正社員登用率9割以上。Ernst & Young(EY)のインターンシップ
世界4大会計事務所(Big 4)の一角を占めるEY。約4,000名ものインターン生を迎えながらも、きめ細かな対応でその90%以上が正社員になるという。同社のインターンシッププログラムについて、人材採用活動全般の責任者、ダン・ブラック氏にうかがった。
目的は優秀な人材確保とインターン生を通じたブランディング
当社のインターンシッププログラムの第一の目的は、優秀な人材の確保です。プログラムを通じてインターン生の当社に対する関心やエンゲージメントを高め、卒業と同時に正社員として入社してもらう。この目的は、少なくとも私がEYの採用業務に関わってきた20年間、変わりません。現在、当社のインターン生の正社員登用率は90%を超えています。
一方、ここ10年間で第一の目的に匹敵するほど重要度を増しているのが、キャンパスにおける当社のブランディング強化です。当社のインターンシップに参加した20歳の学生ほど、同年齢の学生に当社について説得力をもって語れる人間はいません。我々にとって、インターン生は採用ブランディング活動におけるアンバサダーの存在。私や他のパートナーがキャンパスに出向いても、決して果たすことができない役割です。
ターゲット校に絞ったインターン生採用活動
当社のインターン生採用規模は約4,000名ときわめて大きく、その90%をターゲット校から採用したいと考えています。ターゲット校からの採用を重視するのは、応募者数を対処できるレベルに制限することと、人材の質を確保するためです。残りの10%は様々なソースから採用しますが、公募はしません。90年代に公募をしたこともありますが、資格要件を満たさない応募者が大量に押し寄せてしまい、選別が難しくなりました。そのため現在では、ソーシャルメディアからのアウトリーチ、付き合いのあるキャリアセンターでの募集掲示などのような方法で採用を行っています。
米国全体で4,000名ものインターン生を採用するわけですから、残りの10%といっても400名。一般的なインターンシッププログラムより大規模です。ターゲット校の学生でなくても、当社のインターンシッププログラムに参加するチャンスは十分にあります。
インターン生に顧客サービスを任せる
インターン生の期待は高まり続けています。自分の能力を伸ばせて意義のあるインターンシップをしたい、正社員はどんな仕事をするのか実感したいと強く希望しています。そうした期待に応え、インターン生が心から面白いと思うタスクを提供することが、正社員として彼らが戻ってきてくれるかどうかの鍵を握ります。当社では、インターン生のほぼ全員が顧客にサービスを提供し、正社員にできる限り近い業務に就けるようにしています。
特に採用したいと思う人材には、インターンシップを二度オファーします。一度目は、学年が若い時期に財務のような管理部門で。二度目は、監査やコンサルティング部門など、外部顧客と接触する部門に配属します。また、インターン生に正社員と同等のタスクを経験させるために、新卒採用の正社員はインターンシッププログラムが終了するまで開始せず、両者が重ならないように配慮しています。
有意義なインターンシップ体験を支援するインターンシップコーディネーター
当社ではインターンシップを徹底的に管理しており、全社レベルで設定した方針や戦略を実現するために、各地域にインターンシップコーディネーターを配置しています。コーディネーターの役割は非常に幅広く、オンボーディング(インターンシップ生の受け入れから職場への定着)にはじまり、インターン生が顧客と接触する機会や意義のあるタスクを与えられているか、プログラムの最後にきちんとしたフィードバックを受けているかなどのチェック、さらには退職プロセスの監督までに及びます。
インターン生を日々監督するのは、クライアントチームのシニア会計士やコンサルタントです。インターン生のパフォーマンスは、他の従業員と同じようにチームワーク、分析スキルなど、複数のコンピテンシーに基づき判定し、フィードバックします。顧客、シニアマネージャー、直属の上司の三者がインターン生にフィードバックするのが理想です。
不断のイノベーションで、プログラムの効果を高め続ける
当社のプログラムは、これまで幾度となく全米で「最優秀インターンシッププログラム」に選ばれています。これは、不断のイノベーションの成果だと思います。近年では、インターン生候補の学生を発掘するためのリーダーシップサミットと称するイベントや、グローバルインターンシップを始めました。
さらに昨年、採用チームの中にインターン生候補向けのソーシングアドバイザーというポジションを設けました。ソーシングアドバイザーは、学生の希望勤務地などに耳を傾け、それを配属に反映するべく努めます。そうすることで、採用プロセスにおける候補者のリテンション率を高め、インターン生から正社員への登用率も高められます。重要なのは、インターン生の希望に沿ったよりよい体験を積んでもらうこと。そうすれば、学生は当社のさらに強力なアンバサダーになってくれるでしょう。
取材協力=CareerXroads
TEXT=小林誠一
プロフィール
ダン・ブラック氏
1997年から2013年6月まで、16年以上にわたり南北アメリカのエントリーレベル人材及びインターン生の採用を担当。2013年6月からは、アメリカ大陸グローバル地域における、全事業部門/全レベルの人材採用の責任者として活躍している。NACE(全米大学就職協議会)の前理事長でもある。