ダイバーシティ経営におけるナショナリティの需要
エレクトロラックス
世界150を超える国と地域に広がる製品群
小型家電製品部門ヴァイスプレジデントであるPaul Palmstedt氏によると、現在のエレクトロラックスの掃除機へと繋がるアイデアが生まれたのは、1908年。創立者のアクセル・ヴェナー・グレン氏は、高額な業務用掃除機を「もっと軽く、もっと安いものにして一家に一台届けよう」と考えた。その後、初の家庭用電気掃除機である「LUX1」の開発に成功。軽量かつ手頃な価格で販売を開始し、1919年のエレクトロラックス創業の礎となった。
以降、同社の掃除機は、コーポレートスローガンである「Thinking of you」をもとに機能・デザイン面でユーザー視点での改良が加えられた。その後、100年を経て、世界を代表する家庭用電気製品および業務用電気製品メーカーとなり、150を超える国や地域で年間5,000万台以上の製品を販売している。
現在の主力商品は、冷蔵庫、食器洗い機、洗濯機、掃除機、調理器、空気清浄機で、8つの戦略ブランドにて販売されている。主な商品分類のシェアは、調理家電が60%、洗濯機17%、消耗品・備品など10%、小型家電8%、業務用5%。特徴は、家庭用・業務用ともに、お客様の本来のニーズに応えられるよう考え抜かれてデザインされた革新的な製品で、北欧をはじめ世界各国から支持を受けている。
日本のヒット商品は、掃除機の「エルゴラピード」、環境汚染が深刻化している中国にはUVを加える商品など、その国にあった商品を開発している。
拠点設置に重要な2つの視点
現在、生産拠点は、東ヨーロッパ、北米、南米、中東アフリカ、アジアの5地域に置いている。これは2つの理由があるが、1つは生産コストを下げること。2つ目はその地域を成長させることである。2年間にチリに会社を獲得し、南米の大部分をカバーすることになった。次に、メキシコに生産拠点を置き、北米の市場を拡大した。エジプトにも生産拠点と市場を拡大した。
コスト面では、10年間かけて、西ヨーロッパから東ヨーロッパに、カナダから北米に、オーストラリアからタイに生産拠点を移すことで大幅削減することができた。アジアではタイはとても重要な拠点となっている。
グローバル企業に大切なのは"ダイバーシティ(多様性)"
同社は先頃、ゼネラル・エレクトリック社(GE)の家電部門との合併を発表した。GE家電部門の2013年の売上高は57億米ドル。合併により大きなマーケットシェアを獲得する。世界市場の競合は、LG、サムスン、ヨーロッパではシーメンス、ワールプールである。
事業継続には、性別、国籍、年齢などのダイバーシティが大切と考えている。従業員は世界に6万1,000人いるが、例えばダイバーシティ経営におけるナショナリティは重要で、その国の文化や女性活用についても理解している人がふさわしく、当該国の人材がトップに就くべきと考えている。現在、アジアの責任者はスウェーデンの女性だが、北米企業は米国人、ヨーロッパはヨーロッパ、オーストラリアはオーストラリア人、ラテンアメリカはブラジル人が運営している。
GEの従業員は1万2,000名。GEとの合併によって、最も難しいのは統合だと考えている。
世界で"最高の"電化製品会社になる
人事・組織開発部門のシニアヴァイスプレジデントであるLars Worsøe-Petersen氏によると、同社の目標は「人間に良いインパクトを与えること」、家族のために健康的な食事を作る、空気をきれいにする、過ごしやすい環境を作るなど、人間に良いインパクトを与えることである。特に環境問題は重要と考えており、持続性は欠かせない。
同社の競争優位は、グローカル、消費者ニーズへの対応力、世界に通用するデザイン力、専門性(特に業務用機器、同社の製品はミシュラン企業の半分が利用、ソチオリンピックも使用された)、スカンジナビアの伝統、幅広い商品、サステナビリティ、そして人と文化である。
そんな同社のビジョンは、世界最高の電気製品会社になること。それを評価するのは、製品の利用者である顧客、従業員、そして株主である。
