ノンデスクワーカーの賃金を探る
どの程度の賃金を得ているのか
ノンデスクワークがなぜ多くの人たちにとって魅力的ではないのかを考える際、賃金の問題には触れざるを得ない。警備員やドライバー、建設作業者の人たちはどの程度の賃金を得ているのだろうか。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から一般労働者(全従業員から短時間で働く従業員を除いた人のことを指す)の残業代を除く平均年収をとってみると、ノンデスクワーカーの賃金は全職種の平均より明確に低いことがうかがい知れる(図表1)。
警備員の平均年収は311万円と全職種平均の460万円よりも3割強低い。運輸部門を見ても、大型貨物自動車運転者(トラックドライバー)は368万円、タクシー運転者は265万円などと同様にかなり低い額である。建設躯体工事従事者(387万円)、土木従事者(367万円)はこれらの職種の中では比較的高い給与を得ているが、それでも職種平均には遠く及ばない。ノンデスクワークには、多くの求職者を遠ざける要因としてこうした実態があるということだ。
図表1 ノンデスクワーカーの平均年収(一般労働者)
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
注:年収は所定内給与(基本給)の額に特別給与の額(賞与)を足した額で算出している。所定外給与(残業代)は除いている。
ノンデスクワーカーの賃金カーブはフラット
平均の賃金が低くても、その職種で経験を積み技術を身につけていくことで賃金が上がっていくのであれば希望は持てる。
しかし、賃金プロファイルを描いてみれば、経験による賃金の上積みも難しいことがわかる。図表2は20~24歳時点の年収を100としたときの各年齢階層の賃金指数をとったものであるが、ノンデスクワーカーの賃金カーブはフラットに近い。
トラックドライバーやタクシードライバーは年齢によらず賃金はほぼ一定に近い形状を描く。警備や運搬、清掃といった職種は中堅層でやや賃金が高まるが、職種計と比較するとかなりフラットな賃金カーブとなっている。一方で、建設作業者は職種計と似たような賃金プロファイルとなっており、年をとるごとに賃金が上がっていく。
実際に、平均年収の水準を見ると図表3のようになる。若いころは職種間で賃金にはあまり大きな差はないのだが、歳をとるにつれてその差が広まっている様子が見てとれる。若年や高齢の労働者は日々の大きな支出がないためそれでもやっていけるかもしれないが、結婚して家庭を持った人にとって見れば、とても生活していける賃金とはいえないだろう。
図表2 職種別の賃金カーブ(一般労働者)
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
注:賃金は平均年収を表す。平均年収は所定内給与(基本給)の額に特別給与の額(賞与)を足した額を占めている。所定外給与(残業代)は除いている。
図表3 年齢別の平均年収(職種別、一般労働者)
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
注:平均年収は所定内給与(基本給)の額に特別給与の額(賞与)を足した額を占めている。所定外給与(残業代)は除いている。
非熟練だが人の役に立つ仕事がある
この現実をどう捉えるべきか。経済学の理論に従えば、賃金は個々人の労働生産性に連動して決まるはずである。そう考えれば、これらの職種は経験を積んでも労働生産性が高まりにくいことを示唆している。つまり、同職種は仕事を通じて熟練し、賃金が上がるというプロセスが踏みにくい非熟練の職種なのである。
警備員やドライバーのような非熟練の仕事が悪い仕事だといいたいのではない。むしろノンデスクワーカーとして働いている人たちの存在が日本社会を豊かにしていることは間違いないと私は考えている。しかし、それと同時にこれらの職種が熟練しにくいことは両立する事実なのである。
非熟練だが人の役に立つ仕事が世の中にはたくさんある。この事実は多くの人たちを困惑させる。なぜなら、人はキャリア教育の中で、仕事を通じて熟練し、熟練した技術をもってして誰かの役に立つことが良いことだと教え込まれているからである。そして、誰しもがキャリアとは成長を通じて自己実現を図り、それを通じて社会に貢献していくものだと信じている。しかし、そのような既存の「キャリア」の枠組みにあてはまらない職種が実際には世の中に多数存在しているのである。
多くの人が求めるキャリア観と現実の仕事のニーズとの大きなギャップ。そのようなギャップがおそらく現状のミスマッチを生んでいるのだろう。
執筆:坂本貴志