾向を見ると、最近建設されたルノーの新しいオフィス内では、個人専用のスペースが少なくなった代わりにコラボレートスペースが多く配置されています。このような動きはグループの海外拠点でも進んでおり、スペインなどではオフィスシェアを導入し、ヨーロッパや米国でもこうしたパイロット・プロジェクトが次々とスタートしています。ブーローニュの社屋では社外の人も利用できるコワークスペース「TALISMAN」が誕生し、広く活用されています。
ルノーでは、オフィスシェアの概念や、2017年9月の政令の内容を盛り込んだ、より柔軟性に富んだテレワークを可能にすべく、新しい企業合意を2018年秋以降に発表する予定となっている(※4)。今後もルノーは新しい働き方のパイオニアとして世間を引っ張っていくオピニオンリーダーであり続けるのであろう。
※1 2010年6月22日にはいくつかの変更箇所が盛り込まれたAvenant(変更版)が発行された。
※2 2017年9月22日に発令された政令は、「テレワークで就労する権利」が導入され、雇用契約書の変更なしにテレワークを導入できるようになるなど、テレワーク制度の簡素化が盛り込まれている。
※3 2010年より自宅以外の第二の場所として別荘も認められるようになったが、自宅でのテレワークが事前に許可された者が申請できる。また、コーワーキングスペースや公共の場所は認められていない。
※4 新しい企業合意は2018年11月現在労使交渉中であり、合意が発表され次第、その内容を追記予定。