それらの概念を、「ストラテジーハウス」と呼ばれる図に示している。屋根は自分たちの目的、ビジョン、そして、利益のある成長、イノベーション、優れた業務管理、人とリーダーシップを4本の柱としている。その土台は、価値観、イノベーションへの情熱、顧客への配慮、結果の追求。基盤は尊重とダイバーシティ、倫理と品位、安全とサステナビリティである。
"変化を作るのは人"
人材計画に関しては、報酬・評価(他社と遜色のない)、パフォーマンス・マネジメント(パフォーマンスとそれに対する報酬)、人材・組織、企業文化、学習・開発の5つを基盤としている。基本的に、経験・70:新しいものへの挑戦・20:職業教育・10のバランスで考えている。
"変化を作るのは人"という考えのもと、タレントマネジメントやリクルートメントにも力を入れている。社内外におけるグローバル労働市場を開き、ウェブサイト上に公募している。現在の空きポスト情報は152件、社内のホワイトカラー職は約2万人在籍しているが、そのうちの約5,000人が毎月閲覧している(従業員によるリファラル制度は設けていない)。専門職など特別なタレント性のある人材の採用にはソーシャルメディアのLinkedInとパートナーシップを結んでいる。現在、自分たちは適切な人材を抱えているのか、人材に関する問題については頭で考え、心で考えるなど時間をかけて考察している。
また、従業員の満足度を把握するために、2年ごとに、ホワイトカラーを中心に従業員意識調査を行っている。エンゲージメント、組織能力、戦略・目的、価値・基盤、リーダーシップという5つの指標で測定し、全体の事業を改善するために、様々な角度でレビューを行っている。
リーダーシップ・モデルとチームシップの重要性
同社のリーダーの定義は、情熱的でビジネスマインドのある人であること。「ビジネスリーダーであり、人のリーダーである」こと。それぞれ50%、50%というバランスが求められ、この2つの要素を兼ね備えた人がリーダーとして認められる。
例えば、管理職の面接では2つの質問をする。「Aさんは、今の仕事の中で目立つような業績、成績を上げてきたか」「Aさんは人から信頼されているか」答えは"Yes"か"No"のどちらか。両方"Yes"であれば管理職として登用される。どちらかが"No"であれば登用しない。CEOとともにPetersen氏は世界を回り、200人の管理職と率直な意見を交わしている。評価や育成においても、この2つの要素を基にし、両方を満たしていない場合、配置転換を行うこともある。
リーダーシップとともに重要視しているのが、チームシップである。例えば、ロープを同じ方向に引くと強度が増す。それと同じことで、ハイパフォーマンスチームはチームシップが重要であると考えている。それを推進するチームシップのコンセプトには、共通の目標、透明性、連携協力(コラボレーション)、エンゲージメントの4つが大事で、この4つができる人材を採用している。
女性管理職は4分の1
同社の女性比率は、グループ全体では32%。シニアマネジャーでは22%、管理職では25%、取締役会では33%である。同業種では高い比率と評価されているが、ここに至るまでに約10年間を要している。
各国での取り組みに関して、ノルウェーではクォータ制など法律で一定の数値を義務付けられているのでそれにのっとっているが、他の国や地域では実績を重視し女性を登用している。今後の課題は、研究職における女性比率が25%、さらに管理職が3~4%にとどまっているため、引き上げが必要となっている。そのため、管理職候補にはシニアマネジャーをメンターに付けるなどの施策を設けている。
育児期のパパ・ママ・クォータ制度の利用など、男性への休暇取得も推進しており、時短制度も活用されている。ただし、諸制度は機会の提供であり、女性でトップマネジメントを目指す場合は、諸制度を取得しながらのスローキャリアでは難しく、個人のキャリア選択によるところというのが現状でもある。