採用数は8,500名超、新卒を大量採用する米国企業の採用手法
売上高178億ドル、従業員数約8万3,000名を誇る世界最大の車両レンタルサービス企業、エンタープライズ・ホールディングス※1。米国で新卒者の一括採用を大規模に実施する同社のインターンシッププログラムと新卒採用について、タレント獲得部門バイスプレジデントのマリー・アーティム氏にうかがった。
約200名のリクルーターで、8,500~9,000名の新卒者を採用
エンタープライズ・ホールディングスでは、エントリーレベルの人材採用が人材調達の主軸です。中でも、大学新卒者の採用は採用戦略の中核を占めています。新卒社員を社内で育成し、人事、物流、購買、サプライチェーン、営業&マーケティングなど各業務分野の経営幹部に登用しています。つまり、経営幹部のほとんどが生え抜きの人材です。こうした採用・育成方法を可能にしているのが、マネジメント・トレーニング・プログラムという当社の人材育成システムです。
エントリーレベルの人材採用では専攻は問いません。マネジメントに興味があり、学ぶ意欲、組織と共に成長する意欲を持っていることが採用要件です。結果的にビジネス関連専攻やコミュニケーション、リベラルアーツなどの学部出身者が多くなる傾向はありますが、それ以外の学部出身者にも門戸は開いています。新規採用数は、今年度は8,500~9,000名。インターンシッププログラムには1,700名を迎え入れます。これだけの数の人材を、約200名のリクルーターで採用しています。
採用もインターンシップも各事業拠点が独立的に展開
採用活動は各地域の事業拠点が独自に実施しています。地域ごとに人材ニーズ予測と採用目標を立て、タレント調達マネジャーとリクルーターがそれに基づいた採用活動を行います。インターンシップに関しても、本社にインターンシップコーディネーターは置かず、各地域の採用担当者がプログラムを管理運営しています。また、インターン生を直接管理するのは各支店のマネジャーであり、彼らがインターン生にトレーニングとサポートを提供します。
地域分散型の運用なので、たとえば、ニューヨーク地区のプログラムがどのように運用されているか、本社にいる私は詳細を把握していません。本社では、各現場が必要なツール、リソース、コンサルテーションなどを確保する環境を整えた上で、包括的な指針を示します。それに対して各地域の採用担当者は、インターン生採用や正社員登用などの結果を我々に報告する義務があります。一方で、インターンシッププログラムの目的、インターン生への期待、プログラムを通して学ぶ内容などについては、組織全体で認識を共有し、一貫性を保ちつつプログラムを運用できるよう努めています。
インターン生と新規採用正社員は同じ職務内容
インターンシッププログラムの期間は10~12週間で、勤務時間は週40時間が標準的です。本社の管理部門に配属されるインターン生もいますが、その数はわずかで、ほとんどのインターン生が支店のマネジメントチームに配属されます。
当社のインターンシッププログラムの最大の特徴は、新規採用正社員が入社後参加するマネジメント・トレーニング・プログラムとまったく同じ職務にインターン生が就くことです。仕事内容は顧客サービス、営業、さらには財務などの内部管理業務まで幅広い分野に及びます。
トレーニングは、業務を体系的に体験できるよう十分に配慮しつつ、すべてOJTベースで実施します。
入社時点で同期の一歩先を行けるメリット
マネジメント・トレーニング・プログラムの実施期間は、通常8~12ヵ月間。最初の3~4ヵ月を無事終了すれば昇給があり、任せられる職務範囲も広がります。インターンシップでマネジメント・トレーニング・プログラムの当初2~3ヵ月間を体験すれば、プログラムの第1ステージをほぼ終えたと同じ。その後正社員として当社に入社すると、インターンシップに参加せずに入社した新入社員よりワンステップ先を行くことができます。
インターン生のパフォーマンス評価も正社員とまったく同じ方法で、数字ベースのパフォーマンスマトリックスを用いて行います。加えて、インターン生に関しては毎週1対1の面談を持ち、何を学んだか、業務遂行状況も確認します。プログラム終了時点では、より正式なかたちでフィードバックを行います。
インターン生の正社員登用率向上が最大の課題
現時点では、インターン生の正社員登用率は約50%。正直に言って、これを高めていくことが現在の課題だと私自身は考えています。採用マネジャーは、翌年の5月に卒業して社会に出るインターン生に対して、1年近くも前に内定を出すことに消極的です。インターン生がプログラムを終える時点で、彼らを正社員として迎えたいというメッセージをいかに説得力をもって伝えられるか。この課題に重点的に取り組んでいます。
優秀なインターン生をめぐる企業間の競争は激化しつつあります。したがって、現場のマネジメントに対して、インターンシップは空いたポストを数ヵ月間埋める手段ではなく、体験教育・学習の一環として体系化されたプログラムであることを啓蒙していかなければなりません。そうすることで、インターン生に有意義と感じてもらえる強いプログラムを構築できるからです。
取材協力=CareerXroads
TEXT=小林誠一
プロフィール
マリー・アーティム氏
全社的な人材採用戦略及び指針を策定・運用するタレント獲得業務のリーダー。約200名のエンタープライズ社のリクルーター向けに、採用広告、マーケティング、インタラクティブメディア、トレーニングプログラム、各種プログラムの企画開発を行っている。2011年7月~2012年6月には、NACE(全米大学就職協議会)の理事長も務めていた。