米国のシニアワーカーの実態

ケイコ オカ

2025年01月20日

シニアワーカーはどのような仕事に就いているのか

今回は、米国の65歳以上労働者(シニアワーカー)の実態について紹介する。
米国労働統計局の人口動態調査(Current Population Survey)によると、16歳以上の就業者数は約1億6104万人、うち65歳以上の就業者数は約1088万人であった(2023年の数字) 。65歳以上の就業者で最も多いのは「マネジメントの職業」(約170万人、15.6%)に就く人で、次いで「営業、販売の職業」(約121万人、11.1%)、「事務、管理補助の職業」(約114万人、10.5%)となっている(図表1)。

【図表1】シニアワーカーの職業別割合(%)

シニアワーカーの職業別割合(%)

出所:U.S. Bureau of Labor Statistics, “Labor Force Statistics from the Current Population Survey.” (2024) https://www.bls.gov/cps/cpsaat11b.htm (last visited December 20, 2024)に基づき筆者作成。

次に、各職業に占めるシニアワーカーの割合を見てみると、16歳以上の就業者数に占める65歳以上の割合は6.8%で、これが基準となる。最も多いのは「法務の職業」(11.3%)で、次いで「コミュニティ、社会サービスの職業」(9.1%)、「農業、漁業、林業の職業」(8.9%)となっている(図表2)。個々の職種を見ると、「医療、看護、技師の職業」の中の「歯科医」(14.0%)、「法務の職業」の中の「弁護士」(13.1%)、「医療、看護、技師の職業」の中の「医師」(12.2%)といった専門性の高い職業でシニアワーカーの割合が高いことがわかる 。

【図表2】各職業に占めるシニアワーカーの割合(%)

各職業に占めるシニアワーカーの割合(%)

出所:U.S. Bureau of Labor Statistics, “Labor Force Statistics from the Current Population Survey.” (2024) https://www.bls.gov/cps/cpsaat11b.htm (last visited December 20, 2024)に基づき筆者作成。

シニアワーカーは勤続年数が長い

シニアワーカーの多くは、リタイアメントを遅らせて長年勤務した職場で働き続けている。米国労働統計局によると、16歳以上の労働者の勤続年数の中央値は3.9年だが、年齢別に見ると、25~34歳で2.7年、35~44歳で4.6年、45~54歳で7.0年、55~64歳で9.6年、そして65歳以上では9.8年と、年齢が高くなるほど勤続年数が長くなっている(図表3)。
米国の労働者は頻繁に転職を繰り返している印象があるが、年齢が上がるにつれて安定志向が強まるようである。

【図表3】現在の職場における勤続年数の中央値(年齢層別、年)

現在の職場における勤続年数の中央値(年齢層別、年)

出所:U.S. Bureau of Labor Statistics, “Employee Tenure in 2024” https://www.bls.gov/news.release/pdf/tenure.pdf (last visited December 20, 2024)に基づき筆者作成。

シニアワーカーには個人事業主が多い

65歳以上の就業者のうち個人事業主として働く人は16.9%と、他の年齢層と比べて高い割合を占めている(図表4)。男女別では男性のほうが個人事業主として働く人の割合が高く、男性は20.4%、女性は12.6%であった。
なぜシニアワーカーに個人事業主が多いのだろうか。その理由の1つとして、65歳以上になると米国政府が運営する健康保険「メディケア」に加入できるため、雇用主が健康保険を提供するかどうかを気にする必要がなくなることが挙げられる 。また、個人事業主であれば、自分の都合に合わせて働く時間を調整しやすく、シニアワーカーが望むライフスタイルに合わせて働くことができる。

【図表4】就業者に占める個人事業主の割合(年齢層別、%)
就業者に占める個人事業主の割合(年齢層別、%)

出所:U.S. Bureau of Labor Statistics, “Contingent and Alternative Employment Arrangements -July 2023.” (2024) https://www.bls.gov/news.release/pdf/conemp.pdf (last visited December 20, 2024)に基づき筆者作成。

多世代型労働力の構築を目指して

シニアワーカーの知識や経験は、若い労働者の業績やエンゲージメントの向上に役立つため、シニアワーカーを積極的に活用したいと考える企業は少なくない。
しかし、課題もある。米国の労働者の多くは、キャリアのある時点で年齢を理由に不公平な扱いを受けたと感じており、50歳以上の64%が職場で年齢差別に直面しているという調査結果もある 。
現在、シニアワーカーを人材システムに統合するプログラムを実施している企業は少ないが、今後、高齢化が進むにつれて、シニアワーカーを労働力として活用する需要が増大すれば、Z世代からシニア世代までのあらゆる世代の労働者を包括的に活用するための人材統合プログラムの導入が期待される。
OECDは、多世代にわたる労働力を構築し、高齢労働者により多くの働く機会を提供することで、今後30年間で1人当たりGDPを19%増加させることができると推定している 。
若年労働者と高齢労働者が相互に補完し合い、チームのパフォーマンスと生産性を向上させるためには、次のような企業努力が必要である 。

  1. 年齢バイアスを排除し、さまざまな年齢や文化を受け入れる。
  2. あらゆる年齢層の従業員の健康とウェルビーイングに投資する。
  3. キャリアを通じた従業員のスキルの継続的な開発を促進する。

そして、企業、多世代労働力、社会がそれぞれ利益を実現できるよう、政府が企業と社会的対話を重ねて適切な政策を採用し、実践していくことが求められる。

(※1)U.S. Bureau of Labor Statistics, “Labor Force Statistics from the Current Population Survey.” (2024) https://www.bls.gov/cps/cpsaat11b.htm (last visited December 20, 2024)
(※2)図表中の職業分類は、米国連邦政府共通の職業分類(SOC)による「中分類」で、「歯科医」「弁護士」「医師」という具体的な職業は「中分類」の中の「小分類」になる。
(※3)米国労働統計局の過去の調査結果を見ると、個々の中央値に若干の変化はあるものの、この傾向は20年以上前から見られる。
(※4)米国政府が運営する健康保険に加入できるのは、障害者や高齢者など一部の人たちのみである。通常は、雇用主が提供する健康保険に加入するか、自費で民間の保険に加入する必要がある。州によって異なるが、多くの場合、雇用主には従業員に健康保険を提供する義務がないため、フルタイムの従業員でも健康保険を提供されないことがある。また、提供されても自己負担が高額になることが少なくない。自費で民間の保険に加入する場合は非常に高額な保険料を支払わなければならず、持病のある人は加入を拒否されることもあるためハードルが高い。
(※5)AARP, “Age Discrimination among Workers Age 50-Plus.” (2022)
https://www.aarp.org/research/topics/economics/info-2022/workforce-trends-older-adults-age-discrimination.html (last visited December 20, 2024)
(※6)OECD, “Promoting an Age-Inclusive Workforce.” (2020) https://www.oecd.org/en/publications/promoting-an-age-inclusive-workforce_59752153-en.html (last visited December 20, 2024)
(※7)前掲6

ケイコ オカ

2001年大阪大学大学院法学研究科博士課程修了。専門は労働法。同年4月よりリクルートワークス研究所の客員研究員として入所。労働者派遣法の国際比較や欧米諸国の労働市場政策を研究する。