Vol.13 エンジーIT

「会社と社員がウィン・ウィンな関係を構築するフレキシブル・ワーク」

2018年07月26日

ジャン=クリストフ・ブロシェ氏
エンジー・インフォメーション&テクノロジー(エンジーIT)人事部長

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エンジー(ENGIE)は世界約70カ国に展開する、社員数15万人規模のエネルギー・グループ。第 2 次世界大戦直後、フランス・ガス公社(GDF)としてフランスのガス開発・供給市場を独占してきたが、2008年に民間のスエズグループと合併し民営化された。2015 年に エンジーに社名を変更し、現在は電気・ガス供給で売上額は世界第3位。水力、風力などの再生可能エネルギー開発にも力を入れている。

2013年、エンジーグループ内の全企業の情報処理システムを統括する100%子会社エンジー・インフォメーション&テクノロジーが設立され、現在グループ全体の情報処理を統合・合理化し、IT関係の仕入れコストを抑えることを目指している。グループ全体のITソリューションを開発し、情報インフラのアプリケーションサービスを提供する。社員数は600人、年商は4億ユーロ。エンジーITは業務柄、テレワークがしやすい環境にあり、グループのテレワーク牽引役を担っている。

エンジーITのオフィスは2015年2月に移転し、現在はパリ北近郊のサントゥアン市にある。「クリニャンクールの蚤の市」として有名な移民系住民の多い庶民的な町だが、近年は再開発が進んでいる。エンジーITのオフィス内部はカーブした廊下の両側がストールで仕切られており、壁がないせいか、広々としたオープンスペースのようになっている。エンジー本社のあるデファンスのオフィスの一部でも「フレックス・オフィス」というオフィスシェアが導入されているが、エンジーITは2015年2月より全社員がスペースを共有する「フレックス・オフィス」を採用した。エンジーITでのテレワークの取り組みについて、ジャン=クリストフ・ブロシェ氏にお話を伺った。

快適でダイナミックな労働環境作り

サントゥアンの新しいオフィスでは、個人デスクは置かず、パソコンが並ぶ細長いデスクには私物は一切置かれていません。数人がディスカッションしながら仕事のできる「プロジェクトルーム」、カフェのようにくつろいで仕事のできる「デザイン・シンキングルーム」のほか、一人で集中したい時は「ビュル(シャホン玉という意味)」というスペース(連続使用は 2 時間まで)があります。

5 年前、エンジーグループは過渡期にあり、民営化による労働環境の急激な変化からか、社員のモチベーション低下が見られました。私はエンジーIT創設直後にグループ内のコフリー社から移籍してきたのですが、その時に経営陣に指示されたのは、まず、雇用契約の見直しと社員の「充足感(bien- être)」を向上させる方策を考えることでした。

快適でダイナミックな労働環境を作ることを自社の基本方針としました。そのために、個人主義、所有主義(個人デスクの所有)をなくして、社員間のコラボレーションを推進するような、よりフラットな労働環境を作ることにしました。それまでは上司に2~4人の部下を配し、一人ひとりがデスクを持つという伝統的なスタイルでしたが、それをコミュニティー的な考え方に移行し、スペースを分け合い共有するというスタイルにしたのです。

97%の社員はフレックス・オフィスに満足

2015年のオフィス移転6カ月後に行った調査では、97%の社員がフレックス・オフィスに「とても満足している」という結果でした。通勤時間が非常に長くなった社員が多いにもかかわらず、仕事空間が快適でテクノロジー環境もよくなったという回答が得られました。

フリーアドレスという方法に最初はとまどう人もいましたが、試行錯誤を経て利用ルールもその都度改善しました。翌年9月には、トップダウン型組織で誰も責任を取らないという弊害をなくすために、職位を5~6階級から 管理職と非管理職の2階級のみに変更しました。その結果、社員の90%が管理職となりました。

人の管理、予算の管理、仕事の管理、仕事のクオリティー管理と、一見、責任が重くなりましたが、彼らは前より責任感を持って自主的に仕事をするように変わっていきました。責任を与えられることによって、やる気が出て充足感が増したのでしょう。

