フィンランドの概況 [雇用・労働]

2015年05月21日

1.経済概況

フィンランドの2012年の実質GDP成長率はマイナス1.0%だった。欧州債務危機の長期化に伴い、受注減、工場閉鎖が相次ぎ、景気が急速に悪化したことによる。企業が設備投資を手控え、総固定資本形成が0.8%減、個人消費も0.3%増と低迷したことに加え、輸出も0.2%減と不振だった。
2013年に入って景気は更に悪化し、実質GDP成長率はマイナス1.4%となった。個人消費が0.8%減、総固定資本形成が4.6%減と内需が冷え込んだことに加え、輸出も0.3%増と低迷が続いた。

財務省は2013年8月、2014年(暦年)予算案を発表した。歳入472億ユーロ、歳出539億ユーロで67億ユーロの赤字予算。この結果、対GDP比でみた2014年の一般政府財政収支は2.9%で、3%未満に辛うじて収まる見込みとし、一般政府債務残高は49%になるとした。同予算案の中で、政府は2014年のフィンランド経済について、2014年は1.2%のプラス成長に転じると予測した。
なお、2014年1月1日から法人税を24.5%から20%に引き下げた。item_hokuou_finland01_fin_01.jpg

2.雇用関係

(1)雇用契約形態及びその手続き

雇用契約法によると、雇用主は最初の給与支払い前に書面による契約書を交わす義務がある。あるいは従業員が特にそれを望まない場合でも、主要な雇用条件の概要を示す義務がある。契約に記載する項目は以下の通り。
両当事者の名前、住所、労働開始日、雇用期間(未定ならその旨記載)、試用期間、主要な職場の場所、主要業務、適用される労使協定、給与算定根拠、給与支払日、勤務時間、休暇算定根拠、契約終了の通告期間、海外勤務の長さ(プラス外貨での給与支払いなど)。

(2)試用期間

最長4カ月。ただし、従業員が就職後訓練を受けるような場合は期間を6カ月に延長できる。

(3)退職

通知は書面で行う。通知は勤務期間の長さによるが、最長6カ月。

(4)解雇

試用期間中はただちに通告して解雇できる。その他のケースでは法的に正当な根拠がなければならない。つまり当該従業員の不適格(アルコールの過剰摂取、突然の勤務拒否)、経済的・生産的事情(不況、販売不振、会社の組織変更などにより恒久的に仕事がなくなるなど)あるいは別の会社に事業部門が移転したなどの理由がないと解雇できない。解雇通知は個人宛に書面で行う。解雇通知期間は、勤務期間の長さによって異なり、勤務期間が1年以下:14日、1年超~4年以下:1カ月、4年超~8年以下:2カ月、8年超~12年以下:4カ月、12年超:6カ月。

(5)定年

定年は通常65歳。雇用契約にあらかじめ60歳と規定することは可能だが、その場合、年金保険料が増額される。老齢年金は65歳から雇用年金と国民年金として支給される。しかし、特定の職業については労使協定により、65歳より低い年齢に定年が決められる。よって56~64歳で何かの職に就くものはパートタイム年金を、完全に無職となるものはフルタイム年金を60歳から受け取れる。なお、年金の受給は65歳以降に延ばすこともできる。

 

3.労働時間関係

(1)労働時間

基本的には1日8時間、週40時間と労働時間法により定められているが、パン屋のような特殊な職業によって部分的に例外がある。また、3週間当たり120時間、あるいは2週間当たり最高80時間という例外もある。それ以外に病院、船、酪農業などでの雇用では例外がある。

(2)残業の取扱い

残業は従業員の同意を得た上で、暦年で最高250時間まで。しかし、4カ月に138時間を超えてはならない。

4.休暇制度関係

(1)休暇制度

4月1日から3月31日の間に24日~30日有給休暇を取得できる。日数は月当たり2日(同じ事業所に12カ月以上連続で勤務した場合は2.5日、すなわち年30日)と算出される。基本的に夏季休暇として5月2日から9月30日の間に24日間、冬季休暇として6日間の休暇消化が奨励されている。冬季休暇は同一職場に1年以上勤務すると取得資格を得る。夏季休暇を5~9月の間に最低2週間連続で取得すべきとする法令もあるが、労使協定や企業側との同意が優先され、多くの場合、職場で業務に支障がなく、同意が得られれば1年間に有給日数を消化すればよい。有給休暇とは別に病気休暇が取得できるため、病気やけがなどで欠勤しても年次有給休暇が減らされることはない。病気休暇については、法令では1カ月につき9日間は有給で取得可能。また、労使協定により、通常、給与の50%が7月の給与に上乗せして休暇手当として支払われる。

(2)病欠

従業員が病気になり働くことが不可能になれば雇用主に連絡した後、職場を休める。雇用主は、9日を超えないなら、その範囲でこの間の給与を全額支払う義務がある。雇用して1カ月以内の場合はその支払いは50%。9日超になると国民健康保険の取り扱うところとなり、対象者は所得の損失補てんの疾病手当が60日受け取れる。この時、申請者はフィンランドの居住者でなければならない。フィンランド国民の場合は特段の要件はない。

(3)産休

妊娠した従業員は産休が取れる。産休をとり始める少なくとも2カ月前に雇用主に申し出る必要がある(出産予定日の3~4カ月前)。産休は父親にも適用され、18日間の出産休暇が取れる。産休は180日間で、母親はこの産休期間中、国民健康保険から産休手当が支給される。この手当は給与額の約55%にあたる。この間に雇用主が給与を支給することはあまりないが、昇給は普通である。

5.賃金関係

(1)最低賃金

雇用契約法によると給与は労働の対価として支払われるものであり、給与はその労働に通常見合うものでなければならないとされている。雇用主は労使協定に最低賃金の根拠を求めるべきとされ、もしそのような規定が無い場合には、同法では「通常の正当な賃金」と規定している。

(2)時間外手当

残業は最初の2時間は時給の50%増、それを超えると100%増。残業手当を支払わない場合はそれに見合う労働時間を休むことができる。

(3)社会保障費

社会保障費はフィンランドで働くすべての者のために支払わなければならない。雇用主のレベルに応じて3つのカテゴリーがあるが、最も一般的な場合では給与の21.1%(2002年)が社会保障費に支払われる。内訳は雇用主が16.7%、従業員は4.4%負担。給与のグロスにより計算し、従業員負担分が徴収される。その他、失業保険が同様にあり、雇用主0.7~2.7%(支払給与額により変動)、従業員負担は0.4%である。また労災保険(0.357~7.269%)及びグループ保険(平均0.086%)は雇用主が全額負担(いずれも事業所により異なる)する。

6.労使紛争解決のための法的手続き

雇用契約、労働条件、不当解雇、差別などに関する紛争は地方第一審裁判所で取り扱われる。公になるのを避けるため調停で解決されることがあるが、どの労使協約が適用されるべきかという紛争の場合は労働裁判所で取り扱うこととなる。

出所 岩井晴美・独立行政法人日本貿易振興機構海外調査部欧州ロシアCIS課アドバイザーの解説・資料より作成
独立行政法人日本貿易振興機構「欧州各国の雇用制度一覧」(2009年8月)より作成