フレックス・オフィスからテレワークへ

テレワークについての社内労使協約(※1)を結んだのは2014年です。技術面ではテレワークに問題はありませんでしたから、テレワーク協約はできるだけフレキシブルなものにしました。週1~2回までの、曜日は固定してもいいし、変更可能にしてもいい。働く時間を厳重に規定しない代わりに、会社の要請(24~48時間前に通告)に応じて出社することを条件にしました。また、テレワークの理由が育児や家庭の事情だけであってはいけません。会社は社員に柔軟性を約束しますが、社員も会社に対して同様に柔軟であることが求められます。

現在、45%の社員がテレワーク協約に署名しており、うち女性が6割で、75%が40歳未満です。近年採用した人の3分の2が署名していますので、2年後にはテレワーク協定に署名する社員の割合は55~60%になるでしょう。テレワークを導入したことで、優秀な人材の採用も容易になりました。ただ私自身はテレワーク協約に署名しているものの、毎日朝8時から夜7時まで会議続きですから業務がテレワークには向いておらず、実際にテレワークしたのはこの冬に大雪で出勤できなかった1日だけでした。

一番難しかったのは、マネジャーの指導

以前は社員のプレゼンスによって部下を管理していましたが、遠隔で管理指導しなければならなくなったことで迷いが生じたマネジャーの指導に一番時間を費やしました。

テレワークでは仕事のやり方も扱う仕事も違い、事前の準備が必要になります。テレワーク導入時には外部のコンサルタント会社の指導を受けて、研修を実施し、6カ月の試験期間を設けました。

本来、仕事というものは一人ではできない。他の人とのコンタクトが必要です。テレワークがそもそも自分に合っているかどうかも含めて、仕事のオーガナイズの方法を考え、テレワークのルールも徹底させました。

テレワークのルールとは

具体的には、自宅での仕事であっても着替えること、子どもを迎えに行くのに30分ほど留守にしてもいいけれども、それ以外は連絡が可能な状態にしておくこと、などです。今のところシステムはうまく機能しているとは思いますが、4年経った今でもいわば試験期間中のようなものですから、常に改善していかなければいけません。

2016年末、「労働生活の質(QWL)」を毎年評価することに決め、労働環境の改善を図っています。テレワークについても毎年、その評価をすべきだと思っています。夜8時以降はメッセージのやり取りをしない、もしその時間に受信しても返信する義務はないなど、新たな「時間憲章」を策定すべく検討しています。

フレキシブル・ワークへ向けて時間蓄積制度を利用

社員のほとんどが管理職ですから、週労働35時間制に縛られる必要はないのです。休日、祝日、有給休暇を除く年間労働日は213日と定められており、それをフレキシブルに使って、やるべき仕事をすればいい。自社では労使協約によって時間蓄積制度(Compte épargne-temps)(※2)を採用しているので、休暇や休日、賞与なども時間に換算してこの貯蓄に加えることができますし、社員の利用を奨励しています。

例えば、家庭生活と仕事のバランスを取るために一時的にパートタイム労働をしたい社員は、貯めた日数に50%加算した時間を利用できます。10歳未満の子供がいる親が子供の用事で1日休みたい場合は、この貯蓄から休みを取る、という具合に臨機応変に使うことができます。

さらに、人道支援活動に参加したい人や、仕事と関係のある個人的なプロジェクトを実行したい人は、貯めた日数に50%加算して3年ごとに20日間まで利用することもできます。つまり、プレゼンスも何時間働いたかは重要ではなく、どれだけ社員が仕事に自主的に取り組み、満足できるかが大事なのです。多くの社員がこの制度を利用してフレキシブルに働くことで充足感が増しています。会社と社員双方に利益があるウィン・ウィンな関係を構築することができるのです。

※1 エンジーITのテレワーク協約では3カ月の試験期間があり、テレワー クを中止することもできる。協約は 1 年間有効で、更新も可能。テレワーク1日につき5ユーロの手当を支給。
※2 時間蓄積制度は、消化しなかった有給休暇(営業日24日間の法定年間有給休暇は除く)や休日を貯蓄し、別の機会に休みを取得したり、金銭で還元してもらえる制度。1994年に制定されたが、導入は義務ではない。制度の詳細や利用法は各企業の労使協定によって定められる。